言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'12.21.Sat
「どうしたら早く泳げるか、かぁ……」
首を傾げる渚に、怜は少し苛立って先を促した。自分たちには時間がない。水泳は練習する場所も時間も限られていて、登下校がてらに体を鍛えているだけでは不十分だ。それを補おうと怜が正直に渚に教えを乞うも、彼はいつも通りのふんわりとした態度で、のれんに腕押しとはこのことだ。
水泳部のほかのメンバーとは大きな差がある怜にとっては、駅で電車を待つこの時間さえも惜しい。渚と並んでベンチに座って、マスコットキャラクターの怖い噂を聞くことよりはまだましだと思ったのだが、さほど違いはなかったかもしれない。
「では聞き方を変えます。君はどうやって泳ぎの練習をしたのですか?」
「え〜?え〜っとねぇ、水泳を始めたのはスクールに入ってからだから、多分教えてもらったんだろうけど……うーん、でも僕たちみんな、順調に選手コースに入ってたからなぁ」
「選手コース?」
「うん。スイミングスクールね、始めに入ったときはみんな一緒だけど、定期的にテストがあって進級していくんだ。級に合格するとバッチがもらえるんだよ〜!あれがひとつずつ増えていくの、すごく嬉しかったな〜」
「……ご褒美があるから頑張った、と言うことですか……」
幾らなりふり構っていられないとはいえ、彼を頼ろうとしたのは間違いだったようだ。思わず溜息をつけば、隣の渚は焦ったように手を振った。
夏の炎天下でも、彼はいつでも笑顔を絶やさない。時には暑いとしかめっ面で愚痴をこぼすこともあるが、次の瞬間には笑顔でこちらを振り返る。
「そればっかりじゃないよ!だって選手コースは級なんてないから、何もご褒美はなかったもん」
「君のことだから、練習の後のアイスでも楽しみにしてたんじゃないですか?」
「そんっ……な、こと……も、あった、かな?えへへ」
「はぁ……」
電車はまだ来そうにない。夏の夕方の風はまだ生ぬるく、今までならば一駅ほど走って帰っていた。それも水泳を始めた今はやめてしまった。体を休めるという名目で。
水の中で動く、と言うことは、思っていた以上に体力のいることだった。自分が今までこの身で切っていた風はどれほど抵抗がなかったのかと思うほどに、水は重く、体にまとわりつく。
「あ、そうだ!思いだした!」
「何ですか」
「僕、始めは水に顔をつけるのも嫌いだったんだよ」
「あなたがですか?」
「そう、お母さんが見えなくなっちゃうからすごく怖かったの」
「はぁ」
それは何となく、容易に想像がつく。むしろ彼が甘えん坊でなければ驚くほどだ。
「でもね、水泳を始めたばかりの時、多分お母さんは水が怖くて僕が嫌がってるんだって思ったんだろうね。優しく撫でてくれながら、教えてくれたんだ。こーやって!」
ぐい、と渚に強引に引っ張られた。咄嗟にことにバランスを崩し、慌てる怜の頭を渚は自分の膝に預ける。まだ少し湿った髪を撫で、優しい声を耳に落とした。
「『まだなぎちゃんが今よりもぉっと小さくて、お母さんのお腹の中にいた頃、なぎちゃんはお母さんのお腹の中で泳いでたんだよ』」
「……お腹の中、ですか」
「そうだよ。生まれたばかりの赤ちゃんって、泳げるんだって。ほら、赤ちゃんの周りは羊水でしょ?」
「ああ……」
「だからね、怜ちゃんもお母さんのお腹の中ではすいすい泳いでたんだよー」
まるで自分が怜の母だと言わんばかりに、渚は優しく額を撫でる。髪は渇き切っていないのだから制服が濡れるだろうと思うのに、妙に心地よくて言い出せない。呼ばれた気がしてすいと顔を上げると、渚が視線を合わせてにこりと笑う。
「それに、僕らは誰よりも早く泳いで、一番になったことがあるはずだよ」
「一番……って、それ、もしかして下ネタですか」
「うふっ」
渚の手が顎を撫でた。そうかと思った瞬間には彼はぐっと状態を倒し、怜の頭を抱え込むようにして額にキスを落とす。慌てて振り払うとベンチから落ちて尻餅をついた。渚はけらけらと笑い声をあげる。
「何をするんですか!」
「お母さんがしてくれたおまじない。怜ちゃんにもパワーをあげようと思って」
「……あなたは僕の母ですか」
