言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'09.04.Wed
「あちーな、クソ」
拭っても拭っても汗をかく。誰にでもなく、ジャンは苛立って呟いた。今日は特別気温も高く、陽射しも目を開けていられないほど眩しい。
それでも今日も訓練はあるし、鬼のような教官は顔色ひとつ変えずいつもと同様に叫んでいる。この鬱陶しい戦闘服も脱ぎ捨ててしまいたいが、それすらも許されないこの訓練に一体どんな意味があるのかと思うと嫌になってくる。ましてやこの暑さの中での対人訓練はすなわち誰かに触れるということであり、立っているだけでも暑いというのに人の体温を近くに感じることは更に暑苦しく思えた。せめてライナーやベルトルトのようなむさくるしい相手を避けたいところだが、クリスタやアニのような女を相手にするのも少し考えるものがある。尤も、対人に関して言えばアニは別の意味で相手をしたくなかった。
教官の怒声が飛んだ。少し焦って振り返るが、怒られているのはコニーのようだ。この暑さでもいつもと変わらずふざけていたらしい。一体どんな五感をしているのだろう。脳に直接叩き込まれるような指導を受けているコニーの側に少し疲れた様子のアルミンを見つけ、丁度いいとばかりに近づいた。彼ならばまだ少しは見た目も涼しげで、馬鹿みたいに真面目ではあるが今の様子では真剣に取り組んでくることはないだろう。
「お前は回避か、優等生は違うな」
「はは……コニーは元気だね。僕も暑さはそんなに苦手じゃないんだけど、さすがに今日は暑いなぁ」
苦笑を浮かべてアルミンは汗を拭い、うっとうしいのか前髪をかき上げる。露わになった額にも汗が浮いていたが、今日のこの暑さで汗をかいていない者などいないだろう。教官だって涼しい顔をしているが、あの長いジャケットの下は汗だくに違いない。そんなことを思っていると地面に沈んだコニーから教官が視線を外し、慌てて見た目だけでもアルミンに構える。
「おい、俺はもうこれ以上消耗したくない。形だけつき合え」
「……色々思うところはあるが、僕も今日は辛い。賛成だ」
「よし」
ジャンより、と言うよりこの訓練兵の中で体力面は劣っていると言ってもいいアルミンは真面目にやりたくとも体力がついていかないのだろう。動きを確認するような振りで、勢いなくアルミンに向かっていく。アルミンも了解しているので、伸びてきた手を受け流して形だけの抵抗を見せた。
「ったく、このクソ暑い中で何やらせんだ」
「暑くても寒くても巨人は待ってくれないからね」
「まだ立体起動の方がましだぜ」
「そうかもね。地面からの照り返しも暑くて嫌になるよ。あまりいい思い出もない」
「思い出?」
「真夏の炎天下、家に帰ったら家族が出かけてて鍵がかかって入れなかったことがある。2時間ぐらい待ったよ」
「そりゃ災難だ」
「更に災難だったのは、いじめられっこに追いかけられていたってこと。家に逃げたのに家の前で捕まって殴られた」
「お前いじめられっこだったのか、似合うじゃねえか」
「嬉しくないよ」
掴まれた腕を引かれたがすぐに返して振り払う。その間に間合いに入りこまれて体を引いた。動きは悪くないが、それはいじめられっこだった経験からなのか、それともここに入ってから鍛えられたものだろうか。
薄い体を見れば、なるほど、確かにいじめられっこと聞けば納得できる。つい悪戯心を出して、アルミンが油断したところに手を伸ばして肩を掴んだ。その力の強さにアルミンがはっとしたときにはもう遅い。引き倒すように力を込めて、バランスを崩したアルミンの足を払った。そのまま崩れ落ちないように腕を取って、背中に回して地面に組み伏した。
「ぐっ……」
「軽いなお前」
「ずるい……」
