言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'12.21.Sat
何か……そういう話とは多分違うんじゃねえかとは思うんだよ。……聞きてえってんなら話すけどよ。
うちのババァはやたらこだわることが多いんだ。やれ小麦粉はどこの、紅茶はどこの、ってさ。そんなんだからオレはやたらお使いに行かされてた。ひとりで乗合馬車に乗れるようになったのも、ババァがお使いさせるために教えたからだ。
だから、もう慣れたことだった。紅茶だか花だか……なんだか知らねえけど、どこそこに買いに行けって使いだ。行ったことのある店だったし、オレはオレでお釣りの駄賃目当てにその日もお使いを頼まれた。
その日の乗合馬車に、オレ以外で乗っていたのはひとりの女だった。ちょっと目を引くぐらいの美人で、おまけにこんな乗合馬車に釣り合わないような、いい着物を着た女だった。まぁ、ガキの目でそう見えてたんだから相当だったんだろうな。
オレは女の向かいに座った。女は膝に宝石箱を乗せていた。……とにかく、細かく細工された箱だった。ガキのオレには宝石箱と言う表現しかできなかったんだよ。
馬車が動き出すときには手を添えて、愛おしそうにそれを撫でるんだ。手袋をした華奢な手だ。始めは見ないようにしてたけど、目的の場所までは子どものオレにとっては結構長い時間で、結局手持無沙汰でオレはその女を見ていた。女もすぐに気づいて、オレに笑いかけた。
瞬きをすると星が零れるような美人だった。
何か、そんな感じなんだよ!でもただの美人じゃなかった。ぞっと、鳥肌が立ったんだ。
女は宝石箱を開けた。中から何かを摘まみだして、それを口に入れたんだ。食べ物が入ってるような箱には見えなかったけど、オレにはそう見えていただけなのか、金持ちの趣味なのかはわかんねえ。
口の中で何かが砕かれる小さな音に、オレも小腹がすいていることを思い出した。それに好奇心が加わって、女に聞いたんだ。何を食べてるのかって。
それまで微笑をたたえていた女は少し驚いた顔をして、でもまたすぐに笑った。だけどそれはさっきまでとは違っていて、なんつうのか、目が笑ってない感じだった。オレでもまずいことを聞いたのかとわかるぐらいだった。
「内緒」、と、女はささやくように言った。すごく小さな声だったけどなぜか耳元で聞こえたような気がしてぞっとした。
女はまたひとつつまみだして口に運んだ。でも改めて意識すると、変なんだ。噛む音が、なんというのか……ものすごくかたいものが砕けるような、バキ!ゴリ!っていう、とても美しい女がさせていい音じゃなかった。それでも女は涼しい顔で、それをかみ砕き続けた。
居心地が悪くなってきて、怒られてもいいからお使いも放棄して帰ろうかと思い始めたオレに、今度は女が話しかけた。どこに行くの、って聞かれて、素直に行き先を答えた。女はあまり興味がなさそうだったけど、ひとりで行くと危ないとか、なんかそんなことを言った。
ああ、思いだした。そう。
「ひとりで行くと死んでしまうわ」
ああいうのを、鈴が転がすような、っていうのかな。とにかく声はものすごくきれいなんだ。歌うような調子で口にした言葉は物騒だったけどよ。
オレは多分慣れてるから大丈夫だとかなんとか答えた。でもその時はっとした。
もうそろそろ、ついていてもおかしくない時間だった。馬車は一度も止まらないまま、一定の速度で走っている。だけど普段ならそんなことはないんだ、オレが使っている乗合馬車は、誰もが適当なところで引き留めて乗ってくる。
乗る馬車間違えたかな、とか、乗り過ごしたかな、とか、オレは少し不安になった。
それを知ってか知らずか、女はまた口を開いた。
「これからパーティに行かない?」
多分女はそんなことを言った。
