言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'08.31.Sat
「……あれは待機してるな」
「してますねぇ」
談話室で本を読む辰巳の背中を見ながら、三上と笠井は顔を見合わせた。本に集中しているようでありながら、談話室に誰かが入ってくるたびにわずかに肩が揺れる。笠井が先輩に対してかわいいなぁ、などとこぼしても、三上はそれをとがめなかった。
辰巳が談話室で本を読んでいることは珍しくない。どんな環境でも本に集中できる辰巳は、冷暖房が必要な時期には共有スペースにいるエコな男だ。だから今日ここにいることも不自然ではないのだが、さっきからページが進んでいる気配がない。今日辰巳がここにいるのは、本を読むためではないだろう。
「うーん、あの辰巳先輩からここまで集中力を奪うとは」
辰巳が待っているのは、夏休みで帰省中のあの人だ。今日戻るとの連絡は三上たちも受け取ったが、誰よりも一番待ち望んでいるのは辰巳だろう。
「ただいま!」
辰巳が肩を震わせる。待ち望んでいたその人が、談話室のドアを大きく開けて入ってきた。辰巳の背中を見てもそわそわとしているのは見て取れるが、すぐに立ち上がろうとはしない。そんな辰巳に気がつかず、彼は三上に気づいてこちらにやってきた。
「ただいま。元気にしてたか?」
「盆の間だけじゃねーか」
「笠井も戻ってたんだな。仲良くしてたか?」
「お前は親戚のおっさんか」
「お帰りなさい、キャプテン」
帰ってきたその人、渋沢は、三上が顔をしかめるのも気にせず笠井に笑いかけた。寮でも部員たちをまとめる渋沢は、恐らく実家でも兄弟たちにつきまとわれただろうが、そんな疲れは微塵も見せない。三上も笠井も辰巳がどう動くのかが気になって横目で観察するが、渋沢は実家でリフレッシュできたのか、にこやかに実家での話をしている。次第に肩を落とす辰巳に見かねて、三上が小声で教えてやった。
「ああ、そうだった。辰巳!」
振り返った渋沢が呼ぶと、辰巳はぱっと顔を上げる。その少年らしい目の輝きに、三上が吹き出しそうになったのを笠井が慌てて抑えた。そうする笠井も笑うのをこらえて唇を噛んでいる。こちらにやってくる辰巳は心なしか早足で、笠井はぐっと俯いた。
「渋沢お帰り」
「ただいま。休み前に話してたことなんだが」
「あ、ああ」
「ちゃんと探したら見つかった。祖父に聞いたら、もういらないから辰巳にあげてくれって」
「か、貸してもらえるだけで」
「好きな人が持っている方が喜ぶだろうからって」
「あ、ありがとう!」
「今度私物と一緒に送ってもらうから、届いたら知らせるよ」
「ありがとう!」
「……なぁ、何の話?」
笑いをこらえながら三上が聞く。尤も、聞かずとも大体は予想がついているのだが。
「辰巳が探していた本のシリーズが実家にあったんだ」
「……そんなことだろうな」
「キャプテンのおじいさんも本が好きなんですか?」
「いや、まったく読まないということはないが辰巳ほど好きでもない。シリーズが揃ってるのは本棚に並べるためだ。見栄っ張りなんだよ。ああ、だからあまり状態がよくないかもしれないが」
「読めるならなんでも!」
「はは、家族も誰も読まないから、処分できて助かるよ」
辰巳の常日頃では見られない勢いにも渋沢は驚かないようだった。三上はもう耐えきれず、うずくまってしまっている。
「あ、そうだ、図書館に行かないと」
「そうなのか、気をつけてな」
肩の荷が下りたようにすっきりした辰巳は、渋沢に見送られて談話室を出ていった。笠井も手を振って、いつもはたくましいはずのかわいい背中を見送る。
「ほんとに辰巳は本が好きだなぁ」
「そ、そうですね」
そういうレベルなのだろうか。笠井には病気に見える。
「たっだいま〜!」
「あ、中西先輩お帰りなさい」
談話室に入って来るなり、中西は荷物を放り投げた。涼しい!とそのままソファーに倒れ込む。笠井が近づくと、中西の額に浮いた汗が外の暑さを物語っていた。確かに日中の一番暑い時間帯だ。こんな中辰巳は出ていったのか、と苦笑する。
「あ、ねえ辰巳は?俺出迎えてねって帰る時間メールしたんだけど」
「あー……」
「図書館に行ったぞ」
笠井が言い淀む助けになったのかわからないが、部屋に戻りかけた渋沢が代わりに答えた。えーっ、と頬を膨らませる中西に、今まで堪えていた三上がついに笑い声を上げる。
「中西、お前ついに本に負けてやんの!」
「……笠井、俺と三上どっちが好き?」
「中西先輩です!」
ふふん、と笑って見せた中西とは対照的に三上には悔しさがにじみ、笠井に恨みのこもった視線が飛んでくるが無視をする。
「どうした辰巳、忘れ物か」
談話室を出たばかりの渋沢の声に廊下を振り返った。出ていったはずの辰巳が戻ってきている。
「辰巳!俺を思い出して帰ってきてくれたんだね!」
「いや、図書カード忘れた」
ろくに中西を見ずに、辰巳は部屋へ向かっていく。中西が言葉を失った。三上の笑い声が大きくなるのを笠井が慌てて抱え込む。
再び辰巳が寮を出る頃には、三上の笑い声は悲鳴に代わっていた。