抵抗する気力もないのか、アルミンは額をつけて溜息をついた。笑って手を離し、引っ張り起こすと額に砂がついている。うんざりした顔をするのでまだからかいたくなってしまうが、これ以上は本気で怒られそうだ。
「でもお前、体は柔らかいんじゃないか」
「ああ、うん。昔からそうだけど、ミカサにつき合ってストレッチしてたらもっと柔らかくなった」
アルミンが体を前に倒すとその手のひらが地面に着いた。べろりとめくれたジャケットの下は汗をかいていて、シャツから肌が透けて見える。これが女ならば絶景だが、アルミンは残念だが男である。男らしいとは無縁とはいえ、男は男だ。しかし思わず手を伸ばし、両手でその腰を掴む。
「ひっ!何!?」
「ほっせぇ。女みてぇだな。尻はちいせえけど」
「ちょっと、離して!」
アルミンの正面、頭側にジャンが立っているので顔を上げられないらしい。身動きがとれないのをいいことにベルトを弾くとふくらはぎの辺りを叩かれた。手を離してやるとアルミンはやっと体を起こし、頭に血が上ったせいか少し顔が赤い。
「気にしてるのに……」
拗ねたような表情はかわいく見えなくもない。額を指してやると不思議な顔で手を当てて、砂がついていることに気がついて慌てて払い落としていた。
「どうしたらジャンみたいに背が伸びるんだろう」
「とりあえず早く寝たらいいんじゃねえの。遅くまで本読んでるじゃねえか」
「その説は根拠が乏しい。僕らの中で一番寝るのが早いコニーが証拠」
「違いねえ」
「それに暑いから寝苦しくて」
「まあな、それは同感だ」
最近は夜でも気温が下がらず、ましてや男ばかりの部屋ではとても快眠と言うわけにはいかない。シャツの胸元を引いて風を送る。
「あー、早く終わんねえかな」
「暑いねえ……」
はあ、と息を吐くアルミンの横顔が思いがけず色っぽい。どきりとしたあと、暑さでおかしくなったのかと頭を振った。
*
食堂の片づけの当番だった。最後のひと仕事を終わらせると、同じく当番だった仲間がオレンジを持ってくる。あまりがあったようだ。その場でこっそり分け合って、半分を手に部屋に帰る。
今日もやはり熱帯夜と言えるほどの暑さだ。動くと暑い、といわんばかりに、疲れた訓練兵たちは既に半裸でベッドに転がっている者が多い。窓辺だけが明るくて、見るといつものようにアルミンが火の側で本を読んでいる。
近づくとジャンに気づいて顔を上げた。額に汗が浮いている。小さな蝋燭の火でも暑いだろうが、月明かりだけでは本を読めるほど明るくはない。そうまでして読みたいものか、とやや呆れながら、オレンジをひと房唇に押しつける。
「ん」
「これしかないからこっそりな」
「……ありがと」
開いた口にオレンジを押し込み、ジャンも自分の口に放り込む。さわやかな酸味はいくらか暑さを和らげるような気がした。
「……オレンジは体温は下げるんだって。少しは涼しくなるかもね」
「それも本の知識か?」
「ううん、じいちゃんが言ってた。よく暑くて眠れないってわがままを言ったから、僕をなだめる嘘かもしれないけどね」
残りを渡そうとしたが、アルミンの視線はまた本に戻っている。仕方なくまたその口まで運んでやると、無意識のように口を開けた。食べてからはっとしたようにアルミンが顔を上げる。小さな炎に照らされた頬が赤く見えた。
「早く寝ろよ」
「あ、ごめん、明るいよね」
「汗かいてるぞ。蝋燭が暑いんだろ」
「あ、うん……そうする」
アルミンはジャンから視線を外し、頬に手を当てた。暑さを忘れるほど読書に集中していたのだろうか。勉強家の気持ちは理解できねえな、思いながら立ち上がる。慌てたようにアルミンがジャンを見上げた。
「あの、オレンジ、ありがとう」
「……気まぐれだよ」
かわいく見えたのは炎の加減だろうか。それともやはり、暑さのせいかもしれない。体温を下げるはずのオレンジの効果もなくて、ベッドに横になってからしばらく、窓辺の蝋燭が気になって眠れなかった。
