言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'12.24.Tue
「委員会でクリスマスパーティーしようよ!」
そう言ったのは当然、高等部二年の斉藤タカ丸だった。最上級生で委員長でもある久々知兵助が今までそんなことを言い出したことはなく、それを率先して行うような人ではないことも、今までのつき合いの中で十分理解している。
学期末の委員会は大忙して、特に扱うものがものである火薬委員会は棚卸に翻弄されている。そんな中で相変わらず危機感のないタカ丸がそんなことを言い出したので、三郎次が怒鳴りそうになったのを、伊助は慌てて遮った。中等部二年池田三郎次の怒りもわからなくはない。何よりも、自分たちの仕事はのんびりしたタカ丸の好意と言う邪魔によって遅々とした進行であったからだ。
「それじゃあ僕、クリスマスケーキ作ってきます!」
「はぁ?」
「ね、タカ丸さん!だからクリスマスまでに、絶対棚卸終わらせましょうね!ね、久々知先輩!」
「……ああ、そうだな。じゃあタカ丸さん、棚卸が終わればクリスマスパーティーをしましょう」
「え〜?終わらなかったら?」
「終わらせるんです!冬休みも来るなんてごめんですからね!」
「よーし!頑張ろうね!」
三郎次の怒る様子も軽く流して、タカ丸は作業に戻っていった。三郎次の行き場のない憤りを、久々知がこっそり抑えている。伊助はほっと息を吐いた。
「伊助、ありがとう。目標があればタカ丸さんももう少し効率が上がるだろう」
「いえ、誰かさんがうるさくなるのが嫌だったので」
「それは俺か?」
「さぁ誰でしょう」
突っかかってくる三郎次に背を向けて、伊助も作業に戻った。火薬委員唯一の女子である伊助の受け持ちは軽い物ばかりではあるが、多いことに変わりはない。
それは結果的にタカ丸のやる気に火をつけて、順調に終業式までにするべきことを終えることができた。
三郎次は忘れていてくれないだろうかと思っていたらしいが、楽しいことが好きなタカ丸がそんな約束を忘れるはずがない。
昨日のうちに作っておいたケーキは朝のうちに用務員の小松田に預かってもらって冷蔵庫に入れてある。その他の買い出しを、伊助と三郎次で行くことになった。
「雪は降りそうにないですねぇ」
「降ってほしいのか、寒いだけじゃねえか」
肩をすくませてマフラーに顔をうずめた三郎次を横目に、伊助は笑いを隠した。あまり口にはしないが三郎次は寒さに弱いらしく、その制服の下に随分と着込んでいることを知っている。水泳部である三郎次は完全な夏男なのかもしれない。
買い出しと行ってもコンビニに飲み物とお菓子を少し買いに行くだけだ。学校ではタカ丸たちが飾りつけをしているだろう。タカ丸がどこからともなくクリスマスツリーを見つけ出してきたのだ。
ふたつに分けて持ったビニール袋を提げて、ふたりで学園に戻っていく。
「あったかくなると、久々知先輩も卒業ですね」
「……タカ丸さんが委員長になるのか」
「……」
はぁ、と溜息をついたのはほぼ同時だった。タカ丸は決して悪気があるわけではないが、いかんせん、彼の性格がリーダーには向いていない。
「まぁ、きっと後輩も入りますよ。頑張りましょうね」
「久々知先輩留年しないかな」
「そんな不穏なこと言ってると怒られますよ……そうでなくとも久々知先輩受験生なのに……」
「ピリピリしてたのはなくなったけどな」
「開き直ったみたいですよ」
「大丈夫なのかそれ」
自分の分だけ温かい飲み物を買った三郎次はそれをカイロ代わりに握りしめていた。確かに今日はよく冷え込み、寒さが苦手でなくとも喜んで外に出たくはないだろう。
学園が近づき、校門のそばに人影があるのに気がついた。見知ったその顔に、三郎次と少し顔を見合わせる。
保健委員の川西左近と、保健委員によく現れる部外者の高坂と言う男だ。一メートルほど離れた場所で、距離を保って並んでいる。
同じ学年の三郎次が左近に声をかけると、寒さに鼻を赤くして顔を上げた。
「何してんだ、寒いのに」
「……三反田先輩に待てって言われたんだ。保健委員で出かけるんだけど、やり忘れたことがあるからって」
「……そっちの人は?」
「関係ない!」
「……まぁ、風邪ひかないようにしろよ」
冷めかけた飲み物を三郎次が渡せば、左近は素直に受け取った。高坂の方は何か言いたげに左近を見たが、左近はそちらに視線を送りもしない。左近と別れて校門を過ぎてから、伊助は声を潜めて三郎次に話しかける。
「あれ、絶対仕組まれてますよね」
「わかってるだろ、あいつらも」
左近と高坂がお互い意識しているだろうことは、近くにいれば何となく察しのつくことであった。立場や年齢やと何かと言い訳をしているらしいが、見ている側からすればまどろっこしいのでさっさとくっついてほしいところだろう。そんな周囲が彼らを二人っきりにしたのあろうが、あれでは効果があるのかわからない。
――尤も、伊助たちも人のことを言えた口ではないのだ。
お互い思いは口にしないまま、それでももうわかっている。たったのひと言を言葉にすれば、ふたりの関係ははっきりと言い表せるものになるだろう。
時々少しもどかしく、しかしこれが心地よいときもある。三郎次はどう思っているのだろう。
「……帰り」
「はい?」
「帰り、どうせ遅くなるだろうから送ってやる」
「別にいいですよ、タカ丸さんと帰りますから」
「先輩に片づけさせられないだろ」
「そーですねー」
素直じゃないこの人が、嫌いじゃない。
