言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2012'09.02.Sun
「空を泳ぐ金魚は、どうやって捕まえたらいいんだろう」
誰にでもなくぽつりとつぶやく。孫次郎が日陰から見上げる初秋の青空を、真っ赤な金魚が長い尾鰭を揺らして泳いでいる。飛んでいるというのだろうか。ちらちらと自由に動き回る金魚は美しく、孫次郎は届かない手を伸ばした。
「孫次郎は金魚に見えるの」
孫次郎がびくりとして飛び上がる。ごめん、の声に振り返ると、三治郎が申し訳なさそうに眉を下げていた。しかしすぐにばっと明るいいつもの笑顔になる。
「生物委員会集合だって。また誰かが逃げたみたい」
「三治郎は何に見えるの?」
三治郎は顔をしかめる。悪いことを聞いただろうかと取り消そうとしたが、三治郎はうなって首を傾げた。
*
青空よりも、夕日に染まった空の方が金魚は生き生きしているように見えた。長屋に帰る途中に空に金魚を見つけ、孫次郎は足を止める。優雅に、力強く金魚は宙を舞う。あの金魚は金魚鉢で飼えないのだろうか。蓋をしなければ飛んでいってしまうだろうか。
見入っている孫次郎をからかうように、ひらひらと金魚は近づいてくる。日が沈むのに合わせて距離が縮まる。孫次郎は思わず手を差し出した。警戒も見せない金魚はまるで孫次郎を目指すように泳ぎ、孫次郎は嬉しくなって金魚を待つ。夕闇が迫る中で、金魚はいっそう赤く見えた。
金魚を捕まえたらそっと手で包み、竹谷に育て方を聞きにいこう。籠で飼うのなら平太に籠を作ってもらって、飼うのは難しいと言われても必ず自分で最後まで面倒を見るのだ。
手に金魚が触れんばかりに近づいた瞬間、金魚をかき消すように宙から焼け爛れた真っ黒な腕がつきだした。孫次郎が息を飲む間にその腕は孫次郎の手を鷲掴み、恐ろしい力で宙につり上げる。
「こらぁっ!」
孫次郎を引きずり降ろしたのは日向であった。普段は陽気な先生が眉をつり上げ、孫次郎を掴んだ腕を払い落とす。たくましい体に抱かれた孫次郎の背中に、三治郎が抱きついた。孫次郎の視界の端に、斜堂が何かを追っていく姿が見える。
「もう大丈夫だ」
顔を上げると日向がいつも通りの、まぶしいほどの笑みを向けていた。まだ何が起きたのか理解できないが、腕に残る痛みは確かなものだ。背中にしがみついた三治郎は肩を揺らして嗚咽をあげている。熱い涙が背中を濡らしていき、じわじわと遅れてやってきた恐怖に足がすくむ。ぼろぼろと涙がこぼれ、日向は三治郎ごと孫次郎を抱きしめた。
*
あれからも金魚は現れる。優雅に空を舞い、時折見える者を誘っている。黄昏時を泳ぐ金魚を見ながら、孫次郎は隣で同じく方を見ている三治郎に聞いた。
「三治郎には何に見えるの」
「……炎」
それもまた、美しいのだろう。
誰にでもなくぽつりとつぶやく。孫次郎が日陰から見上げる初秋の青空を、真っ赤な金魚が長い尾鰭を揺らして泳いでいる。飛んでいるというのだろうか。ちらちらと自由に動き回る金魚は美しく、孫次郎は届かない手を伸ばした。
「孫次郎は金魚に見えるの」
孫次郎がびくりとして飛び上がる。ごめん、の声に振り返ると、三治郎が申し訳なさそうに眉を下げていた。しかしすぐにばっと明るいいつもの笑顔になる。
「生物委員会集合だって。また誰かが逃げたみたい」
「三治郎は何に見えるの?」
三治郎は顔をしかめる。悪いことを聞いただろうかと取り消そうとしたが、三治郎はうなって首を傾げた。
*
青空よりも、夕日に染まった空の方が金魚は生き生きしているように見えた。長屋に帰る途中に空に金魚を見つけ、孫次郎は足を止める。優雅に、力強く金魚は宙を舞う。あの金魚は金魚鉢で飼えないのだろうか。蓋をしなければ飛んでいってしまうだろうか。
見入っている孫次郎をからかうように、ひらひらと金魚は近づいてくる。日が沈むのに合わせて距離が縮まる。孫次郎は思わず手を差し出した。警戒も見せない金魚はまるで孫次郎を目指すように泳ぎ、孫次郎は嬉しくなって金魚を待つ。夕闇が迫る中で、金魚はいっそう赤く見えた。
金魚を捕まえたらそっと手で包み、竹谷に育て方を聞きにいこう。籠で飼うのなら平太に籠を作ってもらって、飼うのは難しいと言われても必ず自分で最後まで面倒を見るのだ。
手に金魚が触れんばかりに近づいた瞬間、金魚をかき消すように宙から焼け爛れた真っ黒な腕がつきだした。孫次郎が息を飲む間にその腕は孫次郎の手を鷲掴み、恐ろしい力で宙につり上げる。
「こらぁっ!」
孫次郎を引きずり降ろしたのは日向であった。普段は陽気な先生が眉をつり上げ、孫次郎を掴んだ腕を払い落とす。たくましい体に抱かれた孫次郎の背中に、三治郎が抱きついた。孫次郎の視界の端に、斜堂が何かを追っていく姿が見える。
「もう大丈夫だ」
顔を上げると日向がいつも通りの、まぶしいほどの笑みを向けていた。まだ何が起きたのか理解できないが、腕に残る痛みは確かなものだ。背中にしがみついた三治郎は肩を揺らして嗚咽をあげている。熱い涙が背中を濡らしていき、じわじわと遅れてやってきた恐怖に足がすくむ。ぼろぼろと涙がこぼれ、日向は三治郎ごと孫次郎を抱きしめた。
*
あれからも金魚は現れる。優雅に空を舞い、時折見える者を誘っている。黄昏時を泳ぐ金魚を見ながら、孫次郎は隣で同じく方を見ている三治郎に聞いた。
「三治郎には何に見えるの」
「……炎」
それもまた、美しいのだろう。
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