言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2012'04.30.Mon
「……おい、さっき来てた商人どこのやつだ」
「キリンタケです。しのぶ様のご実家ですから大丈夫かと……何か問題でも?」
竹谷が顔を引きつらせているのを見て、部下は緊張した様子を見せた。その様子に苦笑しながら、何でもない、と言ってやる。荷は確かにキリンタケから来たもので間違いない。問題は、その荷を縛っていたひもである。布を裂いたそのままのものだ。竹谷はその端を見て頭をかく。
「どうされました?」
「うーん」
部下が竹谷の手元を覗きこむと、布の端にははっきりと「豆腐」と書かれていた。部下は首を傾げる。
「豆腐……?……これは密書ですか?」
「あー、うん……何と言うか……」
「どうしたんです」
通りかかった孫兵が竹谷の手元を見て、合点がいったように頷いて離れていく。すぐに木片を持って戻ってきて、それを竹谷に渡して仕事に戻って行った。新しい種や生物たちの餌も仕入れたので、孫兵は忙しい。
「それは何ですか?」
「……豆腐の黄金比があるらしい」
「は?」
「冷や奴は必ずこの大きさ、比率でなければならんらしい。そしてそれを覚えているおれもアホだが、その黄金比が一般的だと思っているアホがキリンタケにいる」
「ああ、噂のご友人ですか。豆腐好きの……」
「ありゃそのうち豆腐と結婚するぜ。ったく、何なんだわざわざ」
竹谷は豆腐サイズの木片に布を巻きつけていく。一寸角に巻きつけるものとは違い、非常に読みにくいからやめろと何度も言っているのだが、彼は一向に相手にしない。布を巻き終えた木片をくるくる回しながら文章を読み、竹谷はぽかんと口を開ける。
「は……?」
「久々知先輩今度はどうなさったんですか?」
切りがついたのか、孫兵が竹谷の元へ戻ってくる。しかし竹谷は反応せず、何度も繰り返し手元を見ていた。
「え?え?何?あいつばかなの?」
「竹谷先輩?」
「……兵助、結婚するって……」
「へえ、おめでたいですね。どなたと?」
「ちょっとキリンタケ行ってくる!」
「……行ってらっしゃい」
飛び出していく竹谷に、孫兵は呆れて溜息をついた。止める間もなく姿を消した竹谷に部下はおろおろと孫兵を見る。
「頭はどうしちゃったんですか?」
「いつもの世話焼きですよ。別に落ち着いてるからいいんですけどね、城を守る要がぽんと軽々しく城を出てしまうのはどうかと思いますよ」
「ま、別にいいんじゃない。暇だし」
孫兵に応えたのはしのぶだった。実質的に城を動かしている、キリンタケ城主の妻である。面白い荷はないかと見に来たのだろう。
「久々知くんが結婚ねー。ハチ公にもいい人はいないのかしら」
「いると思いますか?」
「私よりいい女がいたら有り得るかもね」
しのぶは荷を見渡し、特に興味を引かれるものがなかったのか、そのまま戻って行く。孫兵は部下と顔を見合わせ、呆れた顔で首を振った。部下は意味がわからないのか、首を傾げている。
「人間というのはほんとにしょうもない生き物だね。――ねえ、じゅんこ?」
足元に這ってきた蛇に手を伸ばし、孫兵はすくい上げて肩に誘う。冷たい肌を撫で、満足げに笑った。
*
「結婚するってどういうことだよ!」
「それは私らも散々言ったんですけどねー」
竹谷は後ろでお茶をすすっているキリンタケ忍者を睨みつけた。彼らは竹谷の睨みなど気にせずに、今度の休みどうする?などと世間話をしながらも、ゆっくり立ち上がって部屋から逃げていく。竹谷は再び久々知に向き直った。