笑う伊助に三郎次は嫌な顔をしたが、もう見慣れた顔だった。
そう言ったのは当然、高等部二年の斉藤タカ丸だった。最上級生で委員長でもある久々知兵助が今までそんなことを言い出したことはなく、それを率先して行うような人ではないことも、今までのつき合いの中で十分理解している。
学期末の委員会は大忙して、特に扱うものがものである火薬委員会は棚卸に翻弄されている。そんな中で相変わらず危機感のないタカ丸がそんなことを言い出したので、三郎次が怒鳴りそうになったのを、伊助は慌てて遮った。中等部二年池田三郎次の怒りもわからなくはない。何よりも、自分たちの仕事はのんびりしたタカ丸の好意と言う邪魔によって遅々とした進行であったからだ。
「それじゃあ僕、クリスマスケーキ作ってきます!」
「はぁ?」
「ね、タカ丸さん!だからクリスマスまでに、絶対棚卸終わらせましょうね!ね、久々知先輩!」
「……ああ、そうだな。じゃあタカ丸さん、棚卸が終わればクリスマスパーティーをしましょう」
「え〜?終わらなかったら?」
「終わらせるんです!冬休みも来るなんてごめんですからね!」
「よーし!頑張ろうね!」
三郎次の怒る様子も軽く流して、タカ丸は作業に戻っていった。三郎次の行き場のない憤りを、久々知がこっそり抑えている。伊助はほっと息を吐いた。
「伊助、ありがとう。目標があればタカ丸さんももう少し効率が上がるだろう」
「いえ、誰かさんがうるさくなるのが嫌だったので」
「それは俺か?」
「さぁ誰でしょう」
突っかかってくる三郎次に背を向けて、伊助も作業に戻った。火薬委員唯一の女子である伊助の受け持ちは軽い物ばかりではあるが、多いことに変わりはない。
それは結果的にタカ丸のやる気に火をつけて、順調に終業式までにするべきことを終えることができた。
三郎次は忘れていてくれないだろうかと思っていたらしいが、楽しいことが好きなタカ丸がそんな約束を忘れるはずがない。
昨日のうちに作っておいたケーキは朝のうちに用務員の小松田に預かってもらって冷蔵庫に入れてある。その他の買い出しを、伊助と三郎次で行くことになった。
「雪は降りそうにないですねぇ」
「降ってほしいのか、寒いだけじゃねえか」
肩をすくませてマフラーに顔をうずめた三郎次を横目に、伊助は笑いを隠した。あまり口にはしないが三郎次は寒さに弱いらしく、その制服の下に随分と着込んでいることを知っている。水泳部である三郎次は完全な夏男なのかもしれない。
買い出しと行ってもコンビニに飲み物とお菓子を少し買いに行くだけだ。学校ではタカ丸たちが飾りつけをしているだろう。タカ丸がどこからともなくクリスマスツリーを見つけ出してきたのだ。
ふたつに分けて持ったビニール袋を提げて、ふたりで学園に戻っていく。
「あったかくなると、久々知先輩も卒業ですね」
「……タカ丸さんが委員長になるのか」
「……」
はぁ、と溜息をついたのはほぼ同時だった。タカ丸は決して悪気があるわけではないが、いかんせん、彼の性格がリーダーには向いていない。
「まぁ、きっと後輩も入りますよ。頑張りましょうね」
「久々知先輩留年しないかな」
「そんな不穏なこと言ってると怒られますよ……そうでなくとも久々知先輩受験生なのに……」
「ピリピリしてたのはなくなったけどな」
「開き直ったみたいですよ」
「大丈夫なのかそれ」
自分の分だけ温かい飲み物を買った三郎次はそれをカイロ代わりに握りしめていた。確かに今日はよく冷え込み、寒さが苦手でなくとも喜んで外に出たくはないだろう。
学園が近づき、校門のそばに人影があるのに気がついた。見知ったその顔に、三郎次と少し顔を見合わせる。
保健委員の川西左近と、保健委員によく現れる部外者の高坂と言う男だ。一メートルほど離れた場所で、距離を保って並んでいる。
同じ学年の三郎次が左近に声をかけると、寒さに鼻を赤くして顔を上げた。
「何してんだ、寒いのに」
「……三反田先輩に待てって言われたんだ。保健委員で出かけるんだけど、やり忘れたことがあるからって」
「……そっちの人は?」
「関係ない!」
「……まぁ、風邪ひかないようにしろよ」
冷めかけた飲み物を三郎次が渡せば、左近は素直に受け取った。高坂の方は何か言いたげに左近を見たが、左近はそちらに視線を送りもしない。左近と別れて校門を過ぎてから、伊助は声を潜めて三郎次に話しかける。
「あれ、絶対仕組まれてますよね」
「わかってるだろ、あいつらも」
左近と高坂がお互い意識しているだろうことは、近くにいれば何となく察しのつくことであった。立場や年齢やと何かと言い訳をしているらしいが、見ている側からすればまどろっこしいのでさっさとくっついてほしいところだろう。そんな周囲が彼らを二人っきりにしたのあろうが、あれでは効果があるのかわからない。
――尤も、伊助たちも人のことを言えた口ではないのだ。
お互い思いは口にしないまま、それでももうわかっている。たったのひと言を言葉にすれば、ふたりの関係ははっきりと言い表せるものになるだろう。
時々少しもどかしく、しかしこれが心地よいときもある。三郎次はどう思っているのだろう。
「……帰り」
「はい?」
「帰り、どうせ遅くなるだろうから送ってやる」
「別にいいですよ、タカ丸さんと帰りますから」
「先輩に片づけさせられないだろ」
「そーですねー」
素直じゃないこの人が、嫌いじゃない。
笑う伊助に三郎次は嫌な顔をしたが、もう見慣れた顔だった。
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