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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'03.13.Thu
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2014'12.28.Sun
小さな手に引っ張られて向かったリビングは賑やかだった。兄に頼まれて1枚にまとめたクリスマスソングのCDが流れていて、テレビの脇には昨日両親に連れられて甥が選んできたクリスマスツリーの箱がある。一緒にやろう、と甥が財前を呼びにきたのは、要するに、彼の両親、つまり財前の兄とその嫁が、少年の世話を押しつけたということだろう。3歳の甥の背丈よりも高いツリーにややうんざりしながらも、ここまで来て甥が解放してくれるはずもない。

仕方なく包装を剥がして箱を開けるとプラスチックの葉を窮屈そうに広げたツリーが現れた。甥が引っ張りあげるのを押さえて土台を組み、ツリーも立ててやる。甥は嬉しそうにオーナメントの類を取り出し、CDに合わせて歌いながら飾りつけを始めた。「あわてんぼうのサンタクロース」から「We wish you a marry christmas」まで、うろ覚えのあやふやなまま気にせず歌われる歌はいかにも楽しそうだ。

「ひかるもして!」

「はいはい」

手のひらに押しつけられるオーナメントを枝にかけていく。財前がもっと小さい頃にうちにあったツリーはもっと小さくて机におけるようなものだったが、あれはどうしたのだろうか。

「あんなー、サンタさんにおてまみかいてん」

「へー。何書いたん」

何かを下さいと書いたようだが子どもの言葉は聞き取れず、財前はそうなんやぁ、と聞き流した。

財前のところにサンタクロースが来ていたのはそう長い期間ではない。年の離れた兄が喧嘩の拍子に弟にサンタクロースの正体をばらし、そのことを両親に確認すると兄が怒られ、財前は謝られた。その年から、クリスマスプレゼントは自己申請制になり、去年は財前が言い出すまで親は促しもしなかった。今年もきっとそうだろうから、早めに買ってもらえそうな値段を予想してほしいものを決めなくてはならない。

目の前ではしゃぐ甥のような気持ちを、いつまで感じていたのか思い出せなかった。



*



昼間は友達とカラオケで、家に帰って家族で夕食。中学生のクリスマスイブならこんなもんだろう。日が落ちてから解散して家に帰ると甥が朝からのハイテンションのままで、早々に電池切れしそうだと思えば案の定ケーキの前にはほぼ眠っていた。意地でホールケーキにナイフが入るところまでは起きていたが、ふた口ほどで母の隣で完全に寝てしまっている。大体予想がついていたので財前は自分のものには手をつけず、甥の食べかけの皿を引き寄せた。兄嫁の手作りのそれは甥好みにフルーツがふんだんに使われている。財前の母は料理もお菓子づくりも得意ではないので、手作りのケーキを食べたのは兄夫婦と同居を初めてからが初めてだ。それは誰が作ってもそうなるものなのか、兄嫁が得意なのか、市販のものとかざりつけの技術は違えども味が劣るとは思わなかった。

少しずつ、世界が広くなる。子どもだけでカラオケに行けるようになったり、サンタクロースの正体を知ったりする。家族は今更財前が思春期だからと兄夫婦は年が明けてしばらくしたらこの家を出ることになった。気にしないと言えたらよかったのかもしれないが、もしかしたら自分も反抗期がくるかもしれない。

「光もはよ寝ぇや〜」

「はぁい」

適当に聞き流し、寝る支度をすませて自室に入る。パソコンをつけると3時間は動けなくなることを知りながらもほぼ習慣化してしまっていた。

インターネットの世界は広い。生憎財前はまだ親によってフィルターをかけられているのでその世界はまだ区切られている。

しかしそのインターネットの世界も現実と同じようにクリスマスを満喫していて、それは悲喜こもごも、財前に理解できたりできなかったりという話で溢れている。

いつか財前もクリスマスを彼女と過ごしたり、彼女がいないことを嘆いたりするのだろうか。今はまだぴんとこない。女の子はかわいいと思うし、触れたいと思うことがないわけでもない。しかし一緒に遊んだりはしゃいだりする相手として異性を選ぶ自分が想像できなかった。

パソコンを切って布団に潜り込んでからも携帯を手にしていて、我ながら依存症である自覚はある。しかし携帯に触れたまま気づけば寝ているという毎日に慣れてしまっていて、その日も変わらず同様だった。



「ひかる、ひかる!」

クリスマスの朝、財前を起こしたのは甥の興奮した声だった。小さな手が毛布を引き剥がし、露骨に不機嫌な財前に怯みもせず、サンタクロースからのプレゼントらしい見慣れないおもちゃを振りかざしている。はいはいよかったなとあしらって再び布団に潜ろうとするも、彼はまだ財前を解放する気はないようだ。

「ひかるはなにもろたん?」

「あ〜?」

甥にとって、財前はまだ彼と同じ「子ども」のカテゴリーであるらしい。どう説明したものか、放棄して寝ようとした財前は甥の追撃にあってまたも遮られる。

「なあ、はよあけて!」

開けるも何も。渋々甥を見ると彼はその小さな目で、財前の枕元を凝視していた。赤いリボンのかかったプレゼントに、財前は眠気も飛んで硬直する。分かりやすくサンタクロースやプレゼントの舞う包装紙は届くはずのない「サンタクロースからの贈り物」のようにそこに鎮座していて、半身を起こして手に取るがまだ思考ができなかった。

「あら、光もええ子にしとったからちゃんとサンタさん来たんやねぇ」

様子を見に来たらしい母が財前の部屋を覗き、財前はやっと理解した。この家にはふたりの子どもがいて、ひとりにはサンタクロースがプレゼントを置いたのにもうひとりには何もない、なんてことは、甥の世界では有り得ないのだ。

あけて、と甥に促され、孫に甘いおばあちゃんにも見守られながら無造作にリボンをほどいて包装紙を破る。現れたのは、テニスボールだった。財前は思わず溜息をつく。期待したわけではないが、それでももう少し、夢のあるものでよかっただろうに。

「わぁっ、よかったなぁ!ひかる、てにすすきやもんな!」

「……せやな」

ボールをなくしたことを、誰にもまだ言っていないはずだった。おそらく部活用に紛れてしまって、見分けられる印もなかったのでそのうちちょろまかしてやろうと考えながら忘れている。だからしばらく帰宅後の自主連は気が向いたときに走っているだけで、ラケットを持って出ることはなかったから、察することは容易だろう。

しかし、自分がテニスを一生懸命しているのだと思われることは、妙に気恥ずかしい。

少しずつ世界は広くなって、もっともっと未来にば財前がサンタクロースになることもあるのかもしれない。そのときはもっといいものをプレゼントしよう。誰にでもなく誓い、テニスボールを握りしめた。
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