「だから文にも書いただろう。おれは芙蓉と結婚する」
昔から変わらない涼しい目元をきりっとさせ、久々知ははっきり言い切った。竹谷は唖然として久々知を見る。なあ、と久々知は隣を見た。そこに座るのは、少女と見紛うような小柄な女性だ。彼女は無言でこくりと頷く。似たもの夫婦、なんて言葉が頭をよぎり、竹谷は慌てて首を振る。
共に学んだ忍術学園を卒業したのち、久々知兵助はキリンタケ城に就職した。キリンタケを選んだ理由のひとつに、キリンタケ忍者の中に優秀な豆腐職人がいたことも含まれている。その豆腐職人の一番弟子をしていたのが、この芙蓉だ。人里離れた山奥で毎日豆腐を作り続けていた彼女は、久々知がひと口食べて感動のあまりむせび泣いたとまで噂されるほど、それはもうおいしい豆腐を作る。竹谷も食べたこともあるが、こだわり抜いて作られた久々知の豆腐よりもおいしいと感じるものであった。その彼女の腕に、久々知が惚れこむのは当然と言えよう。問題は、
「だって芙蓉ちゃんは、豆腐嫌いじゃないか!」
――本人が、豆腐嫌いであるということだ。
芙蓉は山で拾われた。過去は語らないのでどういう経緯なのかは知らないが、野生動物同然に生きていた少女を見つけたのが豆腐職人であったのだ。覚えがよかったので作る技術には何の問題はないが、芙蓉曰く「豆腐には味がない」。その発言について久々知と大喧嘩したことは、未だにキリンタケ城内では語り継がれている。
「兵助お前な、豆腐を愛せない芙蓉ちゃんを愛せるとでも言うのか!?」
「それはいずれどうにでもなる」
「うおおおお下種かお前!」
「うるさいな。本人が了承したんだからいいだろう」
「ほんとかよ、芙蓉ちゃんもそれでいいのか?こいつの主食、豆腐だぞ!?」
竹谷の問いに芙蓉は答えない。都合が悪くなると無視を決め込む辺りが久々知と似ていて複雑な気持ちになる。
「あのな竹谷、一応事情はある」
「事情?」
「おやっさんが忍者隊を引退することになった。もう最近は足腰が悪いってんで、忍務にも出ていなかったんだ」
「ああ、もう年だもんな」
「それと同時に、もう山へ登るのも辛いからと城下で豆腐屋をやることになった。芙蓉もおやっさんの世話をするために降りてくる」
「ああ」
「しかしおやっさんが城下にいるとなると、俺は目立てないいから店に頻繁に行くことができない」
「……ああ」
竹谷は聞きながら顔をしかめる。嫌な予感しかしないのだ。
「しかしそこで妻が働いているとなれば通っても何の不自然さもなく」
「アホかお前はッ」
「いて」
頭を叩いてやるが久々知はけろっとして、芙蓉がいいって言ったんだ、などという。竹谷は芙蓉に疑いの目を向けた。
「芙蓉ちゃん、ほんとにいいのか」
芙蓉は黙って頷いた。竹谷は肩を落とし、大きく息を吐く。
「いや、まあ、芙蓉ちゃんがいいって言うならいいんだけどさ……」
「私、兵助好きよ」
芙蓉が久々知を見上げた。相変わらずの無表情のまま、小さく口を開けてか細い声を紡ぎ出す。声は見た目とは裏腹に低めだ。
「兵助は私を気味が悪いとは言わないもの」
久々知は芙蓉を見なかったが、その耳がじわりと赤くなるのを見て竹谷はようやく落ち着いた。――要するに、こいつはいつまで経っても不器用なのだ。正しくそのまま伝えればいいことを素直に言えない、面倒なやつだとわかっていたはずなのに。
大騒ぎしていた自分が恥ずかしくなり、竹谷は芙蓉に頭を下げる。
「こんなアホでもおれの大事な親友だ。間違ったことは絶対しない。こいつが芙蓉ちゃんを幸せにするとおれが保証するから、こいつをよろしく頼む」
