言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'12.27.Fri
「っは〜……だっる……」
もう若くねえなぁ、と思わずこぼし、山崎は崩れ落ちそうな体を引きずってどうにか自室に帰りついた。布団を敷いたまま出かけたのは正解だったと自分を褒める。例え布団や畳が傷もうとも、帰宅してそのまま眠れるのならそれも些細なことだった。明かりをつける間も惜しんで汚れた服を脱ぎ捨てて、さっさと着替えて布団に潜り込む。寒さには強い方だが、さすがに堪える季節になった。身を委ねるのをためらうほど布団はひやりとしている。布団の中で身震いするが、一刻でも早く眠りたくて体を抱いた。
しかし思っていたよりも、布団はほんのりと温かい気がする。それとも自分がそれほど冷えているのだろうか。
――ああ、嫌な季節だ。
もう二度と気温が下がることはないのではないかと危惧するほど暑かった夏は、じりじりと粘っていた割にはあっさりと役目を譲っていった。堪え性のない秋は、早くも冬に押されてろくに楽しませてもくれない。
尤も、山崎には季節を楽しむ余裕など一切なかった。ろくな家財のない貧乏長屋でひと月近くの張り込みは、向かいの家の瓦を数え続ける日々でもあった。
血と汗のにおいが鼻につき、帰ったら湯を浴びようと考えていたことを思い出す。しかし山崎はもう両目も伏せて、脳がどれほど信号を送っても、体に届く気がしない。気にしないと決めた山崎の鼻は、また別のにおいをかぎつけた。何だろうか、と考えているうちに睡魔が思考を奪っていく。
ああ、これは、干した布団のにおいだ。
翌朝、悲しいかな、怒鳴られるまで眠ってやろうと思っていた山崎の眠りは、耐えがたいほどの空腹で体を起こした。寝起きだというのにぐるぐると唸る腹の虫に顔をしかめて布団から這い出る。昨日散々走り回った体はまだ疲労を残していたが、起きたからには回復のためにも何か腹に詰め込みたい。屯所の気配を伺うとまだ早い時間のようだ。目が覚めたことを惜しむが仕方ない。山崎はあくびをかみ殺しながら着物を直し、部屋を出て食事に向かう。
「はぁ〜」
吐く息が白い。冷たい廊下を歩いていると、向かいからイヤホンを振り回しながら沖田がやってくる。
「ヨォ山崎、生きてたか」
「お帰りなさい。そっちも片づきましたか」
「多分」
「多分?」
「終わりそうだから帰ってきた」
「……また、副長に怒られますよ」
「知るか。……お前、くせぇな」
「はは、臭いますか」
「くせぇ。それで飯食いにきたらたたっ切るからな」
「ええ〜、俺腹の虫に起こされたのに〜」
しかしいつものポーカーフェイスをわずかにしかめた沖田は、問答無用で有言実行するだろう。しぶしぶ先に体を流すことにして部屋へ引き返す。朝の空気は身に刺すようで、まあ先に体をあたためるのも悪くない、と前向きに考えることにした。
部屋に戻ってまず目についたのは、昨日脱ぎ散らかした着物だった。なぜ起きたときに気づかなかったのか不思議なほど、強烈なにおいを発している。
あれだけ汗をかき、血を被れば当然といえば当然だ。とても他のものとは一緒に洗えない。せめて湯に浸けておこう、と着替えと一緒に掴み、風呂場へ向かう。
「おはよー」
「あっ、山崎さんおはようございます、お帰りなさい!風呂ですか?」
風呂場の前で会った後輩はどこか急いでいて、山崎を見てほっと息を吐いたようだった。どうしたのかと口を開きかけたところで、彼が山崎の腕にすがりつく。
「山崎さん!お願いがあります!」
「えっ、嫌」
「手が回ってないんで風呂掃除お願いします!」
「はぁ!?」
