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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.24.Fri
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2014'12.26.Fri
「寒い〜おかん〜寒い〜」

「珍しいな、敦士がそんな寒がっとんの」

夕食の支度に台所に立つ光に寄り添ってくる息子はかわいらしいが、いかんせん既に母親の身長を抜いた男子高校生だ。あまりぐいぐいと体を寄せられるとかわいさよりも鬱陶しさが勝る。

確かに寒いがそれは冬だからという寒さで、今日は昨日と同じでとりわけ寒いわけではない。ふと思い当たって光は眉を寄せ、魚をさばく途中のまま敦士を見上げた。

「敦士、ちゅーしたるからおでこ出して」

「えっ何?やったー」

微塵も母親離れする気配を見せない男子高校生は無邪気に前髪をかきあげて光に額を向けた。その額に唇を当て、確信する。

「敦士、熱あるやん」

「え?」

「あ〜もう、布団入ってあったかくしとって」

「え〜?ないよぉ」

「あります〜。ええからはよ」

「はぁい」

心配性やなぁ、などと思っているのだろう、敦士はへらへら笑いながら部屋へ向かう。母親が子どもの心配をしなくてどうするのだ。

途中の料理もそのままに、光は手を洗って支度をする。敦士の父の実家が病院だ。孫に甘い家であるから混んでいても最優先しかねないが、一応電話をかけながら保険証を探す。

「……あっ、どうも〜光です〜。……ほんまに、毎日寒くてやんなりますわ。あのですね、敦士が熱っぽくて……あ、今から計ります。……あ〜、ちょっと待って下さいね」

財布を開けたまま敦士の部屋に向かえば、彼は大人しく布団に潜り込んでいた。額を撫でてやるとやはり平素より熱を持っている。

「敦士、友達誰かインフルエンザかかった子おった?」

「……あっ」

「……おったみたいです。はい、一応検査お願いしますわ。……はい、いや連れていきます。はい、はい、すいません〜お願いします〜。ほな〜」

「誰?」

「病院かけたらおばあちゃん出はった。混んでるから診察時間後に看てくれはるって。それまで寝とり」

「俺元気やのにぃ」

「おかんの言うこと聞かれへん?」

「寝ます」

頭まで毛布を引き上げた息子を笑い、毛布越しに頭を撫でた。



*



「てな訳で、敦士インフルエンザやったんで謙也さんしばらく実家帰っとって下さい」

「……え?」

玄関で愛しい妻が謙也を迎えてくれたと思ったら、続いたのは冷たい言葉だった。光はマスクを引き下げて謙也を見る。

「だから」

「あ、ちゃう、わかったけど!ええやん、俺も手洗いうがい気をつけたらええんやろ」

「あんた毎日どんだけの受験生に会うねん」

「……た、たくさん……」

謙也の経営する塾は個人塾ながら人気もあり、この時期は冬期講習もある。謙也自身がかからなくても謙也を介してうつることは十分ありえることだ。

「謙也さんが行くことは伝えてます。はいこれ、何日か着替え詰めてるんで、足りんもんあったら持ってくから連絡下さい」

「光様が足りひんのですけど……」

「我慢のあとのご馳走はおいしいやろ?」

「ううっ……せめて敦士の顔見せてや。起きてる?」

「さっきトイレに起きとったから、多分」

医者の息子である謙也は手洗いうがいの理想的な方法は仕込まれている。敦士もまた同様に医療関係者直々に教わっているはずなので風邪を引くのは珍しい。途中のリビングでマスクを掴み、謙也が部屋に入ると敦士は体を起こしてスポーツドリンクを飲んでいるところだった。

