言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'09.03.Tue
それはまったく予定にない雨だった。アスファルトの地面にぱたぱたっと斑点ができ、雨だ、と思った瞬間には土砂降りだった。いつもと変わらない帰り道になるはずだった丸井と仁王は、あっという間に濡れ鼠になっていくお互いを見てしばし呆然とする。これは何の冗談だろう。痛いほどの雨に肩を叩かれ、仁王が溜息をつく。
「……ゲリラ豪雨とはよう言ったもんじゃ」
「こんだけ濡れちゃ焦る気にもなんねーぜ」
ブン太は深く溜息をつき、ラケットバッグを担ぎ直して歩き出した。その重い足取りに合わせるように仁王もゆっくりついてくる。
「部活だけでよかったのう。教科書持っとったら悲惨じゃあ」
「お前普段から教科書持ってねぇじゃん」
「ピヨッ」
「バッグ明日までに乾くかな〜」
昼間は口を開けば文句を言いたくなるほどの快晴で、雨の気配など全くなかった。今年も例に漏れず異常気象からは逃れられず、この夏は苦労した。これが過ぎても「女心と秋の空」というやつがくるのだから、困った話である。
濡れながらだらだら歩いていたふたりだが、ふと仁王が言葉を切る。空を見上げたその仕草につられるように丸井も顔を上げると、耳に届いたのは何かを転がすような雷の音。それは思ったよりも近い。どきっとした丸井が仁王を見ると、その背後で空が光る。
「やべっ!」
周りに屋根のある場所がない。視線を巡らすより早く、仁王に手を引かれ慌ててついていく。こんな季節、ちょっと雨に濡れたぐらいでは風邪もひかないが、雷は別だ。こんなに近くで鳴っていてはのんきに歩いているわけにはいかない。
「にお」
「こっち」
思わぬところで手を引かれ、転けそうになるも持ちこたえる。丸井を振り回すように走る仁王が向かったのは公園だ。
アスファルトから一転して砂を踏み、滑りながら仁王が駆け込んだのは電話ボックス。ふたりでぶつかるように転がり込み、丸井は仁王に抱き止められる。顔を上げた先にある仁王の顎は上を向いて、前髪をかき上げながら外をうかがう様子はなかなか絵になっていて卑怯なほどだ。体を起こすと仁王が残念、とからかってくるので、同じように額に張りつく髪をあげて鼻で笑う。その背後で雷が鳴り、仁王の視線が外に向いたのがおもしろくない。
そもそもひとり以上入ることを想定されていない電話ボックスは狭く、邪魔なラケットバッグを足下に下ろしてもふたりの距離はあまり変わらなかった。しかし更に雨が強くなったことは壁を叩く音の大きさでよくわかる。外が白くぼやけて見えるほどの強い雨だ。壁にもたれて仁王を見る。伸ばした髪の毛先からぽたぽたと滴が滴っているのが目につくが、仁王は気にしていないようだった。しかし丸井の視線には気づき、目を細めて笑う。
「見つめるほどイイ男?」
「バーカ。俺の方がイイ男に決まってんだろ」
「うん、確かにセクシーじゃな」
冷えた指先が頬を撫でる。雨が伝うようなくすぐったさに背筋がぞくりと粟立った。顎先まで下がった指はついと上を向き、自然と顎が上がる。キザな奴、思いながらも近づく仁王の唇を受け入れた。静かな唇は雄弁で、誘われていることがわかっても逃げることができない。冷たい唇を温めるようにすり合わせ、吸いついて温度を上げる。
離れていった唇は満足したように口角を上げ、仁王は壁に寄りかかった。やや物足りなさの残る丸井が視線で訴えると、気づいた仁王はわざとらしく首を傾げる。
「これ以上したら我慢できんでここで脱がすけど構わん?」
「……バカじゃねーの」
こんなにも色気を放つ仁王のそばにいたらムラムラするに決まってる。仁王も同じように思っているように言うが、あんな軽口では信用できない。期待してもいいのか疑えばいいのか、いつも丸井は考える。
仁王には大切なものが多い。意外とちっぽけなものを大切にしていたかと思えば、それを見捨てるのか、と思うようなものを気にもかけない。足下のラケットバッグに視線を向けると、仁王もつられたようにそれを見た。三年使い込んだバッグは決してきれいなものではないが、仁王はきっとこれからも使い続けるだろう。
「……もっと悔しいと思っとったな」
「……俺は負けるなんて考えたこともなかった」
「お前さんは強いな」
「仁王は負けると思ってたのかよ」
「極端じゃのー。誰だって、勝つか負けるか、どちらかじゃ。そんなもん、結果が出るまで誰にもわからん」
「……悔しくないのか」
「んー……羨ましいとは思ったな。運命の女神を惚れさせたのはあいつらやったってことじゃ」
悔しくないわけがない。仁王がどれほどの努力をしたのかは、見せてもらえなかったので丸井は知らない。それでも、悔しくなかったなんてことはあり得ない。試合の後、仁王は誰にも会わなかったのだ。きっと取り繕えないほど、悔しかったのだ。
仁王の側に手を突いて睨みつける。おどけた表情をした仁王に苛立ちながらも何も言わずにそうしていると、笑ってキスをされた。
