言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2012'09.21.Fri
「いらっしゃいませ」
左近の声に、客は会釈ともつかない程度に頭を下げた。会社帰りであろう、スーツ姿の一人客。珍しいことじゃない。左近はお決まりの流れとして、カウンターに座った男の前にお絞りを差し出した。知らない顔だ。渡したメニューを開いているところを見ると、常連ではなさそうである。
店の奥を見る。三郎次はまだ店員の振りをして彼女といちゃついていた。呆れはするがわざわざ呼び戻すほど野暮ではない。左近は客に視線を戻す。
「決まらなければ、イメージでも結構ですよ」
左近が声をかけると彼は驚いた表情を見せたが、すぐに眉を下げて困ったように笑った。
「それじゃあ、君の好きなやつ」
「私の、ですか」
「失礼だろうが、酒ならなんでもいいんだ」
「……好みぐらいはお聞きしても?」
「そうだな、甘い酒はあまり好きじゃない」
「かしこまりました」
バーテンをしているが、実は左近はこの手の注文は苦手であった。頭がかたいのだと三郎次たちにはバカにされるが、結局お決まりのものになってしまう。元々酒好きな久作や三郎次に比べると知識面でもやや弱い。
手際よくやっていると見せかけながら目は必死でカウンター裏に並ぶボトルを睨み、最終的に失敗なしの自分の好きな味になる。注文通りなのだからと開き直り、携帯を見ていた客の前に差し出した。
「ありがとう」
携帯を手放した男はグラスを取った。氷を慣らしながらグラスを傾け、一口含んですぐに降ろす。しかしその口角は上がっていて、左近はこっそり安堵の息をはいた。
その日から男は時々店に来るようになった。甘いお酒は飲まない。つまみはあまりいらない。オリーブは好き。雨の日は来ない。金曜日は来ない。携帯で見ているのは時事ニュース。ひとり暮らし。料理は得意。
来客の足音に左近は顔を上げる。
「いらっしゃいませ」
あの男ではなかった。男女の二人連れだ。お決まりの用意を始める。
あの人に会いたいと、思っている自分には見ない振りをした。
左近の声に、客は会釈ともつかない程度に頭を下げた。会社帰りであろう、スーツ姿の一人客。珍しいことじゃない。左近はお決まりの流れとして、カウンターに座った男の前にお絞りを差し出した。知らない顔だ。渡したメニューを開いているところを見ると、常連ではなさそうである。
店の奥を見る。三郎次はまだ店員の振りをして彼女といちゃついていた。呆れはするがわざわざ呼び戻すほど野暮ではない。左近は客に視線を戻す。
「決まらなければ、イメージでも結構ですよ」
左近が声をかけると彼は驚いた表情を見せたが、すぐに眉を下げて困ったように笑った。
「それじゃあ、君の好きなやつ」
「私の、ですか」
「失礼だろうが、酒ならなんでもいいんだ」
「……好みぐらいはお聞きしても?」
「そうだな、甘い酒はあまり好きじゃない」
「かしこまりました」
バーテンをしているが、実は左近はこの手の注文は苦手であった。頭がかたいのだと三郎次たちにはバカにされるが、結局お決まりのものになってしまう。元々酒好きな久作や三郎次に比べると知識面でもやや弱い。
手際よくやっていると見せかけながら目は必死でカウンター裏に並ぶボトルを睨み、最終的に失敗なしの自分の好きな味になる。注文通りなのだからと開き直り、携帯を見ていた客の前に差し出した。
「ありがとう」
携帯を手放した男はグラスを取った。氷を慣らしながらグラスを傾け、一口含んですぐに降ろす。しかしその口角は上がっていて、左近はこっそり安堵の息をはいた。
その日から男は時々店に来るようになった。甘いお酒は飲まない。つまみはあまりいらない。オリーブは好き。雨の日は来ない。金曜日は来ない。携帯で見ているのは時事ニュース。ひとり暮らし。料理は得意。
来客の足音に左近は顔を上げる。
「いらっしゃいませ」
あの男ではなかった。男女の二人連れだ。お決まりの用意を始める。
あの人に会いたいと、思っている自分には見ない振りをした。
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