「ただいま」

「あ〜お帰り〜。おとんごめんなぁ〜」

「珍しいなぁ。しんどいやろ」

「めっちゃ熱上がった」

ベッドに寄って首筋に触れると平素よりかなり熱い。少し汗ばんだ肌には触れる謙也の冷えた手が心地いいのか、敦士は目を細めた。

「うう、医者の孫やのにぃ」

「医者の孫は医者の孫やで」

「でも〜」

「熱上がってからずっとそれ言ってんねん」

笑いながら入ってきた光は楽しげにベッドに腰を下ろし、敦士の額の冷却シートに触れた。それをはがして新しいものと交換する。

「血は争えへんなぁ。ねぇ謙也さん」

「……何の話ですか」

「敦士が5歳ぐらいのときやった?風邪ひいて『医者の息子やのにぃ』ってめそめそしとったん。同じ顔で同じこと言いよって、おもろいからやめてほしいわ」

「記憶にございません」

光は謙也を振り返って笑う。いまいちぼんやりしているのか敦士のリアクションはない。光がペットボトルを取り上げて肩を押せば素直に横になってベッドに潜り込む。

「しんどい……」

「予防注射もしてんのになぁ。まぁ運が悪いこともあるわ。おかん独り占めでラッキーって思っとき」

「そんな元気がほしい……」

光はけらけら笑い、敦士の頬を撫でて立ち上がる。

「ほななんかあったら呼びや」

「んー」

「ワンコでええからな。携帯ここな」

「んー」

毛布にくるまって鼻をすする息子は体は大きくともやはりまだ子どもなのだと実感する。謙也も促されて光と一緒に部屋を出た。

「ほな光も気ィつけてな」

「わかってますって。医者の息子の嫁ですよ」

「ただの塾講師の嫁やんけ。……なんか嬉しそうやし」

「……わかります?」

光は顔半分がマスクに隠れたままでもわかるほどにやりと笑う。わからないはずがない。そのマスクは伝染を防ぐためだが、表情を隠すためでもあるだろう。

「弱ってる敦士かわいくて」

病床の息子に悪いと思いながらも、普段手の掛からない彼の世話を焼けるのが嬉しいようだ。

ほらほら夕食も向こうで食べてな、と光に追い出されるように見送られ、閉まったドアの前で謙也は着替えを抱えた。

息子はかわいいし、あの辛そうな様子は心配だ。それでも、目を細めて笑う光を思う。

「独り占め、ええなぁ……」



*



自分自身がしばらく熱を出していないので、いまいち感覚を忘れている。光が寝る前に敦士を見に行くと起きていて、何をするでもなくぼんやり天井を見ている。生憎光は風邪となればここぞとばかりにパソコンの前に座っていたので、寝込んでいる人間にどうしてやればいいのかわからない。

「どない?熱下がらんなぁ」

撫でるように額や首筋を触れるとやはりまだ熱い。しかし辛そうな様子が少しましになっているので安心する。

「しんどない?」

「大丈夫。寝すぎてだるい」

「しんどかったら添い寝したろと思ったのに」

元気そうなのでからかえば、敦士はきょとんと目を丸くして、すぐに首を振る。

「おかんにうつったら困るもん。おかんがこんなしんどいの嫌や」

「あ、うん……ほな、お休み。でもしんどくなったら気にせんと起こしや」

「うん。眠ないけど頑張って寝るわ〜。お休み」

「お休み……」

最後に額をひと撫でして、光は部屋を出た。ポケットをまさぐって携帯を取り出し、ほとんど無意識に電話をかける。呼び出し音がしばらく続き、ようやく出た声は不快を露わにしたものだった。しかし今の光にとってそんなことはささいなことだ。

「あのね、うちの敦士って天使やなぁと思っとったんですけど、ほんまに天使やったんです。いや夜中とかどうでもええんで聞いて下さい。敦士が」

無言で切られた通話に一瞬反応できず、光はディスプレイを眺めて考える。しかしすぐに寝室に向かいながら電話をかけ直し、やはり長い呼び出し音の後、ドスの利いた声が聞こえたがやはり構わすず口を開いた。

「それで、敦士の話なんですけど」

『もうお前の息子が天使なんは知っとるから!』

「ほらユウジ先輩も敦士が天使やって思うでしょ?さっきの敦士の話聞いて下さいよ」

『光が敦士のことを天使やと思ってることは知っとるけど俺にとっては悪魔や』

ぷつり、とまた一方的に通話は途切れた。再度かけ直すが電源を切られている。舌打ちをして光もベッドに潜り込むが、妙に高ぶって気持ちがおさまらなかった。
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