言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2014'01.11.Sat
初めて「彼」を見たのはアルミンがもっと幼い日、夏の天体観測の夜だった。その日の夜に流星群が見られると数日前から町のあちこちで繰り返され、どこか浮き足立った夏休み。アルミンが通うことになる学校が屋上を解放することになり、父親に連れられて見に行った夜のことだ。
何も遮るもののない夜空を見上げ、感嘆の声を上げる。父親が知人を見つけて立ち止まったことにも気づかず、アルミンはふらふらと足を進める。さっと空を切るように横切った流れ星に集まった人が声を上げ、アルミンも父を振り返って初めてはぐれたことに気がついた。代わりにそこに立っていたのは、ひとりの兵士だった。ずいぶん若いように思った。短く切った髪は兵士らしい。瞳の色がわかったのは、彼がアルミンを見て目を見開いたからだ。柔らかな榛色はどこか懐かしい。
「アルミン」
父の声に振り返る。少し焦った様子の彼はすぐにアルミンの手を取った。兵士は父の姿を見て更に驚いた顔をした。父の知り合いだろうかとも思ったが、それには若すぎるように思う。何か言いたげに口を開いた後、兵士はすぐに背を背けた。その背に広がる翼を見た気がして、アルミンは目をこする。
「アルミン、どうしたの?眠くなっちゃった?」
「ううん、違うの」
父に抱き上げられてその首にすがりつく。背の高い父に抱かれると視界がうんと高くなって少し怖い。ほら、と促されて夜空を見上げる。それが合図のように、ひとつ、またひとつと星が降り始めた。
「お父さん、流れ星はどこに落ちるの?」
「どこだろうね、よく見ててごらん」
「拾いに行こうよ」
「そうだね。どこまででも、壁を越えていけるのだから」
その夜があまりにも美しく、父が優しかったので、アルミンは兵士を見たことなど忘れてしまっていた。「自由の翼」を見るまでは。
「アルミン!見ろよ、衣装届いたんだ!」
その日、幼馴染みのエレンは祭りの衣装を身につけてアルミンの家にやってきた。もうすぐ大昔の兵士をたたえる祭りがある。それはこの国に伝わる伝説が関わっている一大行事だ。
――昔むかし、人類は巨人の恐怖におびえて暮らしていた。人類は身を守るために何重もの壁を築き、その中で暮らしていた。しかし巨人は時には知恵を使って壁を破壊し、人間たちを食らった。そんな中、勇敢な兵士たちが立ち上がり、襲いかかる巨人に向かっていったのだ。それは何年にもわたる長い戦いで、幾人もの兵士が命を落とした。しかし人類はついに巨人を追いつめ、最後の一匹まで倒し、人類は自由を手に入れた。
その兵士たちは、調査兵団と呼ばれていたらしい。この祭りの時期になると選ばれた子どもたちが、兵士たちが巨人と戦うために使っていたという「立体軌道装置」の練習を始める。祭りの儀式の中の、デモンストレーションのためだ。引き継がれた伝統の中でも、子どもたちが何よりも憧れるものだった。
幼馴染みのエレンはアルミンよりも少し年上で、ようやく体もできてきた今年、遂に「調査兵団役」に選ばれた。適正の必要な立体軌道装置は誰でも扱えるものではない。ひとえに、努力を怠らなかったエレンが自ら掴み取ったものだ。
――エレン。それは、英雄の名だ。巨人の最後の一匹を倒したと伝えられている英雄の名を冠したエレンは、いつどんなときも自分の信じた道を突き進む。今度もまたそうだ。
「すごい、かっこいいね!」
ミニチュアの兵士の制服を着たエレンは誇らしげに胸を張った。幼馴染みを応援していたアルミンも自分のことのように嬉しく、手を叩いて喜んだ。
「おや、エレン、よく似合ってるね」
アルミンたちの声を聞きつけて、アルミンの父が顔を出した。父も昔「調査兵団役」をやったことがあるのだという。難しい立体軌道装置を誰よりも早く使いこなしたのだと今でも祖父母の自慢で、エレンも何度もコツを聞きにきていた。
「どう?似合う?」
「ああ、エレンにはやっぱり自由の翼がよく似合う」
