言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2012'04.09.Mon
「孫兵?」
「……作兵衛」
富松が委員会から戻ると、部屋の前に孫兵がいた。何やら両手に抱えるほどの包みを抱えて、眉を寄せている。
「どうしたんだよ、困った顔して」
「さっき、実習に行かれてた竹谷先輩が帰ってきたんだ。それで、おみやげにお饅頭くれたんだけど」
「……それ、全部か?」
「うん……」
「……多くねえ?」
「……うん、そうなんだ。それで、よかったら一緒にと思ったんだけど」
「あー、丁度腹減ってんだ。入れよ」
からりと富松は戸を開けて、絶句した。孫兵も後ろから中を覗いて、同様に言葉を失う。――嵐でも、きたのだろうか。着物も本も一緒くたに散らばった部屋は足の踏み場もない。表情から察するに、富松が知る限りこうもひどい惨状ではなかったようだが、孫兵はかける言葉もなく背を叩く。
「手伝うから、先に饅頭片づけるの手伝ってくれないか?」
「ああ……」
富松は溜息をついて肩を落とす。ふたりで外を向いて部屋の前に座り、孫兵は包みを開いた。
「竹谷先輩も、なんだってこんな大量に」
「一年生にも分けるつもりだったらしいんだ。でもほら、今一年生もいないだろ」
「ああ、そうか。あいつらもオリエンテーリングでいないんだよな」
「そう。これ、竹谷先輩が実習中に作ったんだって」
「それどんな実習なんだ?」
「忍者だとばれずに潜り込めるか、ってことみたい。途中で先生たちが邪魔しにくるらしいよ」
「うへぇ。おれそういうの苦手だな」
「ぼくも」
饅頭を取り、富松はいただきますと口にした。言われてみれば不格好な気もするが、味には関係ない。かぶりついた饅頭は柔らかく、餡の甘味が口の中に広がる。満足げに頬を緩める富松を見て、孫兵も饅頭を口にした。
「うまい」
「竹谷先輩器用だから」
「先輩たちってなんでもできちまうよな」
「……」
「どうした?」
「うん……」
孫兵は言葉を濁し、饅頭をゆっくり咀嚼する。富松はそれを見ていたが、何も言わずに饅頭を食べた。
「……五年生って、実習が増えるだろ」
「ああ、そうだな」
「実習に行かれてる間、委員会が大変でさ……一年生ってどうしてあんなに落ち着きがないんだろう」
「……お前、何言ってんだ?」
「は?」
「生物んとこの一年なんてまだ大人しい方だろうが!用具の一年なんかもっとめんどくせぇぞ!」
思わず声を荒げた富松に、孫兵は目を丸くした。饅頭を握りつぶさんばかりの勢いで、富松は孫兵を睨みつける。
「なんっかい注意しても喜三太は委員会にペットのナメクジをつれてくるし、しんべヱはすぐに腹を空かせて動かなくなるし、平太はちょっとしたことで泣き言言うし!」
「何だよそれぐらい!三治郎はすぐからくりを思いついて作業を投げちゃうし、虎若はどんなに教えても掃除が下手だし、一平は勉強があるからって出てこないし孫次郎は怖がって生物に触れないし!」
「なんだよそれ。生物委員は頼りねえな」
「なんだって?三治郎は器用だから虫も逃がさないし、虎若も鍛えてるから集中力がすごい。一平は冷静になれば力を発揮するし、孫次郎だって確実に力をつけてるんだからな!用具と一緒にするなよ」
「なんだと?しんべヱだって力仕事は誰より得意だし、喜三太は言われた仕事はきちんとするし、平太だって自分に非があれば認めるいい子だ!」
思わず拳をかためたふたりは、次の瞬間聞こえた笑い声にどきりと身をすくませた。いかにも楽しげにこちらへやってくるのは食満と竹谷で、ふたりはごくりと唾を飲む。
「竹谷、どうだ、うちの次期委員長は。しっかりしてるだろう」
「ははっ、負けないようにがんばります」
「けっ、食満委員長ッ!なっ、何かご用ですか!?」
「明日のことで話があってな。急に実習の予定が早まって、今夜出ることになった。悪いが明日からまた委員会頼むぞ。まぁ、お前は後輩たちをよく見ているようだから、心配ないがな」
「もう、からかわねぇで下さい!委員会の仕事はちゃんとやります!」
孫兵は真っ赤になった富松の姿に思わず笑いをこぼした。しかし竹谷につつかれて振り返る。
「笑ってる場合じゃねえぞ。あいつは来年、委員長代理なんだからな」
「え」
「あっと言う間に、追いつけなくなっちまうぞ」
「……そうなんですか?」
「兵助が四年から代理やってた。どう差がついたかはご覧の通り。ま、富松次第でもあるけどな」
「……負けません」
「頼りになる後輩だ」
からから笑う竹谷になんとなく恥ずかしくなり、孫兵は顔を伏せた。つまらない言い合いを聞かれたことも恥ずかしいが、柄にもなく競争心を見せてしまったこともどこかいたたまれない。竹谷が嬉しそうなのが更に羞恥を誘う。
「安心して卒業できるように、頑張ってくれよ」