拭っても拭っても汗をかく。誰にでもなく、ジャンは苛立って呟いた。今日は特別気温も高く、陽射しも目を開けていられないほど眩しい。
それでも今日も訓練はあるし、鬼のような教官は顔色ひとつ変えずいつもと同様に叫んでいる。この鬱陶しい戦闘服も脱ぎ捨ててしまいたいが、それすらも許されないこの訓練に一体どんな意味があるのかと思うと嫌になってくる。ましてやこの暑さの中での対人訓練はすなわち誰かに触れるということであり、立っているだけでも暑いというのに人の体温を近くに感じることは更に暑苦しく思えた。せめてライナーやベルトルトのようなむさくるしい相手を避けたいところだが、クリスタやアニのような女を相手にするのも少し考えるものがある。尤も、対人に関して言えばアニは別の意味で相手をしたくなかった。
教官の怒声が飛んだ。少し焦って振り返るが、怒られているのはコニーのようだ。この暑さでもいつもと変わらずふざけていたらしい。一体どんな五感をしているのだろう。脳に直接叩き込まれるような指導を受けているコニーの側に少し疲れた様子のアルミンを見つけ、丁度いいとばかりに近づいた。彼ならばまだ少しは見た目も涼しげで、馬鹿みたいに真面目ではあるが今の様子では真剣に取り組んでくることはないだろう。
「お前は回避か、優等生は違うな」
「はは……コニーは元気だね。僕も暑さはそんなに苦手じゃないんだけど、さすがに今日は暑いなぁ」
苦笑を浮かべてアルミンは汗を拭い、うっとうしいのか前髪をかき上げる。露わになった額にも汗が浮いていたが、今日のこの暑さで汗をかいていない者などいないだろう。教官だって涼しい顔をしているが、あの長いジャケットの下は汗だくに違いない。そんなことを思っていると地面に沈んだコニーから教官が視線を外し、慌てて見た目だけでもアルミンに構える。
「おい、俺はもうこれ以上消耗したくない。形だけつき合え」
「……色々思うところはあるが、僕も今日は辛い。賛成だ」
「よし」
ジャンより、と言うよりこの訓練兵の中で体力面は劣っていると言ってもいいアルミンは真面目にやりたくとも体力がついていかないのだろう。動きを確認するような振りで、勢いなくアルミンに向かっていく。アルミンも了解しているので、伸びてきた手を受け流して形だけの抵抗を見せた。
「ったく、このクソ暑い中で何やらせんだ」
「暑くても寒くても巨人は待ってくれないからね」
「まだ立体起動の方がましだぜ」
「そうかもね。地面からの照り返しも暑くて嫌になるよ。あまりいい思い出もない」
「思い出?」
「真夏の炎天下、家に帰ったら家族が出かけてて鍵がかかって入れなかったことがある。2時間ぐらい待ったよ」
「そりゃ災難だ」
「更に災難だったのは、いじめられっこに追いかけられていたってこと。家に逃げたのに家の前で捕まって殴られた」
「お前いじめられっこだったのか、似合うじゃねえか」
「嬉しくないよ」
掴まれた腕を引かれたがすぐに返して振り払う。その間に間合いに入りこまれて体を引いた。動きは悪くないが、それはいじめられっこだった経験からなのか、それともここに入ってから鍛えられたものだろうか。
薄い体を見れば、なるほど、確かにいじめられっこと聞けば納得できる。つい悪戯心を出して、アルミンが油断したところに手を伸ばして肩を掴んだ。その力の強さにアルミンがはっとしたときにはもう遅い。引き倒すように力を込めて、バランスを崩したアルミンの足を払った。そのまま崩れ落ちないように腕を取って、背中に回して地面に組み伏した。
「ぐっ……」
「軽いなお前」
「ずるい……」
抵抗する気力もないのか、アルミンは額をつけて溜息をついた。笑って手を離し、引っ張り起こすと額に砂がついている。うんざりした顔をするのでまだからかいたくなってしまうが、これ以上は本気で怒られそうだ。