「自由の翼?」
「アルミン知らねえのか?調査兵団は憲兵たちとはエンブレムが違うんだぜ!」
さっと彼が背を見せた。アルミンの視界一杯に広がるのは、一対の翼。アルミンの知る憲兵は、馬の横顔か薔薇の花だ。しかし、どこかで見たことがある。何で見たのか考えて黙り込むアルミンをどう解釈したのか、エレンはいいだろ、と自慢げに胸を張った。
「アルミンももう少し大きくなったら『調査兵団』を目指そうぜ!オレが教えてやるからさ!」
「僕はいいよ。エレンみたいに早く走れないし、喧嘩も弱いもん」
「……エレン、また誰かと喧嘩したの?」
「えっ、えーっと……アルミン!黙ってろって言っただろ!」
「あ、ごめん」
「エ〜レ〜ン〜」
「ごめんなさいっ!」
父から逃げるエレンを笑いながら、アルミンは自由の翼をじっと見る。確かに見た記憶があるものだ、と考え、間もなく思い出した。あの、流星群を見た夜だ。
背の高い兵士の背中に広がる翼。あの夜会った兵士は、調査兵団のエンブレムを背負っていた。
「ねえ、お父さん」
「何?アルミン」
暴れるエレンを簡単に羽交い締めにしてしまった父は、そのままでアルミンを見た。びくともしない父の拘束に、エレンが諦めたように身を委ねている。
「あのね、調査兵団って今はいないの?」
「……うん。彼らの仕事は壁の外の調査だったから、壁のない今はもう、彼らはいないんだ」
父はどこか寂しげに笑い、エレンをおろす。ソファーに座った父について、アルミンとエレンもその両側に座った。幼いアルミンにはまだ具体的に父の仕事はわからないが、古いことをたくさん知っている。今日も何か話してくれるのだろうか、とエレンと一緒に父を見上げた。
「そうだな……調査兵団は、とても勇敢な人たちだ。エレン、君が名前をもらった、あの英雄も、とても勇気のある強い人だったんだ」
「でも、そいつも死んじゃったんだろ?」
「ははっ、そりゃあ人はいつかは死ぬさ。……彼が戦いの最中で死んだのか、或いは生き延びたのか……それはいろんな話があって、まだわからない」
「他にはどんな人がいたの?」
「アルミンもエレンも、絵本で名前を知ってるだろ」
「リヴァイ兵長!」
「ミカサ!」
「そうそう。……勇敢な人が協力して、巨人を倒したから今の僕らの生活がある。だからね、エレン、君はこの翼に恥じないように生きなさい」
ぽん、と背を叩かれたエレンは背筋を伸ばした。父は同じように、アルミンの背にも手を添える。
「君たちには英雄の血が流れている。強き者、正しき者、導く者――だからねエレン、力が強いのは喧嘩の為じゃない」
「はぁい」
話が説教に変わってエレンが飛び上がった。アルミンは父と笑う。ここ数年でぐんぐんと背を伸ばしたエレンに兵士の衣装はよく似合っていて、アルミンは素直にかっこいいと思った。父に伝えると、彼は笑ってアルミンの肩を抱く。
「父さんはアルミンにも似合うと思うなぁ」
「だって僕、背も低いもの。エレンも苦労したのに、立体軌道装置なんて怖くてできないよ」
「残念だなぁ」
父は笑って肩を揺すった。
エレンの背中を大きく見せる、エンブレム。自由の翼が目にやきついて離れない。
きっと本か何かで見たものとあの夜の記憶が混ざっていたのだろう、と自分の中で結論づけた。調査兵団がひとりもいないなら、あの夜アルミンがみた兵士は兵士ではないか、或いはただの見間違いだ。確かめることはできないが、何となくそのままではいられなくてアルミンは学校の屋上に上がった。あの日流星群を見た場所だ。
屋上は寒く、いつも人気がないらしい。アルミンも授業以外で上がるのはあの流星群の夜以外は初めてだ。ドアを開けるとそこに見えるのは何もないただ広いスペースで、こんなに広かっただろうか、と少し怖じ気づいた。
突然の羽音に飛び上がった。鳥が目の前を横切っていったのだ。音もなく残ったのは、宙に漂う小さな羽。風にあおられて踊るそれを目で追って、屋上に視線を巡らせた。そして。
――その先に、翼を背負った兵士がいた。
