言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2014'01.19.Sun
それは特に考えた行動だったわけでもなく、誰に「これを使って何か一芸」と言われたわけでもなかった。ただ性とでもいうのだろうか、机の上に面白いものがあれば手に取らないわけにはいかないかった。衝動とも反射とも言える行動で、深い意味は、全くなかった。日常におけるちょっとした小ネタのようなものだ。だから、「嫌です」と、返されると思っていた。
「光、こっち向いて」
謙也が声をかけると、財前は何ですか、と体ごと謙也に向き直った。その予想外の行動に一瞬戸惑ったが、手の中に隠したそれを使うチャンスであることはこの四天宝寺中で鍛えられた勘は見逃さなかった。
「両腕こっちに出して」
「はぁ」
また何かしょーもないことを、とでも言いたげに、それでも財前は思った以上に素直にその両腕を謙也に向けた。一瞬も疑う余地を与えずに、謙也はそれを素早く財前の両手に引っ掛ける。
カシャン!
軽い音は刑事ドラマとはいかなかったが、姿ばかりがそれらしかった。
財前は両腕を拘束したそれを見て、眉を潜めて謙也を見る。
「悪趣味……」
「似合うやん」
それはおもちゃの手錠だった。いかにもおもちゃですとばかりにぴかぴかした銀色のそれはさほど重さもなかった。それでも確かに財前の両手を捕まえて、財前にいつも通りのつまらなさそうな顔をさせている。
どうするのだ、と言いたげに財前が両手を突き出した。言葉のない仕草は子ども染みて見え、謙也は生暖かい何かに首筋を撫でられたような心地になった。
「あっ、何してんお前ら!それコントの小道具やのに!」
「あ、すまんユウジのか。外したって」
「アホ、鍵は教室や!このいらんことしぃ!」
どうも虫の居所が悪いのか、ユウジはふたりを睨んで部室を出て行った。怒るぐらいなら大事な小道具、それもこんなに面白いものを、部室に放置しないでおけばいいのだ。
「ほんま、謙也先輩いらんことしいですね」
「どうもすいません」
部活も終わり、制服に着替え終えていた財前は特に急ぐようもなかったようで、パイプ椅子に腰かけて手持無沙汰に手首のおもちゃを鳴らした。ちゃちなおもちゃはしゃらしゃらと軽い音をさせ、すぐに財前の興味を逃れたようだった。
「先輩、俺のバッグから携帯とって下さい」
「何でやねん。取れるやろ」
「いらんことしたの先輩でしょ」
「あーもう、わがままな後輩やで」
「優しい先輩で嬉しいっすわ」
およそ感情のないセリフを笑い飛ばし、謙也は財前のロッカーに近づいた。開いたままのバッグからは彼の使い慣れた携帯電話がもう見えていて、それを手にして財前を振り返る。
部室には謙也と財前のふたりだけ。財前の両手は手錠が拘束し、しかしいつも不遜な振る舞いをする彼はこの状況にあっても微塵も同様を見せない。世間を恨むでもなく期待するでもなく、無感情に見える視線は当てもなく部室のドアを見ている。謙也が一歩近づくとその視線はこちらを向いた。意志と言うよりも惰性で向けられたそれはこんな状況でも「いつも通り」だ。
ふと、胸の内がざわめく。それはちょっとした、悪戯心だ。
財前の携帯は彼が座ったままでは手の届かない机に置いた。それを見ていた財前はやや眉を寄せたが抗議もせず、謙也が何をしようとしているのか黙って見守っていた。
部室の中には他に面白そうなものは見当たらず、謙也は机の上に置かれていた誰かが買い出しに行ってきてそのままにしていたスーパーのビニール袋を手に取る。それを細く束ね、財前の足元にしゃがみ込んだ。蹴られないだろうか、と思うとやや不安になって財前を見上げたが、彼は無表情の中にもどこか笑っているように見える。静かに喉を鳴らし、謙也はビニール袋で財前の片足をパイプ椅子に縛りつけた。
