言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'08.28.Wed
「ワイ、オカンの腹の中で花火の音聞いててん」
いつだかそう言った鳴子の声が突然思い出された。せやからお祭り男やねん!そう言って小さな体で豪快に笑う鳴子は、いつも小さく見えたことはなかった。
「中止か」
田所は祭りのチラシを弾いて窓の外を見る。昨日からの悪天候はまだ続き、優雅になった今になって雨は本降りになった。二日間の予定が両日とも雨で、結局中止となるらしい。
人が多いから夜の練習も中止の予定にしていたが、どうにも自転車に乗れるような天気でもなかった。しばらく忙しかったので久しぶりにしっかり走りこみたかったのだが、と部屋のディスプレイ同然となっているロードバイクを見る。
ローラー台でも乗るかと携帯を取って時間を見た。店の手伝いは閉まってからでいいと言われているのでまだ時間はある。尤も、この悪天候では今日の売り上げは大したことはないだろう。夕食はパンになるかもしれない。よくあることではあるが昨日も同様で、慣れたこととはいえ飽きはする。
そういえば鳴子はいつもパンばかり食べていた。粉物じゃないのか、と何度もからかったように思う。
元気にしているだろうか。久しぶりに声を聞くのも悪くない、と思い、携帯をそのまま操作する。
鳴子は高校を卒業してから大阪に帰ってしまった。懇意にしているコーチがいるとかでその大学に進学したので、卒業式に見送った辺りからもう会っていない。
少しの呼び出し音の後、電波の向こうで元気のいい声が弾ける。
『オッサン!久しぶりやな〜』
「相変わらずだな、てめーは」
『何?どないしたん?わざわざ電話て』
「別に、暇だからどうしてるかと思ってよ」
『どうもしませんわ、いつも通りっすよ』
笑い声が少し懐かしい気がする。それほど声を聞いていないだろうか。
『オッサンはどない?ちゃんと走ってます?』
「当たり前だ」
『……あー』
「何だ?」
『や、なんでも』
それより聞いてや!と賑やかな声が喋りだした。一度口を開けば喋りっぱなしになるいつもの鳴子節だ。それに近況報告を挟んだり懐かしい話をしたりとそれなりに盛り上がり、話題はいつまでも尽きない。こんなに話すことがあったかなと思うほど、自分の口からも言葉が出てきて、思っていた以上に盛り上がったことに戸惑うと同時に、この時間が終わるのを少し惜しくも感じる。
『あ、あかん、ワイこれから出かけんねん』
「今から?飲み会か」
時間を見ると随分経っている。
『せやねん!めっちゃ集まんねん、楽しみやわ』
「ほー。まぁほどほどにな」
『オッサンも太らんように気をつけや!なんや長話してもたな』
「まぁまた時間あったらかけるわ」
『ワイはオッサンにつき合うほど隙ちゃうけどな〜』
「そうかよ」
『……ほんまに暇でかけてきただけかい』
「なんだ?」
『別に。なんか言いたいことでもあるんちゃうかなーと思っただけや!ほな!ちゃんとおうちのお手伝いするんやで!』
「うるせえよ」
笑って気を付けて行って来いよ、と声をかけるが、返事がない。通話が切れたのかとディスプレイを見るが、数字はまだ進んでいる。
「鳴子?」
『チッ』
「は?」
突然態度を変えた鳴子に戸惑うが、苛立ちの方が勝る。今まで機嫌よく、むしろいつもより饒舌に話をしていたというのに何のつもりだろう。畳みかけようとした田所よりも、ひと息吸った鳴子の方が早かった。怒鳴るような声が田所の耳を貫く。
『アンタは恋人の誕生日も知らんのか!』
「……は」
頭が理解する前に通話が切れた。流れているのが空しい機械音だけになっても、田所は硬直したように携帯を下ろすこともできずにいる。そのまま、さっき弾いたチラシを見た。祭りの日付は今日の日付だ。
「あっ!」
慌てて電話を掛け直すがすでに遅いようだ。何度かけても呼び出し音が続くだけで、鳴子は一切出てくれない。
携帯を握りしめて深く溜息をつく。しばらくそうして、顔を上げたときには決意していた。
簡単に荷物を整えて、鳴子にメールを打ちながら店に向かう。店内では暇そうに両親が揃ってウインドウの外の雨を眺めていた。
「俺ちょっと出てくる。手伝いパスしていいか」
「暇だしいいけど、こんな雨の中どこに行くの」
「大阪」
「おお……!?」
「あぁ、パンくれ。どうせ残るだろ」
ご機嫌取りになるかどうかはわからない。何もしないよりはましだろうと思っただけだ。
メールが送信できるとすぐに鳴子からの電話があった。笑いながら出ると焦った声に問い詰められて、
バカだのアホだのと言われた気がするが許してやる。
「夜行バスで行ってやる。迎えに来いよ」
『あっ……アホちゃう!?ひと言素直に言ったらええだけやろ!』
「直接言ってやるって言ってんだ」
わずかに息を飲んだ気配の後、黙ったまま通話は途切れた。くつくつ笑っていると、母親から呆れた視線が送られる。
「鳴子くん?」
「ああ」
「あんまりいじめたらダメよ」
「いじめられてんのは俺だよ」
素直に誕生日も教えてくれない。田所迅は、そんな不器用な恋人を放っておけるような男ではないのだ。