小鳥が彼に近づき、しなやかな腕が小鳥に伸びる。まるで操られるかのように鳥は彼に近づいたが、すいっとその指先から逃げていった――否、彼の指が、小鳥の体を突き抜けた。
アルミンが声を挙げたのか、または足下を鳴らしたのか、気配を感じた彼が振り返った。何気ないその表情は、アルミンを見て凍り付く。
――そしてアルミンは、やっと気づいた。彼が背負う翼の向こうが、透けて見えることに。
呆然として身動きをとれずにいるアルミンとは対照的に、彼はきょろきょろとせわしなく辺りを見回した。そして他に誰もいないことがわかると、恐る恐る、と言った様子でアルミンに近づいてくる。まるで吠える犬の前をこっそり通ろうとするかのように。
「オレが、見えるのか?」
それは、優しい声だった。今にもかすれて消えそうな声をしっかり聞き取って、アルミンは彼を見上げて頷く。それを見た彼は、深く溜息をついた。その透けた腹には空気も吸い込めないようで、肩が上下しただけだったが。
「あ〜……悪いもんじゃない、オレは」
「お兄さん、調査兵団?」
アルミンの口から飛び出たのは、自分でも思ってもみない言葉だった。ただ、彼を怖いとは思わなかったし、知りたいことは確かにそのことだった。驚いた顔をした彼は、少しの間考えるようにあごを撫で、笑った。その笑顔はどこかで見たような、いたずら小僧のようで、少し悲しげでもあった。
「そうだ。お前たちの未来を作った、調査兵様だ」
「じゃああなたがエレン?」
「……二度とその名前で呼ぶんじゃねぇ」
その次は、この世のすべてを憎むようなしかめっ面だった。
「いいか、オレは……一度で覚えろ。ジャン・キルシュタインだ」
「ジャン・キルシュタイン?」
「そうだ。……アルミン?」
「えっ、なんで僕の名前を」
「父親の名前は、マルコ」
「すごい!なんでもお見通しなの!?」
「ははっ、まさか。知ってることしか知らねえよ。……ほら、予鈴だ」
「え?」
彼が言った途端に予鈴が鳴った。驚いて見上げれば、彼はまた笑っている。
「あ、あの、ジャン、また後できてもいい?ここにいる?」
「さあな」
からかうような口調で言ったその人は、ちゃんとそこで待っていてくれた。
何も遮るもののない夜空を見上げ、感嘆の声を上げる。父親が知人を見つけて立ち止まったことにも気づかず、アルミンはふらふらと足を進める。さっと空を切るように横切った流れ星に集まった人が声を上げ、アルミンも父を振り返って初めてはぐれたことに気がついた。代わりにそこに立っていたのは、ひとりの兵士だった。ずいぶん若いように思った。短く切った髪は兵士らしい。瞳の色がわかったのは、彼がアルミンを見て目を見開いたからだ。柔らかな榛色はどこか懐かしい。
「アルミン」
父の声に振り返る。少し焦った様子の彼はすぐにアルミンの手を取った。兵士は父の姿を見て更に驚いた顔をした。父の知り合いだろうかとも思ったが、それには若すぎるように思う。何か言いたげに口を開いた後、兵士はすぐに背を背けた。その背に広がる翼を見た気がして、アルミンは目をこする。
「アルミン、どうしたの?眠くなっちゃった?」
「ううん、違うの」
父に抱き上げられてその首にすがりつく。背の高い父に抱かれると視界がうんと高くなって少し怖い。ほら、と促されて夜空を見上げる。それが合図のように、ひとつ、またひとつと星が降り始めた。
「お父さん、流れ星はどこに落ちるの?」
「どこだろうね、よく見ててごらん」
「拾いに行こうよ」
「そうだね。どこまででも、壁を越えていけるのだから」
その夜があまりにも美しく、父が優しかったので、アルミンは兵士を見たことなど忘れてしまっていた。「自由の翼」を見るまでは。
「アルミン!見ろよ、衣装届いたんだ!」
その日、幼馴染みのエレンは祭りの衣装を身につけてアルミンの家にやってきた。もうすぐ大昔の兵士をたたえる祭りがある。それはこの国に伝わる伝説が関わっている一大行事だ。