「でもお前、体は柔らかいんじゃないか」
「ああ、うん。昔からそうだけど、ミカサにつき合ってストレッチしてたらもっと柔らかくなった」
アルミンが体を前に倒すとその手のひらが地面に着いた。べろりとめくれたジャケットの下は汗をかいていて、シャツから肌が透けて見える。これが女ならば絶景だが、アルミンは残念だが男である。男らしいとは無縁とはいえ、男は男だ。しかし思わず手を伸ばし、両手でその腰を掴む。
「ひっ!何!?」
「ほっせぇ。女みてぇだな。尻はちいせえけど」
「ちょっと、離して!」
アルミンの正面、頭側にジャンが立っているので顔を上げられないらしい。身動きがとれないのをいいことにベルトを弾くとふくらはぎの辺りを叩かれた。手を離してやるとアルミンはやっと体を起こし、頭に血が上ったせいか少し顔が赤い。
「気にしてるのに……」
拗ねたような表情はかわいく見えなくもない。額を指してやると不思議な顔で手を当てて、砂がついていることに気がついて慌てて払い落としていた。
「どうしたらジャンみたいに背が伸びるんだろう」
「とりあえず早く寝たらいいんじゃねえの。遅くまで本読んでるじゃねえか」
「その説は根拠が乏しい。僕らの中で一番寝るのが早いコニーが証拠」
「違いねえ」
「それに暑いから寝苦しくて」
「まあな、それは同感だ」
最近は夜でも気温が下がらず、ましてや男ばかりの部屋ではとても快眠と言うわけにはいかない。シャツの胸元を引いて風を送る。
「あー、早く終わんねえかな」
「暑いねえ……」
はあ、と息を吐くアルミンの横顔が思いがけず色っぽい。どきりとしたあと、暑さでおかしくなったのかと頭を振った。
*
食堂の片づけの当番だった。最後のひと仕事を終わらせると、同じく当番だった仲間がオレンジを持ってくる。あまりがあったようだ。その場でこっそり分け合って、半分を手に部屋に帰る。
今日もやはり熱帯夜と言えるほどの暑さだ。動くと暑い、といわんばかりに、疲れた訓練兵たちは既に半裸でベッドに転がっている者が多い。窓辺だけが明るくて、見るといつものようにアルミンが火の側で本を読んでいる。
近づくとジャンに気づいて顔を上げた。額に汗が浮いている。小さな蝋燭の火でも暑いだろうが、月明かりだけでは本を読めるほど明るくはない。そうまでして読みたいものか、とやや呆れながら、オレンジをひと房唇に押しつける。
「ん」
「これしかないからこっそりな」
「……ありがと」
開いた口にオレンジを押し込み、ジャンも自分の口に放り込む。さわやかな酸味はいくらか暑さを和らげるような気がした。
「……オレンジは体温は下げるんだって。少しは涼しくなるかもね」
「それも本の知識か?」
「ううん、じいちゃんが言ってた。よく暑くて眠れないってわがままを言ったから、僕をなだめる嘘かもしれないけどね」
残りを渡そうとしたが、アルミンの視線はまた本に戻っている。仕方なくまたその口まで運んでやると、無意識のように口を開けた。食べてからはっとしたようにアルミンが顔を上げる。小さな炎に照らされた頬が赤く見えた。
「早く寝ろよ」
「あ、ごめん、明るいよね」
「汗かいてるぞ。蝋燭が暑いんだろ」
「あ、うん……そうする」
アルミンはジャンから視線を外し、頬に手を当てた。暑さを忘れるほど読書に集中していたのだろうか。勉強家の気持ちは理解できねえな、思いながら立ち上がる。慌てたようにアルミンがジャンを見上げた。
「あの、オレンジ、ありがとう」
「……気まぐれだよ」
かわいく見えたのは炎の加減だろうか。それともやはり、暑さのせいかもしれない。体温を下げるはずのオレンジの効果もなくて、ベッドに横になってからしばらく、窓辺の蝋燭が気になって眠れなかった。
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