「謙也先輩って、変態なんすね。浪速のスピードスターやなくて浪速の変態やん」
「アホか」
「だって、にやにやしてますよ」
「してへんわ」
鼻を鳴らしてもう片方も別のビニール袋で同様に拘束してしまう。立ち上がって改めて財前を見ると、謙也を見上げて口角を上げた。
「後輩しばりつけて、どうないしはりますん?」
「……せやなぁ、めっちゃ生意気やし、どうしたろかなぁ」
「やーらし」
楽しげに眼を細めて財前は謙也を見上げた。足首を動かしてみて簡単には外れないことを確認し、財前はパイプ椅子に深く座った。手首の間に鎖を弄ぶ。
「俺、どうされんの?」
ゆっくりと発音をする唇は、きっと熱い。
今、財前の運命を握っているのは自分だった。謙也が拳を固めて腕を振り降ろせば彼は抵抗もできず殴られるだろう。謙也が足を彼に向けて振り切れば見えていても避けられないだろう。謙也が両手で彼の首を押さえつければ彼は声も出せないまま息を止めるだろう。
「ねえ、けんやせんぱい」
鼓膜までがひどく遠い。謙也の目に映るのは、声を出すために薄く開けられた唇のあわいばかりだ。
「あったでー!」
ユウジの声に謙也は飛び上がって胸を押さえた。慌てて振り返るが、そこに立つユウジをしばらく認識できない。財前が小さく笑う声ではっと我に返る。
「ほれ、外したるから腕出せ」
「おっ、俺やる!俺が外したい!」
ユウジの手からおもちゃの鍵をひったくり、謙也はユウジを近づけないように財前を隠すように前に立つ。何やねん、とややいぶかしがるユウジに何を言ってもボロが出る気がして、謙也は何も言えない。ただ、財前が笑っている声だけが耳に届く。
「先輩、はよ外して下さいよ」
楽しげなその声は、とても言葉通りには聞こえなかった。どぎまぎとして振り返ると彼はいつも通りのつまらなさそうな顔をしている。ただ、その口元だけはひどく楽しげなままだった。
「光、こっち向いて」
謙也が声をかけると、財前は何ですか、と体ごと謙也に向き直った。その予想外の行動に一瞬戸惑ったが、手の中に隠したそれを使うチャンスであることはこの四天宝寺中で鍛えられた勘は見逃さなかった。
「両腕こっちに出して」
「はぁ」
また何かしょーもないことを、とでも言いたげに、それでも財前は思った以上に素直にその両腕を謙也に向けた。一瞬も疑う余地を与えずに、謙也はそれを素早く財前の両手に引っ掛ける。
カシャン!
軽い音は刑事ドラマとはいかなかったが、姿ばかりがそれらしかった。
財前は両腕を拘束したそれを見て、眉を潜めて謙也を見る。
「悪趣味……」
「似合うやん」
それはおもちゃの手錠だった。いかにもおもちゃですとばかりにぴかぴかした銀色のそれはさほど重さもなかった。それでも確かに財前の両手を捕まえて、財前にいつも通りのつまらなさそうな顔をさせている。
どうするのだ、と言いたげに財前が両手を突き出した。言葉のない仕草は子ども染みて見え、謙也は生暖かい何かに首筋を撫でられたような心地になった。
「あっ、何してんお前ら!それコントの小道具やのに!」
「あ、すまんユウジのか。外したって」
「アホ、鍵は教室や!このいらんことしぃ!」
どうも虫の居所が悪いのか、ユウジはふたりを睨んで部室を出て行った。怒るぐらいなら大事な小道具、それもこんなに面白いものを、部室に放置しないでおけばいいのだ。
「ほんま、謙也先輩いらんことしいですね」
「どうもすいません」