――昔むかし、人類は巨人の恐怖におびえて暮らしていた。人類は身を守るために何重もの壁を築き、その中で暮らしていた。しかし巨人は時には知恵を使って壁を破壊し、人間たちを食らった。そんな中、勇敢な兵士たちが立ち上がり、襲いかかる巨人に向かっていったのだ。それは何年にもわたる長い戦いで、幾人もの兵士が命を落とした。しかし人類はついに巨人を追いつめ、最後の一匹まで倒し、人類は自由を手に入れた。
その兵士たちは、調査兵団と呼ばれていたらしい。この祭りの時期になると選ばれた子どもたちが、兵士たちが巨人と戦うために使っていたという「立体軌道装置」の練習を始める。祭りの儀式の中の、デモンストレーションのためだ。引き継がれた伝統の中でも、子どもたちが何よりも憧れるものだった。
幼馴染みのエレンはアルミンよりも少し年上で、ようやく体もできてきた今年、遂に「調査兵団役」に選ばれた。適正の必要な立体軌道装置は誰でも扱えるものではない。ひとえに、努力を怠らなかったエレンが自ら掴み取ったものだ。
――エレン。それは、英雄の名だ。巨人の最後の一匹を倒したと伝えられている英雄の名を冠したエレンは、いつどんなときも自分の信じた道を突き進む。今度もまたそうだ。
「すごい、かっこいいね!」
ミニチュアの兵士の制服を着たエレンは誇らしげに胸を張った。幼馴染みを応援していたアルミンも自分のことのように嬉しく、手を叩いて喜んだ。
「おや、エレン、よく似合ってるね」
アルミンたちの声を聞きつけて、アルミンの父が顔を出した。父も昔「調査兵団役」をやったことがあるのだという。難しい立体軌道装置を誰よりも早く使いこなしたのだと今でも祖父母の自慢で、エレンも何度もコツを聞きにきていた。
「どう?似合う?」
「ああ、エレンにはやっぱり自由の翼がよく似合う」
「自由の翼?」
「アルミン知らねえのか?調査兵団は憲兵たちとはエンブレムが違うんだぜ!」
さっと彼が背を見せた。アルミンの視界一杯に広がるのは、一対の翼。アルミンの知る憲兵は、馬の横顔か薔薇の花だ。しかし、どこかで見たことがある。何で見たのか考えて黙り込むアルミンをどう解釈したのか、エレンはいいだろ、と自慢げに胸を張った。
「アルミンももう少し大きくなったら『調査兵団』を目指そうぜ!オレが教えてやるからさ!」
「僕はいいよ。エレンみたいに早く走れないし、喧嘩も弱いもん」
「……エレン、また誰かと喧嘩したの?」
「えっ、えーっと……アルミン!黙ってろって言っただろ!」
「あ、ごめん」
「エ〜レ〜ン〜」
「ごめんなさいっ!」
父から逃げるエレンを笑いながら、アルミンは自由の翼をじっと見る。確かに見た記憶があるものだ、と考え、間もなく思い出した。あの、流星群を見た夜だ。
背の高い兵士の背中に広がる翼。あの夜会った兵士は、調査兵団のエンブレムを背負っていた。
「ねえ、お父さん」
「何?アルミン」
暴れるエレンを簡単に羽交い締めにしてしまった父は、そのままでアルミンを見た。びくともしない父の拘束に、エレンが諦めたように身を委ねている。
「あのね、調査兵団って今はいないの?」
「……うん。彼らの仕事は壁の外の調査だったから、壁のない今はもう、彼らはいないんだ」
父はどこか寂しげに笑い、エレンをおろす。ソファーに座った父について、アルミンとエレンもその両側に座った。幼いアルミンにはまだ具体的に父の仕事はわからないが、古いことをたくさん知っている。今日も何か話してくれるのだろうか、とエレンと一緒に父を見上げた。
「そうだな……調査兵団は、とても勇敢な人たちだ。エレン、君が名前をもらった、あの英雄も、とても勇気のある強い人だったんだ」
「でも、そいつも死んじゃったんだろ?」
「ははっ、そりゃあ人はいつかは死ぬさ。……彼が戦いの最中で死んだのか、或いは生き延びたのか……それはいろんな話があって、まだわからない」
「他にはどんな人がいたの?」
「アルミンもエレンも、絵本で名前を知ってるだろ」
「リヴァイ兵長!」
「ミカサ!」
「そうそう。……勇敢な人が協力して、巨人を倒したから今の僕らの生活がある。だからね、エレン、君はこの翼に恥じないように生きなさい」
