言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'09.02.Mon
「ミカサならジャンともお似合いね!」
そんな言葉を時々聞いた。
同じアカデミーで学ぶジャンというその男を、ミカサはよく知らなかった。幼なじみのエレンの喧嘩相手であること、貴族を目指す男であること、成績は優秀であること。その程度だ。強いてもうひとつ上げるのならば、アカデミーに入って初めてミカサに声をかけてきた男でもあった。
「きれいな黒髪だな」
その言葉に自分は何と答えただろうか。適当に社交辞令として礼ぐらいは言ったかもしれない。入学まで惰性で伸ばしていたその髪は、訓練の邪魔になるので切ってしまった。次にジャンに会ったときにはもう、誉めてもらった髪は短くなっていたはずだ。
この国は壁で守られている。その外は魔物がはびこる危険な世界だ。アカデミーで生き抜く術を学んだものは外へ行くことができる。ミカサは壁外に行きたいというエレンの昔からの夢につき合って入学を決めた。それはミカサ個人の目標がないと言うことでもある。エレンは時々鬱陶しそうにしているが、ミカサは無鉄砲なエレンを止めることが自分のするべきことだと思っていた。
アカデミーに入学する者の目標は壁の外だけではない。優秀な成績をおさめ、壁の外で成果をあげた者は貴族の地位を得ることができる。貴族に必要なものは栄光と、それを受け継ぐもの。つまりは後継者だ。よって新しく貴族の位に昇格したものは同時に伴侶を探し始め、すでに貴族であるものたちもまた同様に、子を成すと同時に良縁を探し始める。
幼い頃両親をなくしたミカサは、エレンの家族として引き取られた。公から見ると兄弟という扱いである。
ミカサ自身は興味はないが、貴族になるに十分な実力を持っていた。しかしそれはミカサの望むところではなく、なるのならばエレンを主とした貴族家系でなければ困る。しかし今の実力のままならば、評価をされるのはミカサの方が先になるだろう。だからミカサは、いつかそうなるより先に、結婚しようと思っていた。いつでもエレンのサポートに回ることができる位置にいることを許してくれる者と一緒になろうと。
「ジャン!またミカサに負けたのか」
「うるせえ」
仲間にからかわれて、ジャンはからからと笑い飛ばした。しかしそのあとふっと悔しそうな顔を見せたのを、離れていたミカサは見てしまう。あれはきっと、他人には見られたくない姿だろう。
「ミカサ、どうしたの?」
「いや……行こう」
幼なじみのアルミンに促され、ミカサはきびすを返した。
ジャンは貴族を目指す男だ。それは周知の事実で、エレンと揉めるきっかけになることも多い。どちらかが悪いということはなく、ただ考え方の違いだ。それを冷静に話し合えないだけだ。
ジャンが夫であれば、彼を制してミカサがエレンについていくことは可能だろう。そんなことを考える。
「ミカサは強いな」
そう言って笑う男は、心の中で何を考えているのだろう。自分を意識していることぐらいはわかる。ミカサとジャンが噂になっていることも知っているはずだ。正面切って、ふたりがいるところで話題にされたこともある。そのときもジャンは、笑い飛ばしただけだった。貴族になれてからの話だろう、と。
だからミカサは、いつかジャンと結婚するのだと思っていた。ジャンはこのままいけば貴族になるだろう。ミカサは自分が貴族になる気はない。エレンを立てるためには自分が貴族になることを避けなければならない。ミカサにはそういう生き方しかできなかった。
「アルミン、その本はどうしたの?」
「外に行きたいという話をしていたら、ジャンが貸してくれたんだ。ジャンの家は昔は貴族だったから、古い本が多いみたい。嬉しいな、図書館の本はあらかた読んでしまったから」
親しいのかと聞くと少し困った顔をした。しかし本を抱きしめたアルミンは嬉しそうだ。勤勉なアルミンはアルミンやエレンと違い、知識欲から壁の外に憧れている。よく学ぶから教師にも好かれ、学友にも頼りにされている。ジャンも頼っている姿を時々見かけた。エレンと喧嘩している様は気に食わないが、本当はもっと冷静な気のいい男なのだろう。