山崎が捕まえるより早く彼は素早く逃げ出した。あっという間に消えてしまった後輩を恨むも、そもそも自分に威厳がないせいだろうか、とすぐに諦めた。何か面倒な仕事でも押しつけられたのだろう。簡単に風呂掃除といっても屯所の風呂は一般家庭の広さとは違う。おまけに男ばかりが使うので、決してきれいとは言いがたい。まめな数人が頑張った程度ではいつでもきれいにとはいかなかった。普段なら山崎も気をつけるが、今日は手早く済ませると決めて、さっさと掃除に取りかかる。何も悪いことばかりではない。大手を振って一番風呂に入ることができるのだ。
――そして掃除が終わった頃に、幹部が風呂場に入ってくるのはよくあることだった。山崎が一番風呂に入ることができたのは数えるほどだ。とはいえ、いつもは快活な近藤が疲労を見せてやってきては、山崎でなくとも何も言えまい。
「局長お疲れ様です!」
「おー、山崎戻ってたか。張り込みご苦労だったな」
「いえ。どうぞ、ちょうど湧いたところですからごゆっくり」
「山崎はいいのか?」
「先に食事もらいますんで」
今回の捕り物は人数が多く流石に近藤も疲れたようだ。すまんなぁ、と謝る近藤に笑って見せて、近藤が休めるように風呂場を出る。もう沖田も食事を終えただろうから、今行っても追い出されることはないだろう。大体あの人は鼻がよすぎるのだ、とぼやきながら食事に向かう。
「あ、山崎さん!」
食堂に入るなり、袖を引かれて嫌な予感がする。振り返らずに中へ向かおうとするのに、逆にしっかりと腕を掴まれた。
「台所足りないんです!」
「俺だって腹ペコだよ!」
「さっきで全員帰ってきてみんなして食堂になだれ込んできてるんですよ!」
「もうやだ〜!」
結局台所に立たされた山崎は食欲旺盛な男たちの食事をどっさり作った後、自分の口に入らないまま台所を出た。他の隊士に謝られ、彼が今コンビニに山崎の分を買いに走ってくれている。
すっかりふてくされた山崎は、この際だからこのまま働いてやろうと、庭にたらいを持ち出して昨日汚れた服を洗っている。泥と血にまみれたそれは何度水を変えてもなかなかきれいにならない。
「……山崎!」
「はい?」
縁側から叫ばれて振り返れば、なぜか土方がこちらを全力で睨みつけている。何かしただろうか、と必死で振り返る。報告はまだだがそれはいつものことで、何より土方も随分疲れている様子だ。それほど手を焼く相手だったのだろうか。
殴られる準備をして山崎が身構えているが何もなく、ただ土方の深い溜息が聞こえる。恐る恐るそちらを見れば、顔にジャケットが投げられた。
「わっ」
「それも洗っとけ!」
「えー!ジャケットはクリーニング、うっわぁ、血でぼとぼと……」
土方を見れば忌々しげに顔をしかめ、煙草を咥えて火をつける。
「オメーは屯所の中でも隠れんぼか。どこ行ってもいやしねぇ」
「え?」
「なんでもねぇ」
「山崎さ〜ん、朝飯買ってきました〜」
コンビニの袋をぶら下げて後輩が帰ってきた。待ってました、と山崎はジャケットをたらいに投げて手を洗う。土方に気づいた後輩が慌てて挨拶をした。
「あ、そういえば、山崎さん昨日はよく寝れましたか?副長に頼まれて布団干しておいたんです」
屈託のない後輩の笑みに、土方の口から煙草が落ちた。山崎がそちらを見ると顔をそらされる。それに気づかずに後輩は他の買い出しと一緒に台所に戻っていった。あの鈍感さでは少なくとも監察に来ることはないだろう。
「副長」
「……何だ」
「俺、これから飯食って風呂入るんですけど、それからお部屋に伺ってもいいですか」
「たりめーだ、報告聞かなきゃなんねえからな」
「あ、ハイ……」
ですよね、と肩を落とすが、またどうしようもなく笑いがこみあげた。
世界はまだまだ生臭い。それでも、山崎はこの人がいるから笑えるのだ。