部活も終わり、制服に着替え終えていた財前は特に急ぐようもなかったようで、パイプ椅子に腰かけて手持無沙汰に手首のおもちゃを鳴らした。ちゃちなおもちゃはしゃらしゃらと軽い音をさせ、すぐに財前の興味を逃れたようだった。
「先輩、俺のバッグから携帯とって下さい」
「何でやねん。取れるやろ」
「いらんことしたの先輩でしょ」
「あーもう、わがままな後輩やで」
「優しい先輩で嬉しいっすわ」
およそ感情のないセリフを笑い飛ばし、謙也は財前のロッカーに近づいた。開いたままのバッグからは彼の使い慣れた携帯電話がもう見えていて、それを手にして財前を振り返る。
部室には謙也と財前のふたりだけ。財前の両手は手錠が拘束し、しかしいつも不遜な振る舞いをする彼はこの状況にあっても微塵も同様を見せない。世間を恨むでもなく期待するでもなく、無感情に見える視線は当てもなく部室のドアを見ている。謙也が一歩近づくとその視線はこちらを向いた。意志と言うよりも惰性で向けられたそれはこんな状況でも「いつも通り」だ。
ふと、胸の内がざわめく。それはちょっとした、悪戯心だ。
財前の携帯は彼が座ったままでは手の届かない机に置いた。それを見ていた財前はやや眉を寄せたが抗議もせず、謙也が何をしようとしているのか黙って見守っていた。
部室の中には他に面白そうなものは見当たらず、謙也は机の上に置かれていた誰かが買い出しに行ってきてそのままにしていたスーパーのビニール袋を手に取る。それを細く束ね、財前の足元にしゃがみ込んだ。蹴られないだろうか、と思うとやや不安になって財前を見上げたが、彼は無表情の中にもどこか笑っているように見える。静かに喉を鳴らし、謙也はビニール袋で財前の片足をパイプ椅子に縛りつけた。
「謙也先輩って、変態なんすね。浪速のスピードスターやなくて浪速の変態やん」
「アホか」
「だって、にやにやしてますよ」
「してへんわ」
鼻を鳴らしてもう片方も別のビニール袋で同様に拘束してしまう。立ち上がって改めて財前を見ると、謙也を見上げて口角を上げた。
「後輩しばりつけて、どうないしはりますん?」
「……せやなぁ、めっちゃ生意気やし、どうしたろかなぁ」
「やーらし」
楽しげに眼を細めて財前は謙也を見上げた。足首を動かしてみて簡単には外れないことを確認し、財前はパイプ椅子に深く座った。手首の間に鎖を弄ぶ。
「俺、どうされんの?」
ゆっくりと発音をする唇は、きっと熱い。
今、財前の運命を握っているのは自分だった。謙也が拳を固めて腕を振り降ろせば彼は抵抗もできず殴られるだろう。謙也が足を彼に向けて振り切れば見えていても避けられないだろう。謙也が両手で彼の首を押さえつければ彼は声も出せないまま息を止めるだろう。
「ねえ、けんやせんぱい」
鼓膜までがひどく遠い。謙也の目に映るのは、声を出すために薄く開けられた唇のあわいばかりだ。
「あったでー!」
ユウジの声に謙也は飛び上がって胸を押さえた。慌てて振り返るが、そこに立つユウジをしばらく認識できない。財前が小さく笑う声ではっと我に返る。
「ほれ、外したるから腕出せ」
「おっ、俺やる!俺が外したい!」
ユウジの手からおもちゃの鍵をひったくり、謙也はユウジを近づけないように財前を隠すように前に立つ。何やねん、とややいぶかしがるユウジに何を言ってもボロが出る気がして、謙也は何も言えない。ただ、財前が笑っている声だけが耳に届く。
「先輩、はよ外して下さいよ」
楽しげなその声は、とても言葉通りには聞こえなかった。どぎまぎとして振り返ると彼はいつも通りのつまらなさそうな顔をしている。ただ、その口元だけはひどく楽しげなままだった。
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