言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2012'08.09.Thu
竹谷の隣を歩いていた狼がぴくりと耳を動かし、顔を上げる。それに気づいて竹谷も足を止め、森を見渡した。風で木々がざわめくのが不穏に感じられ、竹谷は狼の背に手を添える。
小さいとはいえここはキリンタケの領内だ。かすかに感じる気配を見過ごすわけにはいかない。
――風が凪いだ、一瞬。竹谷は振り返ってくないを構える。
「松風!」
竹谷の声で狼が藪へ飛び込むのと入れ違いに、姿を現した忍者が振り下ろしたくないを受け、竹谷はぎりぎりで持ちこたえながら口笛を鳴らす。力だけで押さえつけられ、竹谷はそれ以上動けない。襲いくる殺気に冷や汗が流れる。正体を見極めようと視線を上げ、力任せに竹谷をねじ伏せようとする忍者を見た。視線が合う。にやり、とその目が細められた。
そのときふたりの元へ駆けてきた狼が迷わず忍者に飛びかかった。忍者は身軽に体をひねって距離を取る。守るように竹谷の前に立ちはだかって唸り声を上げる狼に、忍者は大きな笑い声を上げた。
「流石に私を覚えてはいないか!いい目だなぁ、欲しい」
「あっ、あげません!」
忍者は笑いながら頭巾を取る。竹谷の脱力も気にせず顔を見せたのは、かつての先輩である七松小平太であった。
「すみれ!」
七松が振り返って呼ぶと、藪から狼が顔を出す。竹谷の連れていた松風と一緒に出てきたその狼は、以前は竹谷の群にいた、すみれと言う名の狼だ。忍術学園に在学中に七松が懐かせてしまい、やむなく譲ることになったのである。
すみれは大人しく七松の足元にすり寄って行き、竹谷は娘を嫁にやった心地であった。竹谷が少ししょんぼりとしていると、松風、そして竹谷の口笛で飛んできたはなが竹谷のそばに寄ってきて額を寄せてくる。優しい獣を撫でて、竹谷は気を落ちつけた。
「で、七松先輩、殺気をご挨拶に何の用ですか。うちの子はもうあげませんよ」
「ああ、それはすみれだけでいい。忍者貸してくれ」
「はぁ?」
「今内の忍者が少し足りん。組頭殿なら何人か動かせるだろ?」
「いやいや、何も聞かされてないのにぽいと貸せませんよ。そもそもこの間そちらに連れて行かれたふたり、そのまま引き抜いちゃったじゃないですか!」
「いやぁ、お前がいい教育してくれるから使いやすくて」
七松は豪快に笑い飛ばす。そういう言い方をするとまるで竹谷が優秀な指導者であるかのようだが、そうではない。竹谷は部下を送り出すときに、「何があっても七松小平太には逆らうな」と伝えただけである。それが五年間同じ学び舎の下で生活を共にした竹谷が唯一できる対処法であった。
七松の勤める城は大きな戦をすることはないが、竹谷が務めるキリンタケはそもそも竹谷が忍者隊を任されるようになってからは一切戦をしていない。つまり忍者たちのほとんどは忍者としての戦を経験していないのである。多少は社会勉強も必要だろうと以前七松が同様の理由で来たときには忍者を何人か派遣させたが、そのまま連れて行かれてしまった。
「今度はちゃんと返すって。な?」
「……それ、いつですか」
「今。もう明日始まってもおかしくない」
「無理です。何を言われても今は無理です。これから稲刈りなんですから」
「ああ、そうか、なら仕方ないな」
七松があっさりと諦めたことに少し拍子抜けしたが、思い返せば確かこの人の実家も農家だと聞いたことがある、その大変さはわかるのだろう。
キリンタケ忍者のほとんどは専門の忍者ではない。普段は城の使用人や城下で農民をしている。
「じゃあ戦の手伝いはいいから、1日だけ元生物委員をの誰かを貸してくれ」
「生物?」
「どうも毒虫がからんでいそうなのがあってな。保健委員を探していたんだが誰も見つからないんだ」
「……孫次郎!」
「はい」
竹谷が空を仰いで呼ぶと、木陰からひとりの忍者が降りてくる。全く気がついていなかったのか、七松は目をしばたたかせた。
「今手放せない生物はいるか?」
「いえ、大丈夫です」
「なら、悪いが七松先輩と行ってくれるか」
「いいですよ」
「……元斜堂クラスは流石だな」
七松の言葉を褒め言葉ととって、孫次郎はかすかに微笑む。
「いい忍者になったな。ほしい」
「あげませんって!1日だけの約束ですからね」
「帰れなくしてやろうか」
笑顔で不穏なことを言う七松に竹谷は顔を引きつらせたが、孫次郎本人は顔色を変えない。それに安心し、竹谷もようやく一息つく。
「帰ってこれるから、孫次郎なんですよ」
