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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.19.Sun
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2012'04.09.Mon
「卒業の日まで」

彼の声は震えもせず、澄み渡るようだった。春の嵐も過ぎ去った後の青空のように、静かで、青い。

「その日まで、お側にいさせて下さい」

ああ、お前は嫌になるほど忍びだな。そう思ったことを、覚えている。



それを言うと、伊助は何ですかそれ、と三郎次を笑い飛ばした。

「ぼくはただの染め物屋です。ねぇ、さと?」

伊助は膝に乗せた娘に額を寄せる。まだ首も据わらない幼子は楽しげに笑い声をあげた。父親そっくりの鼻をしている。幸せそうに笑う父子に、三郎次もつられて頬を緩めた。

「嫁さんは?」

「買い物に。もう帰ってくるでしょうから、上がって下さい」

「茶ぐらい出せよ」

「言われなくてもそれぐらいしますぅ」

機嫌のいい娘を寝かせ、伊助は三郎次と入れ替わるように立ち上がった。部屋へ上がった三郎次は赤子のそばへ座り、指先で柔らかい頬をつつく。独り身の三郎次にはとんと無縁の存在だ。愛想良く笑うところは、きっと母親に似たのだろう。

「ただいまー!」

「母ちゃんお帰り、三郎次先輩が来てるよ」

「あらっ、こんにちは!いらっしゃい」

「ご無沙汰してます」

「お元気?まあ汚いところですけど、ゆっくりしていって下さいね。父ちゃん、お茶ぐらい出しなさいよ!」

「今持っていくよ!」

夫婦の掛け合いを笑った。幸せそうな姿を見るたびに安心する。これでよかったのだ、と心から思える。――待っている、と、言わなくてよかった。お茶を持ってやってきた伊助を振り返る。

「どうぞ」

「ああ。抱いてもいいか」

「ええ」

赤子を抱き上げる。以前に来たときはまだ母親の腹の中にいた。さと、先ほど教えてもらった名を呼べば、わかっているのかいないのか、赤子はきょとんとして三郎次を見上げていた。手の中に確かにあるこの命。三郎次が伊助を手放さなければ、この子は生まれなかったのだ。そんなことを考えて己を笑う。まるで、悔やんでいるようではないか。

「人懐っこいんです」

「そりゃいいことだ。いい商人になる」

「気が早いなぁ」

「三郎次さん、ご飯食べて行って下さいね!」

「お言葉に甘えて」

「遠慮しないなぁ」

「父ちゃんはほんっと、素直じゃないんだから。三郎次さんが来たらいつだって機嫌よくなっちゃうくせに」

「誰が!」

けらけら笑い合う夫婦はいつも通りだ。昨日まで戦場を駆けていた自分とは違う世界を生きている。ここへ来るのは、自分が守りたいものを確認するためかもしれない。

「次に来たときにゃ、さとも大きくなってるだろうなぁ」

「毎日大きくなりますよ」

「そうか。いい女になれよ」

「……あげませんよ」

「ははっ!親馬鹿め」
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