もう若くねえなぁ、と思わずこぼし、山崎は崩れ落ちそうな体を引きずってどうにか自室に帰りついた。布団を敷いたまま出かけたのは正解だったと自分を褒める。例え布団や畳が傷もうとも、帰宅してそのまま眠れるのならそれも些細なことだった。明かりをつける間も惜しんで汚れた服を脱ぎ捨てて、さっさと着替えて布団に潜り込む。寒さには強い方だが、さすがに堪える季節になった。身を委ねるのをためらうほど布団はひやりとしている。布団の中で身震いするが、一刻でも早く眠りたくて体を抱いた。
しかし思っていたよりも、布団はほんのりと温かい気がする。それとも自分がそれほど冷えているのだろうか。
――ああ、嫌な季節だ。
もう二度と気温が下がることはないのではないかと危惧するほど暑かった夏は、じりじりと粘っていた割にはあっさりと役目を譲っていった。堪え性のない秋は、早くも冬に押されてろくに楽しませてもくれない。
尤も、山崎には季節を楽しむ余裕など一切なかった。ろくな家財のない貧乏長屋でひと月近くの張り込みは、向かいの家の瓦を数え続ける日々でもあった。
血と汗のにおいが鼻につき、帰ったら湯を浴びようと考えていたことを思い出す。しかし山崎はもう両目も伏せて、脳がどれほど信号を送っても、体に届く気がしない。気にしないと決めた山崎の鼻は、また別のにおいをかぎつけた。何だろうか、と考えているうちに睡魔が思考を奪っていく。
ああ、これは、干した布団のにおいだ。
翌朝、悲しいかな、怒鳴られるまで眠ってやろうと思っていた山崎の眠りは、耐えがたいほどの空腹で体を起こした。寝起きだというのにぐるぐると唸る腹の虫に顔をしかめて布団から這い出る。昨日散々走り回った体はまだ疲労を残していたが、起きたからには回復のためにも何か腹に詰め込みたい。屯所の気配を伺うとまだ早い時間のようだ。目が覚めたことを惜しむが仕方ない。山崎はあくびをかみ殺しながら着物を直し、部屋を出て食事に向かう。
「はぁ〜」
吐く息が白い。冷たい廊下を歩いていると、向かいからイヤホンを振り回しながら沖田がやってくる。
「ヨォ山崎、生きてたか」
「お帰りなさい。そっちも片づきましたか」
「多分」
「多分?」
「終わりそうだから帰ってきた」
「……また、副長に怒られますよ」
「知るか。……お前、くせぇな」
「はは、臭いますか」
「くせぇ。それで飯食いにきたらたたっ切るからな」
「ええ〜、俺腹の虫に起こされたのに〜」
しかしいつものポーカーフェイスをわずかにしかめた沖田は、問答無用で有言実行するだろう。しぶしぶ先に体を流すことにして部屋へ引き返す。朝の空気は身に刺すようで、まあ先に体をあたためるのも悪くない、と前向きに考えることにした。
部屋に戻ってまず目についたのは、昨日脱ぎ散らかした着物だった。なぜ起きたときに気づかなかったのか不思議なほど、強烈なにおいを発している。
あれだけ汗をかき、血を被れば当然といえば当然だ。とても他のものとは一緒に洗えない。せめて湯に浸けておこう、と着替えと一緒に掴み、風呂場へ向かう。
「おはよー」
「あっ、山崎さんおはようございます、お帰りなさい!風呂ですか?」
風呂場の前で会った後輩はどこか急いでいて、山崎を見てほっと息を吐いたようだった。どうしたのかと口を開きかけたところで、彼が山崎の腕にすがりつく。
「山崎さん!お願いがあります!」
「えっ、嫌」
「手が回ってないんで風呂掃除お願いします!」
「はぁ!?」