「済んだ話じゃ」
雨に紛れていても、仁王は何も言ってくれない。初めて、自分が仁王と一緒に泣きたかったのだと気がついた。
「……ゲリラ豪雨とはよう言ったもんじゃ」
「こんだけ濡れちゃ焦る気にもなんねーぜ」
ブン太は深く溜息をつき、ラケットバッグを担ぎ直して歩き出した。その重い足取りに合わせるように仁王もゆっくりついてくる。
「部活だけでよかったのう。教科書持っとったら悲惨じゃあ」
「お前普段から教科書持ってねぇじゃん」
「ピヨッ」
「バッグ明日までに乾くかな〜」
昼間は口を開けば文句を言いたくなるほどの快晴で、雨の気配など全くなかった。今年も例に漏れず異常気象からは逃れられず、この夏は苦労した。これが過ぎても「女心と秋の空」というやつがくるのだから、困った話である。
濡れながらだらだら歩いていたふたりだが、ふと仁王が言葉を切る。空を見上げたその仕草につられるように丸井も顔を上げると、耳に届いたのは何かを転がすような雷の音。それは思ったよりも近い。どきっとした丸井が仁王を見ると、その背後で空が光る。
「やべっ!」
周りに屋根のある場所がない。視線を巡らすより早く、仁王に手を引かれ慌ててついていく。こんな季節、ちょっと雨に濡れたぐらいでは風邪もひかないが、雷は別だ。こんなに近くで鳴っていてはのんきに歩いているわけにはいかない。
「にお」
「こっち」
思わぬところで手を引かれ、転けそうになるも持ちこたえる。丸井を振り回すように走る仁王が向かったのは公園だ。
アスファルトから一転して砂を踏み、滑りながら仁王が駆け込んだのは電話ボックス。ふたりでぶつかるように転がり込み、丸井は仁王に抱き止められる。顔を上げた先にある仁王の顎は上を向いて、前髪をかき上げながら外をうかがう様子はなかなか絵になっていて卑怯なほどだ。体を起こすと仁王が残念、とからかってくるので、同じように額に張りつく髪をあげて鼻で笑う。その背後で雷が鳴り、仁王の視線が外に向いたのがおもしろくない。
そもそもひとり以上入ることを想定されていない電話ボックスは狭く、邪魔なラケットバッグを足下に下ろしてもふたりの距離はあまり変わらなかった。しかし更に雨が強くなったことは壁を叩く音の大きさでよくわかる。外が白くぼやけて見えるほどの強い雨だ。壁にもたれて仁王を見る。伸ばした髪の毛先からぽたぽたと滴が滴っているのが目につくが、仁王は気にしていないようだった。しかし丸井の視線には気づき、目を細めて笑う。
「見つめるほどイイ男?」
「バーカ。俺の方がイイ男に決まってんだろ」
「うん、確かにセクシーじゃな」
冷えた指先が頬を撫でる。雨が伝うようなくすぐったさに背筋がぞくりと粟立った。顎先まで下がった指はついと上を向き、自然と顎が上がる。キザな奴、思いながらも近づく仁王の唇を受け入れた。静かな唇は雄弁で、誘われていることがわかっても逃げることができない。冷たい唇を温めるようにすり合わせ、吸いついて温度を上げる。
離れていった唇は満足したように口角を上げ、仁王は壁に寄りかかった。やや物足りなさの残る丸井が視線で訴えると、気づいた仁王はわざとらしく首を傾げる。
「これ以上したら我慢できんでここで脱がすけど構わん?」
「……バカじゃねーの」
こんなにも色気を放つ仁王のそばにいたらムラムラするに決まってる。仁王も同じように思っているように言うが、あんな軽口では信用できない。期待してもいいのか疑えばいいのか、いつも丸井は考える。
仁王には大切なものが多い。意外とちっぽけなものを大切にしていたかと思えば、それを見捨てるのか、と思うようなものを気にもかけない。足下のラケットバッグに視線を向けると、仁王もつられたようにそれを見た。三年使い込んだバッグは決してきれいなものではないが、仁王はきっとこれからも使い続けるだろう。
「……もっと悔しいと思っとったな」
「……俺は負けるなんて考えたこともなかった」
「お前さんは強いな」
「仁王は負けると思ってたのかよ」
「極端じゃのー。誰だって、勝つか負けるか、どちらかじゃ。そんなもん、結果が出るまで誰にもわからん」
「……悔しくないのか」
「んー……羨ましいとは思ったな。運命の女神を惚れさせたのはあいつらやったってことじゃ」
悔しくないわけがない。仁王がどれほどの努力をしたのかは、見せてもらえなかったので丸井は知らない。それでも、悔しくなかったなんてことはあり得ない。試合の後、仁王は誰にも会わなかったのだ。きっと取り繕えないほど、悔しかったのだ。
仁王の側に手を突いて睨みつける。おどけた表情をした仁王に苛立ちながらも何も言わずにそうしていると、笑ってキスをされた。
「済んだ話じゃ」
雨に紛れていても、仁王は何も言ってくれない。初めて、自分が仁王と一緒に泣きたかったのだと気がついた。
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