「……はい」
「ああもうやめろ!お前はおれの保護者か!」
「真っ赤」
「帰れ!」
久々知に掴みかかられ、竹谷は笑いながらなだめた。からかうつもりはないが、普段冷静な久々知の動揺が面白くて仕方ない。
「まあ待て、折角来てやったんだから土産に豆腐でも寄越せ」
「勝手に来たくせに偉そうに!」
それでも久々知は立ち上がり、どすどすと足音を立てて部屋を出る。竹谷が笑って芙蓉を見たが、彼女はやはり表情を変えてはいなかった。しかし久々知が座っていた場所を見つめている。
「芙蓉ちゃんは幸せ者になるぜ」
彼女は黙って頷いた。竹谷は挨拶をし、久々知を追いかける。台所へ向かう久々知へはすぐに追いついた。
「おい、いつから好きだったんだよ」
「うるさい、黙れ」
「水くせぇな、いきなり相談もせず結婚しますなんてよ」
「だからハチハチには言いたくなかったんだ」
「三郎と一緒にすんなよ。まぁ確かに、愛想はねえが芙蓉ちゃんかわいいもんな」
「笑うよ」
「ん?」
「ちゃんと笑う」
「……へえ」
「にやにやすんな!」
「するだろ〜。兵助ののろけが聞けるとはな〜」
「ああっ、もう!」
足を止めた久々知は正面から竹谷を見る。真面目なまなざしに、竹谷も黙って視線を返した。
「おれはちゃんと芙蓉を幸せにする。誰に何と言われたって、芙蓉は誰よりも大切なおれの妻だ。……満足か」
「……ま、みんな大人になるってことだよな」
「竹谷は」
「おれァ真面目にコツコツ城勤めよ。おれが守ると決めたものはただひとつだ」
「……ばかなのは竹谷も一緒だろ」
「ま、今度酒でもやろうぜ」
「飲まないくせに。――朝作った豆腐がある。持って帰れ」
「そうするよ。城ほったらかしてきたから、孫兵に怒られちまう」
久々知は顔をしかめたが、竹谷はそれを笑い飛ばした。
「キリンタケです。しのぶ様のご実家ですから大丈夫かと……何か問題でも?」
竹谷が顔を引きつらせているのを見て、部下は緊張した様子を見せた。その様子に苦笑しながら、何でもない、と言ってやる。荷は確かにキリンタケから来たもので間違いない。問題は、その荷を縛っていたひもである。布を裂いたそのままのものだ。竹谷はその端を見て頭をかく。
「どうされました?」
「うーん」
部下が竹谷の手元を覗きこむと、布の端にははっきりと「豆腐」と書かれていた。部下は首を傾げる。
「豆腐……?……これは密書ですか?」
「あー、うん……何と言うか……」
「どうしたんです」
通りかかった孫兵が竹谷の手元を見て、合点がいったように頷いて離れていく。すぐに木片を持って戻ってきて、それを竹谷に渡して仕事に戻って行った。新しい種や生物たちの餌も仕入れたので、孫兵は忙しい。
「それは何ですか?」
「……豆腐の黄金比があるらしい」
「は?」
「冷や奴は必ずこの大きさ、比率でなければならんらしい。そしてそれを覚えているおれもアホだが、その黄金比が一般的だと思っているアホがキリンタケにいる」
「ああ、噂のご友人ですか。豆腐好きの……」
「ありゃそのうち豆腐と結婚するぜ。ったく、何なんだわざわざ」
竹谷は豆腐サイズの木片に布を巻きつけていく。一寸角に巻きつけるものとは違い、非常に読みにくいからやめろと何度も言っているのだが、彼は一向に相手にしない。布を巻き終えた木片をくるくる回しながら文章を読み、竹谷はぽかんと口を開ける。
「は……?」
「久々知先輩今度はどうなさったんですか?」
切りがついたのか、孫兵が竹谷の元へ戻ってくる。しかし竹谷は反応せず、何度も繰り返し手元を見ていた。
