言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2014'12.25.Thu
恋人はサンタクロース、なんて歌詞の歌があるらしい。その全容は知らないので、兵太夫はそれに共感することも憤慨することもできなかったが、少なくともそのワンフレーズは、兵太夫の今の状況を言い表すのにふさわしい言葉だった。
クリスマスを一緒に過ごす相手がいるはずの伊助が予定がないというので追求すれば、彼氏殿はひとり身の集まる男子会なるものに出席するらしい。馬鹿らしいと思うが男のよくわからない感覚で、恥ずかしいという理由で彼はまだ周囲に彼女がいることを隠しているらしかった。それでいいのかと伊助に問えば、別に構わない、と少しも残念そうにしなかった。兵太夫は伊助のような大人にはなれない。クリスマスはサンタクロースになる恋人と、派手な喧嘩をしたばかりだった。
「反省してるならさっさと謝ればいいのにー」
「……他人事だと思って」
「他人事だもん」
けらけら笑う三治朗を睨んでも、彼女には少しもダメージはない。
クラスメイトと一緒に賑やかにケーキを作って、紅茶を入れてのささやかなクリスマスパーティも、楽しくないわけではない。それでも折に触れて思い出す団蔵の姿に、兵太夫はつい眉を潜めた。
団蔵をつき合い始めて初めてのクリスマスだ。だというのに、配送業を営む彼の家では団蔵も貴重な働き手で、クリスマス当日にプレゼントを届けたいと思う人の分だけ彼らは忙しくなる。そのことは説明されると理解はできるが、誰かの休みの日にも働く人はいるのだと思ってもいなかった自分を馬鹿にされたようでもあり、素直に頷くことができなかった。
だから、自分が悪いことはわかっている。
何度目かの鬱々とした気分に襲われた兵太夫を遮るように、チャイムが鳴った。家の人である伊助が立ち上がり、三治朗とそれを見送る。
「僕はクリスマスはみんなと騒ぐ方が楽しいけどなー」
「選択肢があって選ぶのと、一方的に選択肢を奪われるのは別だろ」
「さー、ぼくはまだお子様だからわかりませーん」
けらけらと笑う三治朗がわかっていてからかってきているのだ。それにうまく言い返す言葉が見つからないのが悔しい。
伊助が戻ってきたと思えば、兵太夫を呼んだ。なぜ自分だけが呼ばれたのかわからずに首を傾げるが、とにかく玄関へ行くように言われて更にわけがわからない。
暖房で暖まった部屋を出て渋々玄関へ向かう。しかし玄関に立つ人物を見て、兵太夫は脚を止めて硬直した。安っぽい、赤いサンタ帽を被ったその人は、兵太夫を見て気まずげに頭をかく。
「な……何?」
「あー、一回家行ったんだけど、伊助んちって言われて。……なんでそんな遠いんだよ。こいよ」
その声に尻込みするが、それを悟られたくなくて必死で顔を引き締めて足を進める。足に馴染まないスリッパのように、この空気はぎこちない。
「ん」
「えっ」
差し出されたのはしっかりとした紙袋だった。百貨店の地下にある、兵太夫の好きな洋菓子店のロゴがプリントしてある。視線に促されて恐る恐る手を伸ばしてそれを取ると、中にリボンがちらりと見えた。
「なんか、女の好きそうなもんわかんねえから」
「えっ、何これ」
「だから、クリスマスプレゼント」
ぶわっと熱が上がる。きっと隠せていない。兵太夫が熱くなるのに少し遅れて、団蔵も低く呻きながらマフラーを緩めた。
「あ〜……だからその……悪かった。俺ももっと早く言えばよかったです。すいませんでした。だから仲直りしてくれよ」
どこか拗ねたような、そんな顔でそんなことを言われたら、断ることができるはずがない。どうしたらこれ以上この男の前で強がることができるのか、兵太夫は奥歯を噛んだ。
「こ……こんな……今もらっても困るのに」
「あー、ごめん」
「まぁ、もらっとくけど」
「どっちだよ」
「……団蔵、荷物引き取りもやってるよね」
「してるけど、……何?」
怪訝そうな声にわざとはっきり声を出す。
「ぼく8時以降には家に帰ってるからうち寄って。荷物出すから」
「担当の方じゃないからいつになるかわかんないけど」
「いつでもいい。全部仕事終わってからでいいよ。……団蔵あてだから」
一瞬、団蔵が硬直する。しくじったか、と思ったが、団蔵は黙ったままのそりとマフラーを巻き直した。マフラーで顔の半分が隠れたが、表情は隠しきれていない。兵太夫は自分があんなに緩んでいないことをただ願う。