「……言われなくとも」
「……作兵衛」
富松が委員会から戻ると、部屋の前に孫兵がいた。何やら両手に抱えるほどの包みを抱えて、眉を寄せている。
「どうしたんだよ、困った顔して」
「さっき、実習に行かれてた竹谷先輩が帰ってきたんだ。それで、おみやげにお饅頭くれたんだけど」
「……それ、全部か?」
「うん……」
「……多くねえ?」
「……うん、そうなんだ。それで、よかったら一緒にと思ったんだけど」
「あー、丁度腹減ってんだ。入れよ」
からりと富松は戸を開けて、絶句した。孫兵も後ろから中を覗いて、同様に言葉を失う。――嵐でも、きたのだろうか。着物も本も一緒くたに散らばった部屋は足の踏み場もない。表情から察するに、富松が知る限りこうもひどい惨状ではなかったようだが、孫兵はかける言葉もなく背を叩く。
「手伝うから、先に饅頭片づけるの手伝ってくれないか?」
「ああ……」
富松は溜息をついて肩を落とす。ふたりで外を向いて部屋の前に座り、孫兵は包みを開いた。
「竹谷先輩も、なんだってこんな大量に」
「一年生にも分けるつもりだったらしいんだ。でもほら、今一年生もいないだろ」
「ああ、そうか。あいつらもオリエンテーリングでいないんだよな」
「そう。これ、竹谷先輩が実習中に作ったんだって」
「それどんな実習なんだ?」
「忍者だとばれずに潜り込めるか、ってことみたい。途中で先生たちが邪魔しにくるらしいよ」
「うへぇ。おれそういうの苦手だな」
「ぼくも」
饅頭を取り、富松はいただきますと口にした。言われてみれば不格好な気もするが、味には関係ない。かぶりついた饅頭は柔らかく、餡の甘味が口の中に広がる。満足げに頬を緩める富松を見て、孫兵も饅頭を口にした。
「うまい」
「竹谷先輩器用だから」
「先輩たちってなんでもできちまうよな」
「……」
「どうした?」
「うん……」
孫兵は言葉を濁し、饅頭をゆっくり咀嚼する。富松はそれを見ていたが、何も言わずに饅頭を食べた。
「……五年生って、実習が増えるだろ」
「ああ、そうだな」
「実習に行かれてる間、委員会が大変でさ……一年生ってどうしてあんなに落ち着きがないんだろう」
「……お前、何言ってんだ?」
「は?」
「生物んとこの一年なんてまだ大人しい方だろうが!用具の一年なんかもっとめんどくせぇぞ!」
思わず声を荒げた富松に、孫兵は目を丸くした。饅頭を握りつぶさんばかりの勢いで、富松は孫兵を睨みつける。
「なんっかい注意しても喜三太は委員会にペットのナメクジをつれてくるし、しんべヱはすぐに腹を空かせて動かなくなるし、平太はちょっとしたことで泣き言言うし!」
「何だよそれぐらい!三治郎はすぐからくりを思いついて作業を投げちゃうし、虎若はどんなに教えても掃除が下手だし、一平は勉強があるからって出てこないし孫次郎は怖がって生物に触れないし!」
「なんだよそれ。生物委員は頼りねえな」
「なんだって?三治郎は器用だから虫も逃がさないし、虎若も鍛えてるから集中力がすごい。一平は冷静になれば力を発揮するし、孫次郎だって確実に力をつけてるんだからな!用具と一緒にするなよ」
「なんだと?しんべヱだって力仕事は誰より得意だし、喜三太は言われた仕事はきちんとするし、平太だって自分に非があれば認めるいい子だ!」
思わず拳をかためたふたりは、次の瞬間聞こえた笑い声にどきりと身をすくませた。いかにも楽しげにこちらへやってくるのは食満と竹谷で、ふたりはごくりと唾を飲む。
「竹谷、どうだ、うちの次期委員長は。しっかりしてるだろう」
「ははっ、負けないようにがんばります」
「けっ、食満委員長ッ!なっ、何かご用ですか!?」
「明日のことで話があってな。急に実習の予定が早まって、今夜出ることになった。悪いが明日からまた委員会頼むぞ。まぁ、お前は後輩たちをよく見ているようだから、心配ないがな」
「もう、からかわねぇで下さい!委員会の仕事はちゃんとやります!」
孫兵は真っ赤になった富松の姿に思わず笑いをこぼした。しかし竹谷につつかれて振り返る。
「笑ってる場合じゃねえぞ。あいつは来年、委員長代理なんだからな」
「え」
「あっと言う間に、追いつけなくなっちまうぞ」
「……そうなんですか?」
「兵助が四年から代理やってた。どう差がついたかはご覧の通り。ま、富松次第でもあるけどな」
「……負けません」
「頼りになる後輩だ」
からから笑う竹谷になんとなく恥ずかしくなり、孫兵は顔を伏せた。つまらない言い合いを聞かれたことも恥ずかしいが、柄にもなく競争心を見せてしまったこともどこかいたたまれない。竹谷が嬉しそうなのが更に羞恥を誘う。
「安心して卒業できるように、頑張ってくれよ」
「……言われなくとも」
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