「違うよ?大好きな人に有効なおまじない!!」
首を傾げる渚に、怜は少し苛立って先を促した。自分たちには時間がない。水泳は練習する場所も時間も限られていて、登下校がてらに体を鍛えているだけでは不十分だ。それを補おうと怜が正直に渚に教えを乞うも、彼はいつも通りのふんわりとした態度で、のれんに腕押しとはこのことだ。
水泳部のほかのメンバーとは大きな差がある怜にとっては、駅で電車を待つこの時間さえも惜しい。渚と並んでベンチに座って、マスコットキャラクターの怖い噂を聞くことよりはまだましだと思ったのだが、さほど違いはなかったかもしれない。
「では聞き方を変えます。君はどうやって泳ぎの練習をしたのですか?」
「え〜?え〜っとねぇ、水泳を始めたのはスクールに入ってからだから、多分教えてもらったんだろうけど……うーん、でも僕たちみんな、順調に選手コースに入ってたからなぁ」
「選手コース?」
「うん。スイミングスクールね、始めに入ったときはみんな一緒だけど、定期的にテストがあって進級していくんだ。級に合格するとバッチがもらえるんだよ〜!あれがひとつずつ増えていくの、すごく嬉しかったな〜」
「……ご褒美があるから頑張った、と言うことですか……」
幾らなりふり構っていられないとはいえ、彼を頼ろうとしたのは間違いだったようだ。思わず溜息をつけば、隣の渚は焦ったように手を振った。
夏の炎天下でも、彼はいつでも笑顔を絶やさない。時には暑いとしかめっ面で愚痴をこぼすこともあるが、次の瞬間には笑顔でこちらを振り返る。
「そればっかりじゃないよ!だって選手コースは級なんてないから、何もご褒美はなかったもん」
「君のことだから、練習の後のアイスでも楽しみにしてたんじゃないですか?」
「そんっ……な、こと……も、あった、かな?えへへ」
「はぁ……」
電車はまだ来そうにない。夏の夕方の風はまだ生ぬるく、今までならば一駅ほど走って帰っていた。それも水泳を始めた今はやめてしまった。体を休めるという名目で。
水の中で動く、と言うことは、思っていた以上に体力のいることだった。自分が今までこの身で切っていた風はどれほど抵抗がなかったのかと思うほどに、水は重く、体にまとわりつく。
「あ、そうだ!思いだした!」
「何ですか」
「僕、始めは水に顔をつけるのも嫌いだったんだよ」
「あなたがですか?」
「そう、お母さんが見えなくなっちゃうからすごく怖かったの」
「はぁ」
それは何となく、容易に想像がつく。むしろ彼が甘えん坊でなければ驚くほどだ。
「でもね、水泳を始めたばかりの時、多分お母さんは水が怖くて僕が嫌がってるんだって思ったんだろうね。優しく撫でてくれながら、教えてくれたんだ。こーやって!」
ぐい、と渚に強引に引っ張られた。咄嗟にことにバランスを崩し、慌てる怜の頭を渚は自分の膝に預ける。まだ少し湿った髪を撫で、優しい声を耳に落とした。
「『まだなぎちゃんが今よりもぉっと小さくて、お母さんのお腹の中にいた頃、なぎちゃんはお母さんのお腹の中で泳いでたんだよ』」
「……お腹の中、ですか」
「そうだよ。生まれたばかりの赤ちゃんって、泳げるんだって。ほら、赤ちゃんの周りは羊水でしょ?」
「ああ……」
「だからね、怜ちゃんもお母さんのお腹の中ではすいすい泳いでたんだよー」
まるで自分が怜の母だと言わんばかりに、渚は優しく額を撫でる。髪は渇き切っていないのだから制服が濡れるだろうと思うのに、妙に心地よくて言い出せない。呼ばれた気がしてすいと顔を上げると、渚が視線を合わせてにこりと笑う。
「それに、僕らは誰よりも早く泳いで、一番になったことがあるはずだよ」
「一番……って、それ、もしかして下ネタですか」
「うふっ」
渚の手が顎を撫でた。そうかと思った瞬間には彼はぐっと状態を倒し、怜の頭を抱え込むようにして額にキスを落とす。慌てて振り払うとベンチから落ちて尻餅をついた。渚はけらけらと笑い声をあげる。
「何をするんですか!」
「お母さんがしてくれたおまじない。怜ちゃんにもパワーをあげようと思って」
「……あなたは僕の母ですか」
「違うよ?大好きな人に有効なおまじない!!」
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