初めは、その程度だった。
自主連の最中、訓練に使っていた弓の弦が切れた。まだ練習を続けるつもりだったが断念し、ミカサは片づけを始める。
「おい、どうした」
「……ジャン」
通りかかったジャンに声をかけられて振り返る。とたんにぎょっと目を見開いたジャンが、慌てたようにハンカチを出してミカサの頬を押さえた。
「何?」
「何じゃねぇよ!切れてるぞ!」
「ああ……多分今、弦が」
「切れたのか。気をつけろよ。とりあえず医務室行ってこい」
「でも」
「片づけて置いてやるから。きれいな顔してるんだから、あんまり傷つけるな」
「……ありがとう」
素直にハンカチを押さえて場を離れる。医務室に行くと思っていた以上に傷は深いらしく、担当者が大慌てで治療をした。
こっぴどくしかられた後、訓練場に戻ってみるとまだジャンがそこにいる。声をかけると笑顔で弓を掲げて見せた。
「弦張っといた。使いにくければ調整する」
「ありがとう」
「……あれ、お前か?」
ジャンの視線の先を追うと、使っていた的がある。頷くとやや悔しげな顔をしたあと、お前にはかなわねえな、と笑った。
「お前らはすげえやつらだな。三人そろえば、壁の外をどこまででも行けそうだ」
「ジャンだって、とても優秀な生徒」
「まあ表面はな」
「……どういうこと?」
「最近は、もう貴族なんてのもどうでもいいんだ。元々親が強く言ってたことだしな」
「……もう、貴族にならないということ?」
「なれるならなるが、その後は知らん」
ジャンが矢を取り、直したばかりのミカサの弓を構える。その凛々しい姿と真摯な目は、貴族として兵を率いるのにふさわしい。そうなるべきだと、周りの誰もが思っているはずだ。ジャンなら兵を無駄死にさせないだろう。ジャンなら胸を張ることのできる成果をあげるだろう。ジャンなら、立派な夫に――
ジャンが放った弓は、中央を少しずれて的に当たった。震える弦の音を聞いて息を詰める。的を見つめるジャンが知らない人のように見えた。
「ちょっと張りすぎたか。いや、お前は変な癖もないし大丈夫か?まあ直すなら言ってくれ。あ、今日は休めよ!」
「ジャンは」
「んー?」
「貴族になるのだとばかり」
「……貴族になって、時々回ってくる魔物退治の順番の時だけいいとこ見せて、あとは毎日安全なところで遊んで暮らす。そういう生き方も、まあありだろうな」
それはジャンがずっと言っていたことだ。エレンとの喧嘩の原因でもある。ミカサが戸惑っている様子をジャンが笑った。
「お前、どうせ耳にタコができるぐらい聞いてんだろ?」
ジャンが語ったのは、アルミンが見たいと願う外の世界。くつくつと肩を揺らす男にただただ困惑する。こんな風に笑う男だっただろうか。
「あんなに無邪気だと、見せてやりたくなるじゃねえか」
そんなに無邪気に笑う男を、ミカサは知らない。
ジャンに何か変化が起こったことはすぐにわかった。アルミンを探すジャンと、ジャンから逃げるアルミンを見かけることが増えたのだ。アルミンに聞いても理由は教えてくれない。喧嘩をしたわけでもないようで、ミカサはさっぱり意味がわからなかった。
廊下の窓から見える中庭に、アルミンを見つけた。真っ赤になって俯いたアルミンに、木陰に隠れていた誰かが手を伸ばす。そっと触れただけでアルミンは弾かれたように顔を上げた。その口が開く。ジャン、
「ミカサ!どうした?」
「……なんでも」
エレンに呼ばれて窓に背を向ける。なぜだか脈が乱れた。それを隠して、食事に向かうエレンについていく。
「アルミン先に行くって言ってたけど、席取れてるかな」
「……さあ、また途中で先生に捕まっているかも」
「だよなー、いつもそうだもんな」
横目で見た窓の外に、もうアルミンの姿はなかった。
どうして私は、自分がジャンと結婚するのだと思っていたのだろうか。ミカサは誰にも言わず自問する。アルミンは依然ジャンから逃げていたが、距離が近づいているのは明白だった。
「好きだ」
どうしてジャンは、アルミンが好きになったんだろうか。どうして私は、隠れて告白を聞いているのだろうか。どうして私は、悲しいのだろうか。
震えるアルミンの声を最後まで聞けずに走り出した。ジャンに借りたハンカチを返せていないことが、頭から離れなかった。