「え?え?何?あいつばかなの?」
「竹谷先輩?」
「……兵助、結婚するって……」
「へえ、おめでたいですね。どなたと?」
「ちょっとキリンタケ行ってくる!」
「……行ってらっしゃい」
飛び出していく竹谷に、孫兵は呆れて溜息をついた。止める間もなく姿を消した竹谷に部下はおろおろと孫兵を見る。
「頭はどうしちゃったんですか?」
「いつもの世話焼きですよ。別に落ち着いてるからいいんですけどね、城を守る要がぽんと軽々しく城を出てしまうのはどうかと思いますよ」
「ま、別にいいんじゃない。暇だし」
孫兵に応えたのはしのぶだった。実質的に城を動かしている、キリンタケ城主の妻である。面白い荷はないかと見に来たのだろう。
「久々知くんが結婚ねー。ハチ公にもいい人はいないのかしら」
「いると思いますか?」
「私よりいい女がいたら有り得るかもね」
しのぶは荷を見渡し、特に興味を引かれるものがなかったのか、そのまま戻って行く。孫兵は部下と顔を見合わせ、呆れた顔で首を振った。部下は意味がわからないのか、首を傾げている。
「人間というのはほんとにしょうもない生き物だね。――ねえ、じゅんこ?」
足元に這ってきた蛇に手を伸ばし、孫兵はすくい上げて肩に誘う。冷たい肌を撫で、満足げに笑った。
*
「結婚するってどういうことだよ!」
「それは私らも散々言ったんですけどねー」
竹谷は後ろでお茶をすすっているキリンタケ忍者を睨みつけた。彼らは竹谷の睨みなど気にせずに、今度の休みどうする?などと世間話をしながらも、ゆっくり立ち上がって部屋から逃げていく。竹谷は再び久々知に向き直った。
「だから文にも書いただろう。おれは芙蓉と結婚する」
昔から変わらない涼しい目元をきりっとさせ、久々知ははっきり言い切った。竹谷は唖然として久々知を見る。なあ、と久々知は隣を見た。そこに座るのは、少女と見紛うような小柄な女性だ。彼女は無言でこくりと頷く。似たもの夫婦、なんて言葉が頭をよぎり、竹谷は慌てて首を振る。
共に学んだ忍術学園を卒業したのち、久々知兵助はキリンタケ城に就職した。キリンタケを選んだ理由のひとつに、キリンタケ忍者の中に優秀な豆腐職人がいたことも含まれている。その豆腐職人の一番弟子をしていたのが、この芙蓉だ。人里離れた山奥で毎日豆腐を作り続けていた彼女は、久々知がひと口食べて感動のあまりむせび泣いたとまで噂されるほど、それはもうおいしい豆腐を作る。竹谷も食べたこともあるが、こだわり抜いて作られた久々知の豆腐よりもおいしいと感じるものであった。その彼女の腕に、久々知が惚れこむのは当然と言えよう。問題は、
「だって芙蓉ちゃんは、豆腐嫌いじゃないか!」
――本人が、豆腐嫌いであるということだ。
芙蓉は山で拾われた。過去は語らないのでどういう経緯なのかは知らないが、野生動物同然に生きていた少女を見つけたのが豆腐職人であったのだ。覚えがよかったので作る技術には何の問題はないが、芙蓉曰く「豆腐には味がない」。その発言について久々知と大喧嘩したことは、未だにキリンタケ城内では語り継がれている。
「兵助お前な、豆腐を愛せない芙蓉ちゃんを愛せるとでも言うのか!?」
「それはいずれどうにでもなる」
「うおおおお下種かお前!」
「うるさいな。本人が了承したんだからいいだろう」
「ほんとかよ、芙蓉ちゃんもそれでいいのか?こいつの主食、豆腐だぞ!?」
竹谷の問いに芙蓉は答えない。都合が悪くなると無視を決め込む辺りが久々知と似ていて複雑な気持ちになる。
「あのな竹谷、一応事情はある」
「事情?」
