言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'12.25.Wed
「意外だね、作法委員がクリスマスパーティーしないなんて」
伊助に言われて兵太夫は思わず溜息をついた。そうなのだ。兵太夫の所属する作法委員は前委員長がイベント事には積極的で、去年は終業式の後に委員会でクリスマスパーティーをしたのだ。その余興用に兵太夫はびっくり箱を作ったのだが、今年は出番がなさそうだ。
「今年は立花先輩と綾部先輩、ふたりでデートなんだって」
「ふーん。まぁ綾部先輩が率先してパーティー開くとは思えないもんね」
「だよねぇ。伊助は?」
「今年は僕が委員会でクリスマスパーティー」
「……さっさと告白して、三郎次と一緒に過ごせばいいのに」
「僕のペースでやるからいいんですー」
「あっそ。じゃーね、良い年を」
「じゃあね、また来年。よいお年を」
教室を出ていく伊助はあからさまに浮かれた様子を見せてはいなかったが、楽しみではあるのだろう。ほとんどの生徒が帰ってしまった教室で、兵太夫は特に何をするでもなく時間を持て余す。今日は三治郎と遊びに行く約束にしてはいたが、都合が悪くなってしまったのだ。早く帰っても得にすることがない、と言って、残っていてもすることがない。
昨日作ったびっくり箱を取り出した。漫画のようにお約束通りのびっくり箱で、ふたを開けるとばねの仕掛けでサンタクロースの人形が飛び出す仕掛けだ。ただしその下には本当のプレゼントを入れることができるようになっている。
折角だから誰かにあげればよかった、と思い教室を見渡した。もう生徒は半分以上帰ってしまっている。
「せーのっ!」
教室の後ろに集まっていた男子の一団が、一斉に開いているのは通知表だ。男子ってどうしてあんなに馬鹿なんだろう、と兵太夫は顔をしかめる。
「団蔵、お前体育以外絶望的じゃん」
「団蔵のは字が読めないせいじゃねえの?」
「俺先生が読めないところ聞きに来てたから大丈夫」
「大丈夫じゃねえだろそれ」
輪の中心で笑う団蔵を見て、兵太夫は更に眉間のしわを深くした。
――思いだしてしまったのだ。渡せるはずのないクリスマスプレゼントを買ってしまったことを。
団蔵を意識し出したのは正確にはいつか覚えていない。しかし少なくとも去年のこの時期には団蔵のことが好きだった。季節が巡っても自分は意地を張ることしかできなくて、きっと団蔵にとっては自分はかわいくない女だろう。
何気なく買い物をしていたときに、ふと思い立って買ってしまったプレゼント。どうしてあの時は、渡せるなんて思ったのだろう。
しかめっ面にも疲れて力を抜き、溜息をつく。することもないから帰ろうか、と荷物をまとめかけ、びっくり箱を手にして考えた。
*
兵太夫がケーキの生クリームを泡立てていると、呼び鈴が鳴った。予定がなくなったので家でクリスマスを過ごすとわかると父親がそわそわし始めたので、娘をかわいがる父のためにケーキを焼いたところだったのだ。家人は手が塞がっており、兵太夫は生クリームを置いて玄関へ向かった。
せっかちな客人がもう一度チャイムを鳴らし、慌ててドアに飛びつく。父親への急ぎの用かもしれない。そう思った兵太夫がドアを開けると、――そこに立っていたのは団蔵だった。
硬直する兵太夫に気づいているのかいないのか、団蔵はいつも通りの明るい笑顔でこちらを見る。
「どーも!加藤運送です!」
差し出されたものにはっとして受け取ると、それは父親宛ての宅配便だ。そこでやっと、団蔵が家業の手伝いで兵太夫のうちに来たのだと思いつく。
――少し考えればわかることだ。団蔵が、兵太夫に用があるはずがないのに。
「兵太夫?」
「……何でも。今日、忙しいの?」
「まぁなー、結構宅配でプレゼント送る人いるんだ」
「ふうん。サインどこ?」
「あ、こちらにお願いしまーっす」
団蔵が伝票を指差した、その手を見て兵太夫は息を飲んだ。団蔵が手袋をしている。それは、兵太夫が目に焼きつくほど眺めたことのあるものだ。
手が震えていないか意識しながらどうにかサインをする。団蔵の顔を見ることができずに、俯いたまま荷物を受け取った。
「あとこれ、メリークリスマス」
箱の上にぽんと置かれたものは、リボンのかかったプレゼントだ。兵太夫が顔を上げると、団蔵はやはりいつも通りの笑顔を返す。
「なんかいい匂いする」
「え、あ、ケーキ焼いてた」
「マジ?いいな〜俺いつ飯食えるんだろ。あ、庄ちゃんとみんなで初詣行こうって言ってたんだ。兵太夫も行ける?」
「い、行けると思う」
「じゃあまた連絡するな。毎度、ありがとうございやしたーっ」
ふざけた調子で仕事を終えて、団蔵は丁寧にドアを閉めていく。メリークリスマスひとつ言えなかった兵太夫は、ただ玄関で立ち尽くした。
帰る前に、びっくり箱を団蔵の下駄箱に押し込んだ。その中に、プレゼントのつもりで買った手袋を仕込んで。名前も書かないプレゼント、見つけてもらえるかもわからなかったプレゼント。それでもきっと、あんな子どもじみたことをするのは兵太夫ぐらいだと、団蔵ならわかってくれるんじゃないかと――
じわり、と遅れて顔が熱くなる。