「うーん、ますますほしい」
「……孫次郎、何かあったらすまん」
「……頑張ります」
小さいとはいえここはキリンタケの領内だ。かすかに感じる気配を見過ごすわけにはいかない。
――風が凪いだ、一瞬。竹谷は振り返ってくないを構える。
「松風!」
竹谷の声で狼が藪へ飛び込むのと入れ違いに、姿を現した忍者が振り下ろしたくないを受け、竹谷はぎりぎりで持ちこたえながら口笛を鳴らす。力だけで押さえつけられ、竹谷はそれ以上動けない。襲いくる殺気に冷や汗が流れる。正体を見極めようと視線を上げ、力任せに竹谷をねじ伏せようとする忍者を見た。視線が合う。にやり、とその目が細められた。
そのときふたりの元へ駆けてきた狼が迷わず忍者に飛びかかった。忍者は身軽に体をひねって距離を取る。守るように竹谷の前に立ちはだかって唸り声を上げる狼に、忍者は大きな笑い声を上げた。
「流石に私を覚えてはいないか!いい目だなぁ、欲しい」
「あっ、あげません!」
忍者は笑いながら頭巾を取る。竹谷の脱力も気にせず顔を見せたのは、かつての先輩である七松小平太であった。
「すみれ!」
七松が振り返って呼ぶと、藪から狼が顔を出す。竹谷の連れていた松風と一緒に出てきたその狼は、以前は竹谷の群にいた、すみれと言う名の狼だ。忍術学園に在学中に七松が懐かせてしまい、やむなく譲ることになったのである。
すみれは大人しく七松の足元にすり寄って行き、竹谷は娘を嫁にやった心地であった。竹谷が少ししょんぼりとしていると、松風、そして竹谷の口笛で飛んできたはなが竹谷のそばに寄ってきて額を寄せてくる。優しい獣を撫でて、竹谷は気を落ちつけた。
「で、七松先輩、殺気をご挨拶に何の用ですか。うちの子はもうあげませんよ」
「ああ、それはすみれだけでいい。忍者貸してくれ」
「はぁ?」
「今内の忍者が少し足りん。組頭殿なら何人か動かせるだろ?」
「いやいや、何も聞かされてないのにぽいと貸せませんよ。そもそもこの間そちらに連れて行かれたふたり、そのまま引き抜いちゃったじゃないですか!」
「いやぁ、お前がいい教育してくれるから使いやすくて」
七松は豪快に笑い飛ばす。そういう言い方をするとまるで竹谷が優秀な指導者であるかのようだが、そうではない。竹谷は部下を送り出すときに、「何があっても七松小平太には逆らうな」と伝えただけである。それが五年間同じ学び舎の下で生活を共にした竹谷が唯一できる対処法であった。
七松の勤める城は大きな戦をすることはないが、竹谷が務めるキリンタケはそもそも竹谷が忍者隊を任されるようになってからは一切戦をしていない。つまり忍者たちのほとんどは忍者としての戦を経験していないのである。多少は社会勉強も必要だろうと以前七松が同様の理由で来たときには忍者を何人か派遣させたが、そのまま連れて行かれてしまった。
「今度はちゃんと返すって。な?」
「……それ、いつですか」
「今。もう明日始まってもおかしくない」
「無理です。何を言われても今は無理です。これから稲刈りなんですから」
「ああ、そうか、なら仕方ないな」
七松があっさりと諦めたことに少し拍子抜けしたが、思い返せば確かこの人の実家も農家だと聞いたことがある、その大変さはわかるのだろう。
キリンタケ忍者のほとんどは専門の忍者ではない。普段は城の使用人や城下で農民をしている。
「じゃあ戦の手伝いはいいから、1日だけ元生物委員をの誰かを貸してくれ」
「生物?」
「どうも毒虫がからんでいそうなのがあってな。保健委員を探していたんだが誰も見つからないんだ」
「……孫次郎!」
「はい」
竹谷が空を仰いで呼ぶと、木陰からひとりの忍者が降りてくる。全く気がついていなかったのか、七松は目をしばたたかせた。
「今手放せない生物はいるか?」
「いえ、大丈夫です」
「なら、悪いが七松先輩と行ってくれるか」
「いいですよ」
「……元斜堂クラスは流石だな」
七松の言葉を褒め言葉ととって、孫次郎はかすかに微笑む。
「いい忍者になったな。ほしい」
「あげませんって!1日だけの約束ですからね」
「帰れなくしてやろうか」
笑顔で不穏なことを言う七松に竹谷は顔を引きつらせたが、孫次郎本人は顔色を変えない。それに安心し、竹谷もようやく一息つく。
「帰ってこれるから、孫次郎なんですよ」
「うーん、ますますほしい」
「……孫次郎、何かあったらすまん」
「……頑張ります」
PR
Post your Comment
カレンダー
カテゴリー
最新記事
ブログ内検索
アクセス解析
アクセス解析