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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.19.Sun
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2013'12.24.Tue
「あ、保健室に財布忘れてきた、左近ごめん、先に行って校門で待っといて。伊作先輩たちも来ると思うから」

高等部一年、一つ年上の三反田数馬の言葉にうなずいて、左近は先にひとりで昇降口に向かった。今日は終業式、二学期も終わったが、中高生の長期休みはそれなりに忙しい。まず初めの行事として、クリスマスパーティーをしなければ!と言い出したのは委員長代理の数馬だった。他の委員会がクリスマスパーティーをすると耳にして、保健委員もしなければならないと思ったらしい。何てことはない、集まって騒ぎたいだけの話だ。

その数馬の話に便乗したのが、卒業したはずの善法寺伊作、その彼氏である不審人物だった。大人の財力を見せつけて、当初はどこかレストランを貸し切ってあげようか、などととんでもない提案をしてきたので、譲歩してカラオケのパーティールームを予約してもらったのだ。左近はあまり乗り気ではないことだが、委員会で集まるのに自分だけ行かないというわけにもいかない。根が真面目なので断れないのだ。

昇降口を出て、思わず寒いと口に出す。雪が降ってホワイトクリスマス、と言うことはなさそうだが、寒いことに変わりはない。天気だけはいい青い空を見上げながら、左近は手袋をしながら校門へと向かっていく。卒業生の伊作たちが迎えに来てくれるはずになっていた。

校門の前に用務員の小松田が立っていた。彼も寒さには弱いようで、これでもかとばかりに着ぶくれをした後ろ姿は数馬の言葉を借りるなら「つついて転がしたくなるかわいさ」だ。実際転がっていきそうなほど丸くなっている。ぐるぐる巻いたマフラーに顔を半分うずめ、かわいらしい耳当てもして万全装備だ。冬場は外の掃除をしている姿が減る彼が何をしているのかと思えば、その手にはバインダーがある。来客があったのだろうか。客からサインをもらうことは彼が何よりも大事にしている仕事だ。

「小松田さん、寒いですね」

「ああ〜、左近くん、寒いねぇ。女の子は寒そうだなぁ」

「ほんとに。タイツもうこれより分厚いのないんですよ」

「風邪ひかないようにね」

「はい、小松田さんも。よいお年を」

「さようなら、よいお年を」

鼻の頭を真っ赤にした小松田は鼻をすすり、左近に手を振った。せめて寒さを少しでも忘れるようできるだけ元気よく挨拶をして、左近は校門を出る。

――そして、足を止めた。

校門を出てすぐ、目が合ったのはコートの男性。左近を見つけて、寒さにすくめていた肩を気まずげに降ろした。左近は横切って帰りかけたが、数馬を待たねばならないことを思い出す。



彼は高坂陣内左ヱ門。伊作がおつき合いしている男性は少し地位のある立派な男で、高坂はその部下である。女子高生とつき合っている自由な上司に翻弄されている気の毒な人物でもあるが、左近は同情する気にもなれなかった。きっと今日も、その上司の指示でそこで待たされているのだろう。

左近は仕方なく、距離を取って校門を出たところで数馬を待った。時々高坂に目をやると、彼も左近からは視線を外している。黒のコートの下は恐らくいつものスーツだろう。男の人のスーツは寒いのだろうか。足元から冷えてきて、左近は太腿をぴたりと寄せる。

手袋をした手でも指は冷えてきて、指先を揉みながら、考えたくないことが頭に浮かんでくるのを拭えなかった。

――ハメられた、のではなかろうか。

もう一度高坂に視線を向けると、今度は彼と目が合った。彼も何か言いたげに、しかしお互い口をつぐんで目をそらす。

絶対に、保健委員や彼の上司にしてやられた。

彼らはどうしてだか人の恋愛に首を突っ込みたがるたちで、目下のところ手を出さずにいられないのが左近と高坂のふたりであるらしい。機会を見つけてはふたりきりにされ、そうされたところで左近としては彼と話したいとも思わないのだ。正直わずらわしくて仕方がない。



こんな放課後に校門に向かってくる影があると思えば、同じ学年の池田三郎次と後輩の二郭伊助だった。そもそも数馬がクリスマスパーティーを言い出したのは、彼らの所属する委員会の先輩が企画を言い出したせいでもある。逆恨みもいいところだが思わず彼らに向ける視線は剣呑なものになってしまった。

「何してんだ、寒いのに」

「……三反田先輩に待てって言われたんだ。保健委員で出かけるんだけど、やり忘れたことがあるからって」

「……そっちの人は?」

「関係ない!」

「……まぁ、風邪ひかないようにしろよ」

呆れた顔で三郎次は手にしていた温かい飲み物の入ったペットボトルを差し出した。ありがたくそれを受け取ったが、もう冷めてるようですぐにがっかりする。軽く会釈をした伊助と三郎次が校門を通っていった。左近を高坂を見て呆れただろうふたりに憤る。あいつらもずっと一緒にいる癖に、お互い告白もしないままなのだ、とやかく言われる筋合いはないので何も言わせない。



恋心は、ある。

もう彼と出会って一年以上、まだ足掻くつもりはない。きっと自分は彼に惹かれているのだろう。高坂が左近をどう思っているのかはわからないが、自分の気持ちは確かだ。

それでも認めることができないのは、少しややこしい事情があって、誰にも相談できずにいるからだ。

左近には前世の記憶がある。とは言えその一生を全て覚えているわけではなく、とても半端な記憶だ。その中に高坂はいない。いないが、知っている、とは思う。

過去の記憶にいない人の存在が気になるだけなのか、ただ単に今を生きている左近が彼のことを好きになったのか、それをわかりかねている。

それがわかったところで、結局恋は恋なのだろうと思う。左近がすっきりしないだけだ。

元より、高坂のような常識のある男が左近のような中学生を好きになるとは思わない。だから自分は思うだけでいいのだ。



「左近くーん」

背後から呼ばれて飛び上がりそうになる。慌てて振り返れば小松田で、眉間に皺を寄せていた。まだいたのか、と思ってから、その手のバインダーを見て合点がいく。

「あの人、入るのかな、入らないのかな」

「あ〜……入らない、と思います……」

「待ってたのになぁ……」

寒そうに身を抱いて、小松田は背を丸めて校舎の方に向かっていった。何が彼をそこまで駆り立てるのだろう。サインひとつがどれほど彼にとって重要なのか、左近にはわからない。

左近は溜息をひとつつき、諦めて高坂の方に近づいていく。

「高坂さんこんにちは」

「……こんにちは」

「先に行きましょう。……というか、多分僕らが最後です」

「……そうだね」

「高坂さん、クリスマスなのに一緒に過ごす人もいないんですか」

「君だって」

「僕はまだ中学生だからいいんですー」

「途端におじさん扱いするなぁ……」

困った顔で笑う人を、好きだと思う。
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