言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2014'12.24.Wed
「まぁええねんけどォ」
「……何よ」
「小春とふたりでクリスマス過ごすことになるとは思ってへんかっただけぇ」
しかも、一氏ユウジの手作り料理で。
物珍しげに部屋の中を見る私を小春はたしなめたが、仕方ないだろう。学生の頃におっかけをしていた芸人の自宅だ。今は本命ではないとはいえ、興味がないわけではない。尤もこの2DKは小春の家でもあって、更に言えば住居としての家でもない。それを反映するように、壁側にそびえる本棚はおよそ今は使っていないとわかる背表紙もきれいなままの全集が並んでいて、他に収納とおぼしき家具はキッチンの食器棚ぐらいなものだ。
ここは東京。大学の先生になった小春と、私が追っていた頃より遙かに人気者になった芸人・一氏ユウジの東京での宿のような部屋だった。学会だなんだ、撮影だなんだと東京へくる機会が増え、いちいちホテルをとるのが煩わしくなったらしい。さっきシングルベッドひとつなのをからかったら、小春はふたり一緒にくることはないから、とあっさりあしらおうとしたが、じゃあ今夜はどうするつもりだったのかと聞くと黙ってしまった。
良くも悪くも、変わらないふたりだ。私がユウジを追いかけていた学生時代、小春はしばらく自分がユウジと知り合いであることすら隠して私の追っかけ話につき合っていた。あれはそこそこ名前が売れてきたユウジのためだったのだと思っていたが、すぐにそうではないと気がついた。IQ200という冗談みたいな脳味噌を持っているくせに不器用で、好きな人への甘え方も知らない。
小さな折りたたみのローテーブル。無造作に季節折々の服のかけてあるラック。段ボールに投げ込まれたハンガー。テレビはない。きっと、ここは本来ならふたり以外の誰かは入らないのだ。
手伝うと言ったが客だからと断られ、私はぼけっと机の前で膝を抱えて待っている。小春はてきぱきと鍋をかき回したり包丁を握ったりと食べる用意を進めてはテーブルに一品増やしていく。
メインはどんと置かれたローストビーフだ。具だくさんのミネストローネ、ブロッコリーのサラダ、バジルソースのパスタ。ユウジは昨日のうちにこれらを仕込んで出かけたのか。プライベートのユウジは自分が応援していた姿そのもので、別人だ。
本来ならユウジは世間の盛り上がるクリスマス両日休みだったらしい。それが歳末助け合いチャリティーライブにMCとして出る予定だった先輩芸人がインフルエンザにかかったとかで、急遽ユウジが引っ張り出された。使い勝手はいいだろう。かつてのような追っかけはやめたとはいえ好きな芸人だ。年々芸に磨きをかけて、更に俳優としても活躍するようになってからはかなり名も売れて、先輩芸人の代わりは十分つとまる。
「さっ、いただきましょうか!」
「わーい」
メニューはすべて揃ったようだ。私が差し入れたワインを開けて、不揃いなグラスに注ぐ。
「少し早いけど、今年もお疲れさまでした」
「お疲れさまでした。メリークリスマス!」
「メリークリスマス」
ちん、とグラスをぶつけ合い、なんとなく顔を見合わせると笑いがこみ上げる。会うのは久しぶりでもそう感じていなかったのに、この感覚はやはり久しぶりでくすぐったい。
「なんやかんや、小春とクリスマス過ごすの初めてちゃう?」
「せやねえ。美里ちゃんが就職して東京来てからはほんとに会ってなかったし。式いつ頃?」
「6月にしようかって。せっかくやし」
「あら、ジューンブライド。ええねぇ。恋人としての最後のクリスマスやったのに、彼氏くんお仕事とはついてへんなぁ」
「ええねんて。人妻になるまえに友人と過ごすクリスマスの方が貴重やわ。嘆いてんのはユウジぐらいちゃう?」
「ええねんて。どうせ毎年似たようなことやってんねん」
どこか突き放すような、しかし噛みしめるような小春に頬が緩む。何にやけてんねん、やや鋭い視線が飛んできたが、私がにやけているわけを小春がわからないはずがないのだ。
まるで秘密基地のようなふたりの部屋のことを、私は誰にも言わないだろう。
