言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2012'06.05.Tue
この間桜が散ったばかりのような気がするが、日中はずいぶんと気温が上がり、季節は夏へと近づいている。久々知はまだ朝夕が冷えるこの時期が好きだった。部屋の戸を開け放ち、冷えた風に目を細める。昼間走り回って熱を持った体が癒されるようだ。疲労した体の火照りは嫌いではないが、冷やされる感覚が心地よい。
風に体をさらしていると音もなく蛇が部屋に侵入してきた。その赤い体には見覚えがある。
「じゅんこ」
名を呼ぶとまるで理解しているかのように、蛇は久々知の方へ這ってくる。彼女は三年生の伊賀崎孫兵の最愛のペットだ。ペットというには深すぎる愛情かもしれない。のばした手に触れたじゅんこの体は少しひやりとしていた。
「長い散歩だな。お前の捜索のせいで、おれの鍛錬相手は約束破って行っちまったよ」
足がないのに散歩とはこれ如何に、などと思いながらじゅんこの頭を指先で撫で、そのまま頭を捕まえる。じゅんこは身をよじらせたが、久々知はお構いなしに淑女を掴んだまま立ち上がった。彼女の主は今頃泣いているかもしれない。
長い尾で叩かれながら、宛もないのでとりあえず生物小屋に向かう。勘は当たったようで、小屋の前では捜索に疲れたらしい一年生たちが互いに寄りかかるようにしゃがみこみ、竹谷が水を配っているところだった。孫兵は少し離れたところで膝に顔を押し当ててうずくまっている。
「これ以上は遅くなるから、お前らはここで解散な」
「でも、じゅんこは……」
「と言うより、伊賀崎先輩が」
心配げな孫次郎に口を挟んだ三次郎は、やや大人びた感じで孫兵を見た。体を小さくしたまま身動きをしない孫兵に竹谷も苦笑するだけだ。きっと尽くせる手はすべて試した後なのだろう。まったく、罪な女だ。ちらと腕に巻き付くじゅんこを見遣るが、表情などわかるはずもない。ただ、濡れた瞳と目が合った気がするだけだ。
久々知はわざと足を擦るように、地面を鳴らしながら近づいていく。こちらを見た竹谷は眉を下げたが、すぐにじゅんこに気がついてぱっと顔を明るくした。
「孫兵!じゅんこ見つかったぞ!」
「!」
がばっと顔を上げた孫兵は、まるで知っていたかのように、広い視界から一瞬でじゅんこを見つけ出す。そうかと思った瞬間には久々知の腕にすがるようにじゅんこを抱きしめていた。ここまで自分の存在を排除されるといっそ清々しい。元より礼を期待していたわけではないので、じゅんこごと孫兵を引き剥がした。孫兵は熱い抱擁を交わし、愛をささやいている。一年生たちはほっとした後、怒ることもなくけらけら笑っていた。よい子たちだ。
「兵助!悪いな」
「探したわけじゃない。部屋で涼んでたら入ってきたんだ」
「長屋か?いっぺん探したんだけどな……よし!一年たちは解散!手ェ洗って飯食えよ!」
「「はぁ〜い!」」
素直に挨拶をした後、一年生は芋が転がるように元気よく帰っていく。竹谷は自分たちの世界に浸っている孫兵にも声をかけ、背中を押して帰らせた。その姿に呆れて久々知が溜息をついたが、竹谷は肩を揺らして笑っている。
「お人好しって言いたいんだろ」
「当たり前だ。委員会総出で甘やかして」
「まあまあ、埋め合わせはちゃんとするからさ」
「手伝い賃もつけてもらおうか」
「え?」
「どうせ、生物小屋の掃除も終わってないんだろ」
「……このお人好しィ」
「うるせえ」
にやにやする竹谷をねめつけて、久々知は手を突き出した。軽快な足取りで道具を取りに行った竹谷は箒を掴んでさっと戻ってきて、久々知にそれを押しつける。
「おれ菜園行ってくるから、小屋頼んだ!」
「全部はしないぞ」
「わかってる!」
身を翻して行ってしまう竹谷の背を追い、久々知は苦笑する。本人は損な性格だと思っていないのだろう。
「忍者にするには難アリだな」
「俺は小屋の外やるから、勘ちゃんは小屋の中な」
「いやいや、ここは兵助さんが中でしょ」
音もなく現れた尾浜が久々知の脇をつつく。特に反応もせず小屋に近づき、中を覗きこむ。大半が孫兵のペットである、毒虫たちがかすかに蠢いていた。
「意外とかわいいじゃないか」
「おれは人間の女の子がいい。そして今はそれ以上に食堂のおばちゃんに会いたい」
「おれも腹減った。外頼んだよ」
「はいはい。夕食何かな〜」
久々知はかんぬきを開けて小屋の中に入る。それぞれ個室にいる毒虫たちに視線を巡らせ、先ほど掴んだ蛇の感触を思い出した。鋭い瞳は何かを語るようで、孫兵ならそれがわかるのだろうか。