男の子はずるい。いつも馬鹿なところしか見せないくせに。
伊助に言われて兵太夫は思わず溜息をついた。そうなのだ。兵太夫の所属する作法委員は前委員長がイベント事には積極的で、去年は終業式の後に委員会でクリスマスパーティーをしたのだ。その余興用に兵太夫はびっくり箱を作ったのだが、今年は出番がなさそうだ。
「今年は立花先輩と綾部先輩、ふたりでデートなんだって」
「ふーん。まぁ綾部先輩が率先してパーティー開くとは思えないもんね」
「だよねぇ。伊助は?」
「今年は僕が委員会でクリスマスパーティー」
「……さっさと告白して、三郎次と一緒に過ごせばいいのに」
「僕のペースでやるからいいんですー」
「あっそ。じゃーね、良い年を」
「じゃあね、また来年。よいお年を」
教室を出ていく伊助はあからさまに浮かれた様子を見せてはいなかったが、楽しみではあるのだろう。ほとんどの生徒が帰ってしまった教室で、兵太夫は特に何をするでもなく時間を持て余す。今日は三治郎と遊びに行く約束にしてはいたが、都合が悪くなってしまったのだ。早く帰っても得にすることがない、と言って、残っていてもすることがない。
昨日作ったびっくり箱を取り出した。漫画のようにお約束通りのびっくり箱で、ふたを開けるとばねの仕掛けでサンタクロースの人形が飛び出す仕掛けだ。ただしその下には本当のプレゼントを入れることができるようになっている。
折角だから誰かにあげればよかった、と思い教室を見渡した。もう生徒は半分以上帰ってしまっている。
「せーのっ!」
教室の後ろに集まっていた男子の一団が、一斉に開いているのは通知表だ。男子ってどうしてあんなに馬鹿なんだろう、と兵太夫は顔をしかめる。
「団蔵、お前体育以外絶望的じゃん」
「団蔵のは字が読めないせいじゃねえの?」
「俺先生が読めないところ聞きに来てたから大丈夫」
「大丈夫じゃねえだろそれ」
輪の中心で笑う団蔵を見て、兵太夫は更に眉間のしわを深くした。
――思いだしてしまったのだ。渡せるはずのないクリスマスプレゼントを買ってしまったことを。
団蔵を意識し出したのは正確にはいつか覚えていない。しかし少なくとも去年のこの時期には団蔵のことが好きだった。季節が巡っても自分は意地を張ることしかできなくて、きっと団蔵にとっては自分はかわいくない女だろう。
何気なく買い物をしていたときに、ふと思い立って買ってしまったプレゼント。どうしてあの時は、渡せるなんて思ったのだろう。
しかめっ面にも疲れて力を抜き、溜息をつく。することもないから帰ろうか、と荷物をまとめかけ、びっくり箱を手にして考えた。
*
兵太夫がケーキの生クリームを泡立てていると、呼び鈴が鳴った。予定がなくなったので家でクリスマスを過ごすとわかると父親がそわそわし始めたので、娘をかわいがる父のためにケーキを焼いたところだったのだ。家人は手が塞がっており、兵太夫は生クリームを置いて玄関へ向かった。
せっかちな客人がもう一度チャイムを鳴らし、慌ててドアに飛びつく。父親への急ぎの用かもしれない。そう思った兵太夫がドアを開けると、――そこに立っていたのは団蔵だった。
硬直する兵太夫に気づいているのかいないのか、団蔵はいつも通りの明るい笑顔でこちらを見る。
「どーも!加藤運送です!」
差し出されたものにはっとして受け取ると、それは父親宛ての宅配便だ。そこでやっと、団蔵が家業の手伝いで兵太夫のうちに来たのだと思いつく。
――少し考えればわかることだ。団蔵が、兵太夫に用があるはずがないのに。
「兵太夫?」
「……何でも。今日、忙しいの?」
「まぁなー、結構宅配でプレゼント送る人いるんだ」
「ふうん。サインどこ?」
「あ、こちらにお願いしまーっす」
団蔵が伝票を指差した、その手を見て兵太夫は息を飲んだ。団蔵が手袋をしている。それは、兵太夫が目に焼きつくほど眺めたことのあるものだ。
手が震えていないか意識しながらどうにかサインをする。団蔵の顔を見ることができずに、俯いたまま荷物を受け取った。
「あとこれ、メリークリスマス」
箱の上にぽんと置かれたものは、リボンのかかったプレゼントだ。兵太夫が顔を上げると、団蔵はやはりいつも通りの笑顔を返す。
「なんかいい匂いする」
「え、あ、ケーキ焼いてた」
「マジ?いいな〜俺いつ飯食えるんだろ。あ、庄ちゃんとみんなで初詣行こうって言ってたんだ。兵太夫も行ける?」
「い、行けると思う」
「じゃあまた連絡するな。毎度、ありがとうございやしたーっ」
ふざけた調子で仕事を終えて、団蔵は丁寧にドアを閉めていく。メリークリスマスひとつ言えなかった兵太夫は、ただ玄関で立ち尽くした。
帰る前に、びっくり箱を団蔵の下駄箱に押し込んだ。その中に、プレゼントのつもりで買った手袋を仕込んで。名前も書かないプレゼント、見つけてもらえるかもわからなかったプレゼント。それでもきっと、あんな子どもじみたことをするのは兵太夫ぐらいだと、団蔵ならわかってくれるんじゃないかと――
じわり、と遅れて顔が熱くなる。
男の子はずるい。いつも馬鹿なところしか見せないくせに。
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