ぽん、と背を叩かれたエレンは背筋を伸ばした。父は同じように、アルミンの背にも手を添える。
「君たちには英雄の血が流れている。強き者、正しき者、導く者――だからねエレン、力が強いのは喧嘩の為じゃない」
「はぁい」
話が説教に変わってエレンが飛び上がった。アルミンは父と笑う。ここ数年でぐんぐんと背を伸ばしたエレンに兵士の衣装はよく似合っていて、アルミンは素直にかっこいいと思った。父に伝えると、彼は笑ってアルミンの肩を抱く。
「父さんはアルミンにも似合うと思うなぁ」
「だって僕、背も低いもの。エレンも苦労したのに、立体軌道装置なんて怖くてできないよ」
「残念だなぁ」
父は笑って肩を揺すった。
エレンの背中を大きく見せる、エンブレム。自由の翼が目にやきついて離れない。
きっと本か何かで見たものとあの夜の記憶が混ざっていたのだろう、と自分の中で結論づけた。調査兵団がひとりもいないなら、あの夜アルミンがみた兵士は兵士ではないか、或いはただの見間違いだ。確かめることはできないが、何となくそのままではいられなくてアルミンは学校の屋上に上がった。あの日流星群を見た場所だ。
屋上は寒く、いつも人気がないらしい。アルミンも授業以外で上がるのはあの流星群の夜以外は初めてだ。ドアを開けるとそこに見えるのは何もないただ広いスペースで、こんなに広かっただろうか、と少し怖じ気づいた。
突然の羽音に飛び上がった。鳥が目の前を横切っていったのだ。音もなく残ったのは、宙に漂う小さな羽。風にあおられて踊るそれを目で追って、屋上に視線を巡らせた。そして。
――その先に、翼を背負った兵士がいた。
小鳥が彼に近づき、しなやかな腕が小鳥に伸びる。まるで操られるかのように鳥は彼に近づいたが、すいっとその指先から逃げていった――否、彼の指が、小鳥の体を突き抜けた。
アルミンが声を挙げたのか、または足下を鳴らしたのか、気配を感じた彼が振り返った。何気ないその表情は、アルミンを見て凍り付く。
――そしてアルミンは、やっと気づいた。彼が背負う翼の向こうが、透けて見えることに。
呆然として身動きをとれずにいるアルミンとは対照的に、彼はきょろきょろとせわしなく辺りを見回した。そして他に誰もいないことがわかると、恐る恐る、と言った様子でアルミンに近づいてくる。まるで吠える犬の前をこっそり通ろうとするかのように。
「オレが、見えるのか?」
それは、優しい声だった。今にもかすれて消えそうな声をしっかり聞き取って、アルミンは彼を見上げて頷く。それを見た彼は、深く溜息をついた。その透けた腹には空気も吸い込めないようで、肩が上下しただけだったが。
「あ〜……悪いもんじゃない、オレは」
「お兄さん、調査兵団?」
アルミンの口から飛び出たのは、自分でも思ってもみない言葉だった。ただ、彼を怖いとは思わなかったし、知りたいことは確かにそのことだった。驚いた顔をした彼は、少しの間考えるようにあごを撫で、笑った。その笑顔はどこかで見たような、いたずら小僧のようで、少し悲しげでもあった。
「そうだ。お前たちの未来を作った、調査兵様だ」
「じゃああなたがエレン?」
「……二度とその名前で呼ぶんじゃねぇ」
その次は、この世のすべてを憎むようなしかめっ面だった。
「いいか、オレは……一度で覚えろ。ジャン・キルシュタインだ」
「ジャン・キルシュタイン?」
「そうだ。……アルミン?」
「えっ、なんで僕の名前を」
「父親の名前は、マルコ」
「すごい!なんでもお見通しなの!?」
「ははっ、まさか。知ってることしか知らねえよ。……ほら、予鈴だ」
「え?」
彼が言った途端に予鈴が鳴った。驚いて見上げれば、彼はまた笑っている。
「あ、あの、ジャン、また後できてもいい?ここにいる?」
「さあな」
からかうような口調で言ったその人は、ちゃんとそこで待っていてくれた。
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