意味わかんねえし、ちょっと怖くなってきてたし、オレは首を振った。女は笑って、また宝石箱の中身を食べた。相変わらず、ワイルドな音をさせて。
それをすっかり飲み込んだ後、女はまたオレを見た。何を食べているか教えてやろうか、って言うから、首を振ろうとしたけど、好奇心に負けて頷いた。
「骨よ」
オレは耳を疑った。聞き間違いじゃないかと考えていたけど、一体どんな言葉と聞き間違えたのか全く思いつかなかった。女はその時だけ楽しそうに笑い、また「骨」をひとつ、口に運んだ。だけど今度はさっきのようなかたい音はしなくて、もう少し脆いものが砕けた音がした。女は顔をしかめて、ハンカチを口に当ててそれを吐き出したようだった。
それから間もなく馬車が止まって、オレはとにかくこれ以上この女と一緒にいるのはよくないような気がしていたから、すぐに飛び降りる気でいた。
でも、オレより早く女が立ち上がった。ドアに手をかけて、大きく開く。女の肩越しに見えたのは、墓地だった。勿論、オレがいつも乗る馬車は墓地になんていかないし、そもそもここらの墓地は馬車が入れるような場所にはない。
女がまたオレをパーティに誘ったけど、オレは必死で首を振った。女は変わらず口元だけで笑い、馬車を降りて行った。
しばらくすると、オレひとりになった馬車はまた動き出した。
そこからどうやって帰ったのか覚えてないけど、とにかくものすごく疲れていたことは覚えてる。なんせ帰るなり、ババァの説教を聞く間もなくぶっ倒れて二日ほど寝込んでいたぐらいだ。熱が出て、妙な発疹が出てたらしい。
それから、後で知ったことだけど、オレのシャツのポケットにお守りの石が隠されてたらしいんだ。オレは全く知らなかったけど、何かそういうものがあるらしい。
オレの熱が引いてから、ババァが何があったのかって妙に神妙な顔で聞くから話したら、そのお守りの石が粉々に砕けてたって教えてくれた。
だからさ、多分、あの女が最後に噛み砕いたのは、その石だったんじゃねえかな。
うちのババァはやたらこだわることが多いんだ。やれ小麦粉はどこの、紅茶はどこの、ってさ。そんなんだからオレはやたらお使いに行かされてた。ひとりで乗合馬車に乗れるようになったのも、ババァがお使いさせるために教えたからだ。
だから、もう慣れたことだった。紅茶だか花だか……なんだか知らねえけど、どこそこに買いに行けって使いだ。行ったことのある店だったし、オレはオレでお釣りの駄賃目当てにその日もお使いを頼まれた。
その日の乗合馬車に、オレ以外で乗っていたのはひとりの女だった。ちょっと目を引くぐらいの美人で、おまけにこんな乗合馬車に釣り合わないような、いい着物を着た女だった。まぁ、ガキの目でそう見えてたんだから相当だったんだろうな。
オレは女の向かいに座った。女は膝に宝石箱を乗せていた。……とにかく、細かく細工された箱だった。ガキのオレには宝石箱と言う表現しかできなかったんだよ。
馬車が動き出すときには手を添えて、愛おしそうにそれを撫でるんだ。手袋をした華奢な手だ。始めは見ないようにしてたけど、目的の場所までは子どものオレにとっては結構長い時間で、結局手持無沙汰でオレはその女を見ていた。女もすぐに気づいて、オレに笑いかけた。
瞬きをすると星が零れるような美人だった。
何か、そんな感じなんだよ!でもただの美人じゃなかった。ぞっと、鳥肌が立ったんだ。
女は宝石箱を開けた。中から何かを摘まみだして、それを口に入れたんだ。食べ物が入ってるような箱には見えなかったけど、オレにはそう見えていただけなのか、金持ちの趣味なのかはわかんねえ。
口の中で何かが砕かれる小さな音に、オレも小腹がすいていることを思い出した。それに好奇心が加わって、女に聞いたんだ。何を食べてるのかって。