「してますねぇ」
談話室で本を読む辰巳の背中を見ながら、三上と笠井は顔を見合わせた。本に集中しているようでありながら、談話室に誰かが入ってくるたびにわずかに肩が揺れる。笠井が先輩に対してかわいいなぁ、などとこぼしても、三上はそれをとがめなかった。
辰巳が談話室で本を読んでいることは珍しくない。どんな環境でも本に集中できる辰巳は、冷暖房が必要な時期には共有スペースにいるエコな男だ。だから今日ここにいることも不自然ではないのだが、さっきからページが進んでいる気配がない。今日辰巳がここにいるのは、本を読むためではないだろう。
「うーん、あの辰巳先輩からここまで集中力を奪うとは」
辰巳が待っているのは、夏休みで帰省中のあの人だ。今日戻るとの連絡は三上たちも受け取ったが、誰よりも一番待ち望んでいるのは辰巳だろう。
「ただいま!」
辰巳が肩を震わせる。待ち望んでいたその人が、談話室のドアを大きく開けて入ってきた。辰巳の背中を見てもそわそわとしているのは見て取れるが、すぐに立ち上がろうとはしない。そんな辰巳に気がつかず、彼は三上に気づいてこちらにやってきた。
「ただいま。元気にしてたか?」
「盆の間だけじゃねーか」
「笠井も戻ってたんだな。仲良くしてたか?」
「お前は親戚のおっさんか」
「お帰りなさい、キャプテン」
帰ってきたその人、渋沢は、三上が顔をしかめるのも気にせず笠井に笑いかけた。寮でも部員たちをまとめる渋沢は、恐らく実家でも兄弟たちにつきまとわれただろうが、そんな疲れは微塵も見せない。三上も笠井も辰巳がどう動くのかが気になって横目で観察するが、渋沢は実家でリフレッシュできたのか、にこやかに実家での話をしている。次第に肩を落とす辰巳に見かねて、三上が小声で教えてやった。
「ああ、そうだった。辰巳!」
振り返った渋沢が呼ぶと、辰巳はぱっと顔を上げる。その少年らしい目の輝きに、三上が吹き出しそうになったのを笠井が慌てて抑えた。そうする笠井も笑うのをこらえて唇を噛んでいる。こちらにやってくる辰巳は心なしか早足で、笠井はぐっと俯いた。
「渋沢お帰り」
「ただいま。休み前に話してたことなんだが」
「あ、ああ」
「ちゃんと探したら見つかった。祖父に聞いたら、もういらないから辰巳にあげてくれって」
「か、貸してもらえるだけで」
「好きな人が持っている方が喜ぶだろうからって」
「あ、ありがとう!」
「今度私物と一緒に送ってもらうから、届いたら知らせるよ」
「ありがとう!」
「……なぁ、何の話?」
笑いをこらえながら三上が聞く。尤も、聞かずとも大体は予想がついているのだが。
「辰巳が探していた本のシリーズが実家にあったんだ」
「……そんなことだろうな」
「キャプテンのおじいさんも本が好きなんですか?」
「いや、まったく読まないということはないが辰巳ほど好きでもない。シリーズが揃ってるのは本棚に並べるためだ。見栄っ張りなんだよ。ああ、だからあまり状態がよくないかもしれないが」
「読めるならなんでも!」
「はは、家族も誰も読まないから、処分できて助かるよ」
辰巳の常日頃では見られない勢いにも渋沢は驚かないようだった。三上はもう耐えきれず、うずくまってしまっている。
「あ、そうだ、図書館に行かないと」
「そうなのか、気をつけてな」
肩の荷が下りたようにすっきりした辰巳は、渋沢に見送られて談話室を出ていった。笠井も手を振って、いつもはたくましいはずのかわいい背中を見送る。
「ほんとに辰巳は本が好きだなぁ」
「そ、そうですね」
そういうレベルなのだろうか。笠井には病気に見える。
「たっだいま〜!」
「あ、中西先輩お帰りなさい」
談話室に入って来るなり、中西は荷物を放り投げた。涼しい!とそのままソファーに倒れ込む。笠井が近づくと、中西の額に浮いた汗が外の暑さを物語っていた。確かに日中の一番暑い時間帯だ。こんな中辰巳は出ていったのか、と苦笑する。
「あ、ねえ辰巳は?俺出迎えてねって帰る時間メールしたんだけど」
「あー……」
「図書館に行ったぞ」
笠井が言い淀む助けになったのかわからないが、部屋に戻りかけた渋沢が代わりに答えた。えーっ、と頬を膨らませる中西に、今まで堪えていた三上がついに笑い声を上げる。
「中西、お前ついに本に負けてやんの!」
「……笠井、俺と三上どっちが好き?」
「中西先輩です!」
ふふん、と笑って見せた中西とは対照的に三上には悔しさがにじみ、笠井に恨みのこもった視線が飛んでくるが無視をする。
「どうした辰巳、忘れ物か」
談話室を出たばかりの渋沢の声に廊下を振り返った。出ていったはずの辰巳が戻ってきている。
「辰巳!俺を思い出して帰ってきてくれたんだね!」
「いや、図書カード忘れた」
ろくに中西を見ずに、辰巳は部屋へ向かっていく。中西が言葉を失った。三上の笑い声が大きくなるのを笠井が慌てて抱え込む。
再び辰巳が寮を出る頃には、三上の笑い声は悲鳴に代わっていた。
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