「おやっさんが忍者隊を引退することになった。もう最近は足腰が悪いってんで、忍務にも出ていなかったんだ」
「ああ、もう年だもんな」
「それと同時に、もう山へ登るのも辛いからと城下で豆腐屋をやることになった。芙蓉もおやっさんの世話をするために降りてくる」
「ああ」
「しかしおやっさんが城下にいるとなると、俺は目立てないいから店に頻繁に行くことができない」
「……ああ」
竹谷は聞きながら顔をしかめる。嫌な予感しかしないのだ。
「しかしそこで妻が働いているとなれば通っても何の不自然さもなく」
「アホかお前はッ」
「いて」
頭を叩いてやるが久々知はけろっとして、芙蓉がいいって言ったんだ、などという。竹谷は芙蓉に疑いの目を向けた。
「芙蓉ちゃん、ほんとにいいのか」
芙蓉は黙って頷いた。竹谷は肩を落とし、大きく息を吐く。
「いや、まあ、芙蓉ちゃんがいいって言うならいいんだけどさ……」
「私、兵助好きよ」
芙蓉が久々知を見上げた。相変わらずの無表情のまま、小さく口を開けてか細い声を紡ぎ出す。声は見た目とは裏腹に低めだ。
「兵助は私を気味が悪いとは言わないもの」
久々知は芙蓉を見なかったが、その耳がじわりと赤くなるのを見て竹谷はようやく落ち着いた。――要するに、こいつはいつまで経っても不器用なのだ。正しくそのまま伝えればいいことを素直に言えない、面倒なやつだとわかっていたはずなのに。
大騒ぎしていた自分が恥ずかしくなり、竹谷は芙蓉に頭を下げる。
「こんなアホでもおれの大事な親友だ。間違ったことは絶対しない。こいつが芙蓉ちゃんを幸せにするとおれが保証するから、こいつをよろしく頼む」
「……はい」
「ああもうやめろ!お前はおれの保護者か!」
「真っ赤」
「帰れ!」
久々知に掴みかかられ、竹谷は笑いながらなだめた。からかうつもりはないが、普段冷静な久々知の動揺が面白くて仕方ない。
「まあ待て、折角来てやったんだから土産に豆腐でも寄越せ」
「勝手に来たくせに偉そうに!」
それでも久々知は立ち上がり、どすどすと足音を立てて部屋を出る。竹谷が笑って芙蓉を見たが、彼女はやはり表情を変えてはいなかった。しかし久々知が座っていた場所を見つめている。
「芙蓉ちゃんは幸せ者になるぜ」
彼女は黙って頷いた。竹谷は挨拶をし、久々知を追いかける。台所へ向かう久々知へはすぐに追いついた。
「おい、いつから好きだったんだよ」
「うるさい、黙れ」
「水くせぇな、いきなり相談もせず結婚しますなんてよ」
「だからハチハチには言いたくなかったんだ」
「三郎と一緒にすんなよ。まぁ確かに、愛想はねえが芙蓉ちゃんかわいいもんな」
「笑うよ」
「ん?」
「ちゃんと笑う」
「……へえ」
「にやにやすんな!」
「するだろ〜。兵助ののろけが聞けるとはな〜」
「ああっ、もう!」
足を止めた久々知は正面から竹谷を見る。真面目なまなざしに、竹谷も黙って視線を返した。
「おれはちゃんと芙蓉を幸せにする。誰に何と言われたって、芙蓉は誰よりも大切なおれの妻だ。……満足か」
「……ま、みんな大人になるってことだよな」
「竹谷は」
「おれァ真面目にコツコツ城勤めよ。おれが守ると決めたものはただひとつだ」
「……ばかなのは竹谷も一緒だろ」
「ま、今度酒でもやろうぜ」
「飲まないくせに。――朝作った豆腐がある。持って帰れ」
「そうするよ。城ほったらかしてきたから、孫兵に怒られちまう」
久々知は顔をしかめたが、竹谷はそれを笑い飛ばした。
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