そんな言葉を時々聞いた。
同じアカデミーで学ぶジャンというその男を、ミカサはよく知らなかった。幼なじみのエレンの喧嘩相手であること、貴族を目指す男であること、成績は優秀であること。その程度だ。強いてもうひとつ上げるのならば、アカデミーに入って初めてミカサに声をかけてきた男でもあった。
「きれいな黒髪だな」
その言葉に自分は何と答えただろうか。適当に社交辞令として礼ぐらいは言ったかもしれない。入学まで惰性で伸ばしていたその髪は、訓練の邪魔になるので切ってしまった。次にジャンに会ったときにはもう、誉めてもらった髪は短くなっていたはずだ。
この国は壁で守られている。その外は魔物がはびこる危険な世界だ。アカデミーで生き抜く術を学んだものは外へ行くことができる。ミカサは壁外に行きたいというエレンの昔からの夢につき合って入学を決めた。それはミカサ個人の目標がないと言うことでもある。エレンは時々鬱陶しそうにしているが、ミカサは無鉄砲なエレンを止めることが自分のするべきことだと思っていた。
アカデミーに入学する者の目標は壁の外だけではない。優秀な成績をおさめ、壁の外で成果をあげた者は貴族の地位を得ることができる。貴族に必要なものは栄光と、それを受け継ぐもの。つまりは後継者だ。よって新しく貴族の位に昇格したものは同時に伴侶を探し始め、すでに貴族であるものたちもまた同様に、子を成すと同時に良縁を探し始める。
幼い頃両親をなくしたミカサは、エレンの家族として引き取られた。公から見ると兄弟という扱いである。
ミカサ自身は興味はないが、貴族になるに十分な実力を持っていた。しかしそれはミカサの望むところではなく、なるのならばエレンを主とした貴族家系でなければ困る。しかし今の実力のままならば、評価をされるのはミカサの方が先になるだろう。だからミカサは、いつかそうなるより先に、結婚しようと思っていた。いつでもエレンのサポートに回ることができる位置にいることを許してくれる者と一緒になろうと。
「ジャン!またミカサに負けたのか」
「うるせえ」
仲間にからかわれて、ジャンはからからと笑い飛ばした。しかしそのあとふっと悔しそうな顔を見せたのを、離れていたミカサは見てしまう。あれはきっと、他人には見られたくない姿だろう。
「ミカサ、どうしたの?」
「いや……行こう」
幼なじみのアルミンに促され、ミカサはきびすを返した。
ジャンは貴族を目指す男だ。それは周知の事実で、エレンと揉めるきっかけになることも多い。どちらかが悪いということはなく、ただ考え方の違いだ。それを冷静に話し合えないだけだ。
ジャンが夫であれば、彼を制してミカサがエレンについていくことは可能だろう。そんなことを考える。
「ミカサは強いな」
そう言って笑う男は、心の中で何を考えているのだろう。自分を意識していることぐらいはわかる。ミカサとジャンが噂になっていることも知っているはずだ。正面切って、ふたりがいるところで話題にされたこともある。そのときもジャンは、笑い飛ばしただけだった。貴族になれてからの話だろう、と。
だからミカサは、いつかジャンと結婚するのだと思っていた。ジャンはこのままいけば貴族になるだろう。ミカサは自分が貴族になる気はない。エレンを立てるためには自分が貴族になることを避けなければならない。ミカサにはそういう生き方しかできなかった。
「アルミン、その本はどうしたの?」
「外に行きたいという話をしていたら、ジャンが貸してくれたんだ。ジャンの家は昔は貴族だったから、古い本が多いみたい。嬉しいな、図書館の本はあらかた読んでしまったから」
親しいのかと聞くと少し困った顔をした。しかし本を抱きしめたアルミンは嬉しそうだ。勤勉なアルミンはアルミンやエレンと違い、知識欲から壁の外に憧れている。よく学ぶから教師にも好かれ、学友にも頼りにされている。ジャンも頼っている姿を時々見かけた。エレンと喧嘩している様は気に食わないが、本当はもっと冷静な気のいい男なのだろう。
初めは、その程度だった。
自主連の最中、訓練に使っていた弓の弦が切れた。まだ練習を続けるつもりだったが断念し、ミカサは片づけを始める。
「おい、どうした」