「……蛇、な」
かわいいかもしれない。口にしてもいないのに、そばのさそりに威嚇をされた。
風に体をさらしていると音もなく蛇が部屋に侵入してきた。その赤い体には見覚えがある。
「じゅんこ」
名を呼ぶとまるで理解しているかのように、蛇は久々知の方へ這ってくる。彼女は三年生の伊賀崎孫兵の最愛のペットだ。ペットというには深すぎる愛情かもしれない。のばした手に触れたじゅんこの体は少しひやりとしていた。
「長い散歩だな。お前の捜索のせいで、おれの鍛錬相手は約束破って行っちまったよ」
足がないのに散歩とはこれ如何に、などと思いながらじゅんこの頭を指先で撫で、そのまま頭を捕まえる。じゅんこは身をよじらせたが、久々知はお構いなしに淑女を掴んだまま立ち上がった。彼女の主は今頃泣いているかもしれない。
長い尾で叩かれながら、宛もないのでとりあえず生物小屋に向かう。勘は当たったようで、小屋の前では捜索に疲れたらしい一年生たちが互いに寄りかかるようにしゃがみこみ、竹谷が水を配っているところだった。孫兵は少し離れたところで膝に顔を押し当ててうずくまっている。
「これ以上は遅くなるから、お前らはここで解散な」
「でも、じゅんこは……」
「と言うより、伊賀崎先輩が」
心配げな孫次郎に口を挟んだ三次郎は、やや大人びた感じで孫兵を見た。体を小さくしたまま身動きをしない孫兵に竹谷も苦笑するだけだ。きっと尽くせる手はすべて試した後なのだろう。まったく、罪な女だ。ちらと腕に巻き付くじゅんこを見遣るが、表情などわかるはずもない。ただ、濡れた瞳と目が合った気がするだけだ。
久々知はわざと足を擦るように、地面を鳴らしながら近づいていく。こちらを見た竹谷は眉を下げたが、すぐにじゅんこに気がついてぱっと顔を明るくした。
「孫兵!じゅんこ見つかったぞ!」
「!」
がばっと顔を上げた孫兵は、まるで知っていたかのように、広い視界から一瞬でじゅんこを見つけ出す。そうかと思った瞬間には久々知の腕にすがるようにじゅんこを抱きしめていた。ここまで自分の存在を排除されるといっそ清々しい。元より礼を期待していたわけではないので、じゅんこごと孫兵を引き剥がした。孫兵は熱い抱擁を交わし、愛をささやいている。一年生たちはほっとした後、怒ることもなくけらけら笑っていた。よい子たちだ。
「兵助!悪いな」
「探したわけじゃない。部屋で涼んでたら入ってきたんだ」
「長屋か?いっぺん探したんだけどな……よし!一年たちは解散!手ェ洗って飯食えよ!」
「「はぁ〜い!」」
素直に挨拶をした後、一年生は芋が転がるように元気よく帰っていく。竹谷は自分たちの世界に浸っている孫兵にも声をかけ、背中を押して帰らせた。その姿に呆れて久々知が溜息をついたが、竹谷は肩を揺らして笑っている。
「お人好しって言いたいんだろ」
「当たり前だ。委員会総出で甘やかして」
「まあまあ、埋め合わせはちゃんとするからさ」
「手伝い賃もつけてもらおうか」
「え?」
「どうせ、生物小屋の掃除も終わってないんだろ」
「……このお人好しィ」
「うるせえ」
にやにやする竹谷をねめつけて、久々知は手を突き出した。軽快な足取りで道具を取りに行った竹谷は箒を掴んでさっと戻ってきて、久々知にそれを押しつける。
「おれ菜園行ってくるから、小屋頼んだ!」
「全部はしないぞ」
「わかってる!」
身を翻して行ってしまう竹谷の背を追い、久々知は苦笑する。本人は損な性格だと思っていないのだろう。
「忍者にするには難アリだな」
「俺は小屋の外やるから、勘ちゃんは小屋の中な」
「いやいや、ここは兵助さんが中でしょ」
音もなく現れた尾浜が久々知の脇をつつく。特に反応もせず小屋に近づき、中を覗きこむ。大半が孫兵のペットである、毒虫たちがかすかに蠢いていた。
「意外とかわいいじゃないか」
「おれは人間の女の子がいい。そして今はそれ以上に食堂のおばちゃんに会いたい」
「おれも腹減った。外頼んだよ」
「はいはい。夕食何かな〜」
久々知はかんぬきを開けて小屋の中に入る。それぞれ個室にいる毒虫たちに視線を巡らせ、先ほど掴んだ蛇の感触を思い出した。鋭い瞳は何かを語るようで、孫兵ならそれがわかるのだろうか。
「……蛇、な」
かわいいかもしれない。口にしてもいないのに、そばのさそりに威嚇をされた。
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