「……何よ」
「小春とふたりでクリスマス過ごすことになるとは思ってへんかっただけぇ」
しかも、一氏ユウジの手作り料理で。
物珍しげに部屋の中を見る私を小春はたしなめたが、仕方ないだろう。学生の頃におっかけをしていた芸人の自宅だ。今は本命ではないとはいえ、興味がないわけではない。尤もこの2DKは小春の家でもあって、更に言えば住居としての家でもない。それを反映するように、壁側にそびえる本棚はおよそ今は使っていないとわかる背表紙もきれいなままの全集が並んでいて、他に収納とおぼしき家具はキッチンの食器棚ぐらいなものだ。
ここは東京。大学の先生になった小春と、私が追っていた頃より遙かに人気者になった芸人・一氏ユウジの東京での宿のような部屋だった。学会だなんだ、撮影だなんだと東京へくる機会が増え、いちいちホテルをとるのが煩わしくなったらしい。さっきシングルベッドひとつなのをからかったら、小春はふたり一緒にくることはないから、とあっさりあしらおうとしたが、じゃあ今夜はどうするつもりだったのかと聞くと黙ってしまった。
良くも悪くも、変わらないふたりだ。私がユウジを追いかけていた学生時代、小春はしばらく自分がユウジと知り合いであることすら隠して私の追っかけ話につき合っていた。あれはそこそこ名前が売れてきたユウジのためだったのだと思っていたが、すぐにそうではないと気がついた。IQ200という冗談みたいな脳味噌を持っているくせに不器用で、好きな人への甘え方も知らない。
小さな折りたたみのローテーブル。無造作に季節折々の服のかけてあるラック。段ボールに投げ込まれたハンガー。テレビはない。きっと、ここは本来ならふたり以外の誰かは入らないのだ。
手伝うと言ったが客だからと断られ、私はぼけっと机の前で膝を抱えて待っている。小春はてきぱきと鍋をかき回したり包丁を握ったりと食べる用意を進めてはテーブルに一品増やしていく。
メインはどんと置かれたローストビーフだ。具だくさんのミネストローネ、ブロッコリーのサラダ、バジルソースのパスタ。ユウジは昨日のうちにこれらを仕込んで出かけたのか。プライベートのユウジは自分が応援していた姿そのもので、別人だ。
本来ならユウジは世間の盛り上がるクリスマス両日休みだったらしい。それが歳末助け合いチャリティーライブにMCとして出る予定だった先輩芸人がインフルエンザにかかったとかで、急遽ユウジが引っ張り出された。使い勝手はいいだろう。かつてのような追っかけはやめたとはいえ好きな芸人だ。年々芸に磨きをかけて、更に俳優としても活躍するようになってからはかなり名も売れて、先輩芸人の代わりは十分つとまる。
「さっ、いただきましょうか!」
「わーい」
メニューはすべて揃ったようだ。私が差し入れたワインを開けて、不揃いなグラスに注ぐ。
「少し早いけど、今年もお疲れさまでした」
「お疲れさまでした。メリークリスマス!」
「メリークリスマス」
ちん、とグラスをぶつけ合い、なんとなく顔を見合わせると笑いがこみ上げる。会うのは久しぶりでもそう感じていなかったのに、この感覚はやはり久しぶりでくすぐったい。
「なんやかんや、小春とクリスマス過ごすの初めてちゃう?」
「せやねえ。美里ちゃんが就職して東京来てからはほんとに会ってなかったし。式いつ頃?」
「6月にしようかって。せっかくやし」
「あら、ジューンブライド。ええねぇ。恋人としての最後のクリスマスやったのに、彼氏くんお仕事とはついてへんなぁ」
「ええねんて。人妻になるまえに友人と過ごすクリスマスの方が貴重やわ。嘆いてんのはユウジぐらいちゃう?」
「ええねんて。どうせ毎年似たようなことやってんねん」
どこか突き放すような、しかし噛みしめるような小春に頬が緩む。何にやけてんねん、やや鋭い視線が飛んできたが、私がにやけているわけを小春がわからないはずがないのだ。
まるで秘密基地のようなふたりの部屋のことを、私は誰にも言わないだろう。
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