「……ジャン」
通りかかったジャンに声をかけられて振り返る。とたんにぎょっと目を見開いたジャンが、慌てたようにハンカチを出してミカサの頬を押さえた。
「何?」
「何じゃねぇよ!切れてるぞ!」
「ああ……多分今、弦が」
「切れたのか。気をつけろよ。とりあえず医務室行ってこい」
「でも」
「片づけて置いてやるから。きれいな顔してるんだから、あんまり傷つけるな」
「……ありがとう」
素直にハンカチを押さえて場を離れる。医務室に行くと思っていた以上に傷は深いらしく、担当者が大慌てで治療をした。
こっぴどくしかられた後、訓練場に戻ってみるとまだジャンがそこにいる。声をかけると笑顔で弓を掲げて見せた。
「弦張っといた。使いにくければ調整する」
「ありがとう」
「……あれ、お前か?」
ジャンの視線の先を追うと、使っていた的がある。頷くとやや悔しげな顔をしたあと、お前にはかなわねえな、と笑った。
「お前らはすげえやつらだな。三人そろえば、壁の外をどこまででも行けそうだ」
「ジャンだって、とても優秀な生徒」
「まあ表面はな」
「……どういうこと?」
「最近は、もう貴族なんてのもどうでもいいんだ。元々親が強く言ってたことだしな」
「……もう、貴族にならないということ?」
「なれるならなるが、その後は知らん」
ジャンが矢を取り、直したばかりのミカサの弓を構える。その凛々しい姿と真摯な目は、貴族として兵を率いるのにふさわしい。そうなるべきだと、周りの誰もが思っているはずだ。ジャンなら兵を無駄死にさせないだろう。ジャンなら胸を張ることのできる成果をあげるだろう。ジャンなら、立派な夫に――
ジャンが放った弓は、中央を少しずれて的に当たった。震える弦の音を聞いて息を詰める。的を見つめるジャンが知らない人のように見えた。
「ちょっと張りすぎたか。いや、お前は変な癖もないし大丈夫か?まあ直すなら言ってくれ。あ、今日は休めよ!」
「ジャンは」
「んー?」
「貴族になるのだとばかり」
「……貴族になって、時々回ってくる魔物退治の順番の時だけいいとこ見せて、あとは毎日安全なところで遊んで暮らす。そういう生き方も、まあありだろうな」
それはジャンがずっと言っていたことだ。エレンとの喧嘩の原因でもある。ミカサが戸惑っている様子をジャンが笑った。
「お前、どうせ耳にタコができるぐらい聞いてんだろ?」
ジャンが語ったのは、アルミンが見たいと願う外の世界。くつくつと肩を揺らす男にただただ困惑する。こんな風に笑う男だっただろうか。
「あんなに無邪気だと、見せてやりたくなるじゃねえか」
そんなに無邪気に笑う男を、ミカサは知らない。
ジャンに何か変化が起こったことはすぐにわかった。アルミンを探すジャンと、ジャンから逃げるアルミンを見かけることが増えたのだ。アルミンに聞いても理由は教えてくれない。喧嘩をしたわけでもないようで、ミカサはさっぱり意味がわからなかった。
廊下の窓から見える中庭に、アルミンを見つけた。真っ赤になって俯いたアルミンに、木陰に隠れていた誰かが手を伸ばす。そっと触れただけでアルミンは弾かれたように顔を上げた。その口が開く。ジャン、
「ミカサ!どうした?」
「……なんでも」
エレンに呼ばれて窓に背を向ける。なぜだか脈が乱れた。それを隠して、食事に向かうエレンについていく。
「アルミン先に行くって言ってたけど、席取れてるかな」
「……さあ、また途中で先生に捕まっているかも」
「だよなー、いつもそうだもんな」
横目で見た窓の外に、もうアルミンの姿はなかった。
どうして私は、自分がジャンと結婚するのだと思っていたのだろうか。ミカサは誰にも言わず自問する。アルミンは依然ジャンから逃げていたが、距離が近づいているのは明白だった。
「好きだ」
どうしてジャンは、アルミンが好きになったんだろうか。どうして私は、隠れて告白を聞いているのだろうか。どうして私は、悲しいのだろうか。
震えるアルミンの声を最後まで聞けずに走り出した。ジャンに借りたハンカチを返せていないことが、頭から離れなかった。
PR
Post your Comment
カレンダー
カテゴリー
最新記事
ブログ内検索
アクセス解析
アクセス解析