それまで微笑をたたえていた女は少し驚いた顔をして、でもまたすぐに笑った。だけどそれはさっきまでとは違っていて、なんつうのか、目が笑ってない感じだった。オレでもまずいことを聞いたのかとわかるぐらいだった。
「内緒」、と、女はささやくように言った。すごく小さな声だったけどなぜか耳元で聞こえたような気がしてぞっとした。
女はまたひとつつまみだして口に運んだ。でも改めて意識すると、変なんだ。噛む音が、なんというのか……ものすごくかたいものが砕けるような、バキ!ゴリ!っていう、とても美しい女がさせていい音じゃなかった。それでも女は涼しい顔で、それをかみ砕き続けた。
居心地が悪くなってきて、怒られてもいいからお使いも放棄して帰ろうかと思い始めたオレに、今度は女が話しかけた。どこに行くの、って聞かれて、素直に行き先を答えた。女はあまり興味がなさそうだったけど、ひとりで行くと危ないとか、なんかそんなことを言った。
ああ、思いだした。そう。
「ひとりで行くと死んでしまうわ」
ああいうのを、鈴が転がすような、っていうのかな。とにかく声はものすごくきれいなんだ。歌うような調子で口にした言葉は物騒だったけどよ。
オレは多分慣れてるから大丈夫だとかなんとか答えた。でもその時はっとした。
もうそろそろ、ついていてもおかしくない時間だった。馬車は一度も止まらないまま、一定の速度で走っている。だけど普段ならそんなことはないんだ、オレが使っている乗合馬車は、誰もが適当なところで引き留めて乗ってくる。
乗る馬車間違えたかな、とか、乗り過ごしたかな、とか、オレは少し不安になった。
それを知ってか知らずか、女はまた口を開いた。
「これからパーティに行かない?」
多分女はそんなことを言った。
意味わかんねえし、ちょっと怖くなってきてたし、オレは首を振った。女は笑って、また宝石箱の中身を食べた。相変わらず、ワイルドな音をさせて。
それをすっかり飲み込んだ後、女はまたオレを見た。何を食べているか教えてやろうか、って言うから、首を振ろうとしたけど、好奇心に負けて頷いた。
「骨よ」
オレは耳を疑った。聞き間違いじゃないかと考えていたけど、一体どんな言葉と聞き間違えたのか全く思いつかなかった。女はその時だけ楽しそうに笑い、また「骨」をひとつ、口に運んだ。だけど今度はさっきのようなかたい音はしなくて、もう少し脆いものが砕けた音がした。女は顔をしかめて、ハンカチを口に当ててそれを吐き出したようだった。
それから間もなく馬車が止まって、オレはとにかくこれ以上この女と一緒にいるのはよくないような気がしていたから、すぐに飛び降りる気でいた。
でも、オレより早く女が立ち上がった。ドアに手をかけて、大きく開く。女の肩越しに見えたのは、墓地だった。勿論、オレがいつも乗る馬車は墓地になんていかないし、そもそもここらの墓地は馬車が入れるような場所にはない。
女がまたオレをパーティに誘ったけど、オレは必死で首を振った。女は変わらず口元だけで笑い、馬車を降りて行った。
しばらくすると、オレひとりになった馬車はまた動き出した。
そこからどうやって帰ったのか覚えてないけど、とにかくものすごく疲れていたことは覚えてる。なんせ帰るなり、ババァの説教を聞く間もなくぶっ倒れて二日ほど寝込んでいたぐらいだ。熱が出て、妙な発疹が出てたらしい。
それから、後で知ったことだけど、オレのシャツのポケットにお守りの石が隠されてたらしいんだ。オレは全く知らなかったけど、何かそういうものがあるらしい。
オレの熱が引いてから、ババァが何があったのかって妙に神妙な顔で聞くから話したら、そのお守りの石が粉々に砕けてたって教えてくれた。
だからさ、多分、あの女が最後に噛み砕いたのは、その石だったんじゃねえかな。
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