いつだかそう言った鳴子の声が突然思い出された。せやからお祭り男やねん!そう言って小さな体で豪快に笑う鳴子は、いつも小さく見えたことはなかった。
「中止か」
田所は祭りのチラシを弾いて窓の外を見る。昨日からの悪天候はまだ続き、優雅になった今になって雨は本降りになった。二日間の予定が両日とも雨で、結局中止となるらしい。
人が多いから夜の練習も中止の予定にしていたが、どうにも自転車に乗れるような天気でもなかった。しばらく忙しかったので久しぶりにしっかり走りこみたかったのだが、と部屋のディスプレイ同然となっているロードバイクを見る。
ローラー台でも乗るかと携帯を取って時間を見た。店の手伝いは閉まってからでいいと言われているのでまだ時間はある。尤も、この悪天候では今日の売り上げは大したことはないだろう。夕食はパンになるかもしれない。よくあることではあるが昨日も同様で、慣れたこととはいえ飽きはする。
そういえば鳴子はいつもパンばかり食べていた。粉物じゃないのか、と何度もからかったように思う。
元気にしているだろうか。久しぶりに声を聞くのも悪くない、と思い、携帯をそのまま操作する。
鳴子は高校を卒業してから大阪に帰ってしまった。懇意にしているコーチがいるとかでその大学に進学したので、卒業式に見送った辺りからもう会っていない。
少しの呼び出し音の後、電波の向こうで元気のいい声が弾ける。
『オッサン!久しぶりやな〜』
「相変わらずだな、てめーは」
『何?どないしたん?わざわざ電話て』
「別に、暇だからどうしてるかと思ってよ」
『どうもしませんわ、いつも通りっすよ』
笑い声が少し懐かしい気がする。それほど声を聞いていないだろうか。
『オッサンはどない?ちゃんと走ってます?』
「当たり前だ」
『……あー』
「何だ?」
『や、なんでも』
それより聞いてや!と賑やかな声が喋りだした。一度口を開けば喋りっぱなしになるいつもの鳴子節だ。それに近況報告を挟んだり懐かしい話をしたりとそれなりに盛り上がり、話題はいつまでも尽きない。こんなに話すことがあったかなと思うほど、自分の口からも言葉が出てきて、思っていた以上に盛り上がったことに戸惑うと同時に、この時間が終わるのを少し惜しくも感じる。
『あ、あかん、ワイこれから出かけんねん』
「今から?飲み会か」
時間を見ると随分経っている。
『せやねん!めっちゃ集まんねん、楽しみやわ』
「ほー。まぁほどほどにな」
『オッサンも太らんように気をつけや!なんや長話してもたな』
「まぁまた時間あったらかけるわ」
『ワイはオッサンにつき合うほど隙ちゃうけどな〜』
「そうかよ」
『……ほんまに暇でかけてきただけかい』
「なんだ?」
『別に。なんか言いたいことでもあるんちゃうかなーと思っただけや!ほな!ちゃんとおうちのお手伝いするんやで!』
「うるせえよ」
笑って気を付けて行って来いよ、と声をかけるが、返事がない。通話が切れたのかとディスプレイを見るが、数字はまだ進んでいる。
「鳴子?」
『チッ』
「は?」
突然態度を変えた鳴子に戸惑うが、苛立ちの方が勝る。今まで機嫌よく、むしろいつもより饒舌に話をしていたというのに何のつもりだろう。畳みかけようとした田所よりも、ひと息吸った鳴子の方が早かった。怒鳴るような声が田所の耳を貫く。
『アンタは恋人の誕生日も知らんのか!』
「……は」
頭が理解する前に通話が切れた。流れているのが空しい機械音だけになっても、田所は硬直したように携帯を下ろすこともできずにいる。そのまま、さっき弾いたチラシを見た。祭りの日付は今日の日付だ。
「あっ!」
慌てて電話を掛け直すがすでに遅いようだ。何度かけても呼び出し音が続くだけで、鳴子は一切出てくれない。
携帯を握りしめて深く溜息をつく。しばらくそうして、顔を上げたときには決意していた。
簡単に荷物を整えて、鳴子にメールを打ちながら店に向かう。店内では暇そうに両親が揃ってウインドウの外の雨を眺めていた。
「俺ちょっと出てくる。手伝いパスしていいか」
「暇だしいいけど、こんな雨の中どこに行くの」
「大阪」
「おお……!?」
「あぁ、パンくれ。どうせ残るだろ」
ご機嫌取りになるかどうかはわからない。何もしないよりはましだろうと思っただけだ。
メールが送信できるとすぐに鳴子からの電話があった。笑いながら出ると焦った声に問い詰められて、
バカだのアホだのと言われた気がするが許してやる。
「夜行バスで行ってやる。迎えに来いよ」
『あっ……アホちゃう!?ひと言素直に言ったらええだけやろ!』
「直接言ってやるって言ってんだ」
わずかに息を飲んだ気配の後、黙ったまま通話は途切れた。くつくつ笑っていると、母親から呆れた視線が送られる。
「鳴子くん?」
「ああ」
「あんまりいじめたらダメよ」
「いじめられてんのは俺だよ」
素直に誕生日も教えてくれない。田所迅は、そんな不器用な恋人を放っておけるような男ではないのだ。
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