できるだけ早く行きます。その言葉に、兵太夫もただ頷くことしかできなかった。
クリスマスを一緒に過ごす相手がいるはずの伊助が予定がないというので追求すれば、彼氏殿はひとり身の集まる男子会なるものに出席するらしい。馬鹿らしいと思うが男のよくわからない感覚で、恥ずかしいという理由で彼はまだ周囲に彼女がいることを隠しているらしかった。それでいいのかと伊助に問えば、別に構わない、と少しも残念そうにしなかった。兵太夫は伊助のような大人にはなれない。クリスマスはサンタクロースになる恋人と、派手な喧嘩をしたばかりだった。
「反省してるならさっさと謝ればいいのにー」
「……他人事だと思って」
「他人事だもん」
けらけら笑う三治朗を睨んでも、彼女には少しもダメージはない。
クラスメイトと一緒に賑やかにケーキを作って、紅茶を入れてのささやかなクリスマスパーティも、楽しくないわけではない。それでも折に触れて思い出す団蔵の姿に、兵太夫はつい眉を潜めた。
団蔵をつき合い始めて初めてのクリスマスだ。だというのに、配送業を営む彼の家では団蔵も貴重な働き手で、クリスマス当日にプレゼントを届けたいと思う人の分だけ彼らは忙しくなる。そのことは説明されると理解はできるが、誰かの休みの日にも働く人はいるのだと思ってもいなかった自分を馬鹿にされたようでもあり、素直に頷くことができなかった。
だから、自分が悪いことはわかっている。
何度目かの鬱々とした気分に襲われた兵太夫を遮るように、チャイムが鳴った。家の人である伊助が立ち上がり、三治朗とそれを見送る。
「僕はクリスマスはみんなと騒ぐ方が楽しいけどなー」
「選択肢があって選ぶのと、一方的に選択肢を奪われるのは別だろ」
「さー、ぼくはまだお子様だからわかりませーん」
けらけらと笑う三治朗がわかっていてからかってきているのだ。それにうまく言い返す言葉が見つからないのが悔しい。
伊助が戻ってきたと思えば、兵太夫を呼んだ。なぜ自分だけが呼ばれたのかわからずに首を傾げるが、とにかく玄関へ行くように言われて更にわけがわからない。
暖房で暖まった部屋を出て渋々玄関へ向かう。しかし玄関に立つ人物を見て、兵太夫は脚を止めて硬直した。安っぽい、赤いサンタ帽を被ったその人は、兵太夫を見て気まずげに頭をかく。
「な……何?」
「あー、一回家行ったんだけど、伊助んちって言われて。……なんでそんな遠いんだよ。こいよ」
その声に尻込みするが、それを悟られたくなくて必死で顔を引き締めて足を進める。足に馴染まないスリッパのように、この空気はぎこちない。
「ん」
「えっ」
差し出されたのはしっかりとした紙袋だった。百貨店の地下にある、兵太夫の好きな洋菓子店のロゴがプリントしてある。視線に促されて恐る恐る手を伸ばしてそれを取ると、中にリボンがちらりと見えた。
「なんか、女の好きそうなもんわかんねえから」
「えっ、何これ」
「だから、クリスマスプレゼント」
ぶわっと熱が上がる。きっと隠せていない。兵太夫が熱くなるのに少し遅れて、団蔵も低く呻きながらマフラーを緩めた。
「あ〜……だからその……悪かった。俺ももっと早く言えばよかったです。すいませんでした。だから仲直りしてくれよ」
どこか拗ねたような、そんな顔でそんなことを言われたら、断ることができるはずがない。どうしたらこれ以上この男の前で強がることができるのか、兵太夫は奥歯を噛んだ。
「こ……こんな……今もらっても困るのに」
「あー、ごめん」
「まぁ、もらっとくけど」
「どっちだよ」
「……団蔵、荷物引き取りもやってるよね」
「してるけど、……何?」
怪訝そうな声にわざとはっきり声を出す。
「ぼく8時以降には家に帰ってるからうち寄って。荷物出すから」
「担当の方じゃないからいつになるかわかんないけど」
「いつでもいい。全部仕事終わってからでいいよ。……団蔵あてだから」
一瞬、団蔵が硬直する。しくじったか、と思ったが、団蔵は黙ったままのそりとマフラーを巻き直した。マフラーで顔の半分が隠れたが、表情は隠しきれていない。兵太夫は自分があんなに緩んでいないことをただ願う。
できるだけ早く行きます。その言葉に、兵太夫もただ頷くことしかできなかった。
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