山崎が捕まえるより早く彼は素早く逃げ出した。あっという間に消えてしまった後輩を恨むも、そもそも自分に威厳がないせいだろうか、とすぐに諦めた。何か面倒な仕事でも押しつけられたのだろう。簡単に風呂掃除といっても屯所の風呂は一般家庭の広さとは違う。おまけに男ばかりが使うので、決してきれいとは言いがたい。まめな数人が頑張った程度ではいつでもきれいにとはいかなかった。普段なら山崎も気をつけるが、今日は手早く済ませると決めて、さっさと掃除に取りかかる。何も悪いことばかりではない。大手を振って一番風呂に入ることができるのだ。
――そして掃除が終わった頃に、幹部が風呂場に入ってくるのはよくあることだった。山崎が一番風呂に入ることができたのは数えるほどだ。とはいえ、いつもは快活な近藤が疲労を見せてやってきては、山崎でなくとも何も言えまい。
「局長お疲れ様です!」
「おー、山崎戻ってたか。張り込みご苦労だったな」
「いえ。どうぞ、ちょうど湧いたところですからごゆっくり」
「山崎はいいのか?」
「先に食事もらいますんで」
今回の捕り物は人数が多く流石に近藤も疲れたようだ。すまんなぁ、と謝る近藤に笑って見せて、近藤が休めるように風呂場を出る。もう沖田も食事を終えただろうから、今行っても追い出されることはないだろう。大体あの人は鼻がよすぎるのだ、とぼやきながら食事に向かう。
「あ、山崎さん!」
食堂に入るなり、袖を引かれて嫌な予感がする。振り返らずに中へ向かおうとするのに、逆にしっかりと腕を掴まれた。
「台所足りないんです!」
「俺だって腹ペコだよ!」
「さっきで全員帰ってきてみんなして食堂になだれ込んできてるんですよ!」
「もうやだ〜!」
結局台所に立たされた山崎は食欲旺盛な男たちの食事をどっさり作った後、自分の口に入らないまま台所を出た。他の隊士に謝られ、彼が今コンビニに山崎の分を買いに走ってくれている。
すっかりふてくされた山崎は、この際だからこのまま働いてやろうと、庭にたらいを持ち出して昨日汚れた服を洗っている。泥と血にまみれたそれは何度水を変えてもなかなかきれいにならない。
「……山崎!」
「はい?」
縁側から叫ばれて振り返れば、なぜか土方がこちらを全力で睨みつけている。何かしただろうか、と必死で振り返る。報告はまだだがそれはいつものことで、何より土方も随分疲れている様子だ。それほど手を焼く相手だったのだろうか。
殴られる準備をして山崎が身構えているが何もなく、ただ土方の深い溜息が聞こえる。恐る恐るそちらを見れば、顔にジャケットが投げられた。
「わっ」
「それも洗っとけ!」
「えー!ジャケットはクリーニング、うっわぁ、血でぼとぼと……」
土方を見れば忌々しげに顔をしかめ、煙草を咥えて火をつける。
「オメーは屯所の中でも隠れんぼか。どこ行ってもいやしねぇ」
「え?」
「なんでもねぇ」
「山崎さ〜ん、朝飯買ってきました〜」
コンビニの袋をぶら下げて後輩が帰ってきた。待ってました、と山崎はジャケットをたらいに投げて手を洗う。土方に気づいた後輩が慌てて挨拶をした。
「あ、そういえば、山崎さん昨日はよく寝れましたか?副長に頼まれて布団干しておいたんです」
屈託のない後輩の笑みに、土方の口から煙草が落ちた。山崎がそちらを見ると顔をそらされる。それに気づかずに後輩は他の買い出しと一緒に台所に戻っていった。あの鈍感さでは少なくとも監察に来ることはないだろう。
「副長」
「……何だ」
「俺、これから飯食って風呂入るんですけど、それからお部屋に伺ってもいいですか」
「たりめーだ、報告聞かなきゃなんねえからな」
「あ、ハイ……」
ですよね、と肩を落とすが、またどうしようもなく笑いがこみあげた。
世界はまだまだ生臭い。それでも、山崎はこの人がいるから笑えるのだ。
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