言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2012'03.26.Mon
※オリジナル設定の天狗が出てきます。
狼を率いていた竹谷が足を止めた。孫兵はそれに気づいて振り返る。彼は空を仰ぎ、そして学園へ向かう後輩たちを見渡した。
「孫兵、先に帰ってろ。一年生を頼む」
「……わかりました」
「竹谷先輩?」
「わりー、落し物してきた!お前らは孫兵と先に帰ってな」
振り返った一平の頭を撫で、竹谷はからっと笑った。さわやかな笑みはいつも通りで、何の疑問も抱かせない。
一年生の背を押して、孫兵は歩き出す。生物委員が管理している狼の群は竹谷のそばに残っていた。
――何か、の気配があるのだろう。孫兵にはわからなかったが、あの竹谷の様子を見る限りでは間違いない。その正体がわからない限りどうしようもないが、早めに学園に帰って誰かに助けを求めた方がいいのだろうか。竹谷は何も言わなかったが、それをどう判断したらいいのだろう。
「竹谷先輩何落としたんだろうねー」
「手裏剣とか?」
「えー、持ってるかなぁ」
「は組じゃないんだから、手裏剣ぐらい持ってるはずだよ」
「そうかなー」
三治郎と一平ののん気な会話に思わず頬を緩めた。何事もなく終わればいいのだが。
一陣の風が一同を舐めていった。勢いのある風に目をつぶる。冷たくはないが切れそうな鋭さを感じるそれは、いつも感じる風とは少し違った。不安になって一年生を確認する。と。
「……え?」
「三治郎?」
今しがた目の前にいたはずの、三治郎の姿がない。
一平がぽかんと隣を見て、前を歩いていた虎若と孫次郎も振り返って首を傾げる。そこには三治郎の荷物だけが残されていた。
「うわーっ!」
「三治郎!」
三治郎の悲鳴が頭上から届く。顔を上げれば、――巨大な鳥が、三治郎を捕まえていた。否、あれは鳥ではなく……
「なんだありゃ」
追いついた竹谷も、ぽかんと口を開けて立ち尽くした。
「一方、こちらは空の上でーす……」
「誰に話している」
「ちょっと、下ろしてよー!みんなびっくりしてるじゃん!」
「やかましいのう……」
三治郎は自分を抱き上げているものを見上げた。馴染み深い山伏の姿、身に染みついた山の匂い。しかし何よりも目立つのは赤い肌、そして天を向いた高い鼻。――天狗、と呼ばれるものだ。
三治郎の父親は山伏として全国で修業をしている。山へこもることが多く、三治郎も学園が休みのときは一緒に修行をしていた。その中で、父から教わることがいくつもある。修行だけに限らず、野山のこと、季節のこと、山の決まり、――そして、彼らの存在。
「鼎!」
「お前がその名を気安く呼ぶな。姫がお呼びだ」
「え?ちょっと待ってよ、鼎、ぼくに用があるんじゃないの!?」
「お前にだ、夢前行者」
「……鼎、それ、父上」
「……お前、三治郎か」
「もー!何べん間違えたら気が済むんだよー!」
「お前らは似ててわからん」
「サイズが違うでしょ、サイズが!とにかく下ろしてよ!」
天狗の腕の中で暴れると、彼は溜息をついた。溜息をつきたいのはこっちである。流れる時間の感覚が違う彼らにとって、人間は大人も子どもも大差がないらしい。彼が探していたのは、三治郎ではなく父親であるようだ。
元の場所へ戻すという気遣いもないのか、天狗はそのまま下降する。知っている裏山だからいいものの、全く別の場所でこんなことをされたら必死で抗議するところだ。
「それで、今度はお姫様はどんなわがままを言ってるの?」
「わがままではない!」
「忠誠心が厚いのはいいことだと思うけど、鼎はちょっとお姫様を甘やかしすぎだよ」
「その名を呼ぶな。姫にいただいた名だ、お前が気安く呼んでいいものではない」
「はいはい。で、天狗様、ぼくにわかることならお答えしますよ」
鼎が姫、と呼ぶ弧がいる。三治郎が知る限りでは山を仕切っているだけで、人にいたずらなどもしていない狐で害はないが、時折見知った山伏を捕まえては無理難題を押し付けることがある。この間の長期休暇の間は父親と一緒に捕まり、空を飛ぶ金魚が見たいのだと熱望された。逃げるコツは飲みこまれないことである。狐は不可能だと知っていて、暇つぶしに要求するだけなのだ。
「今回は急ぐ」
「どうしたの?」
「どこかから狼が流れてきた。こいつが図太くて、どうも出ていきそうにない」
「……鼎、ほんとに父上と間違えたの?」
その話なら恐らく三治郎の方が得意分野だ。尤も、先輩の助けを得られるなら、の話だが。
「やつらが来てから姫の体調が優れん」
「機嫌じゃなくて?」
「海へ放ってやろうか」
「もう!短気だなぁ!」
茶化すように口では言うが、それどころではないことは三治郎にもわかっている。
狐が山を取り仕切るようになったのは今に始まったことではなく、もう何代も前からのことであった。もはや山とどうかしていると言ってもいい。その狐の体調や機嫌で、山の様子が変わってくるのだ。不調が続けばそれはすなわち山の異変へとつながる。
「助けてくれそうな人、ひとり知ってる」
「……近づいてきているやつか?」
「来てる?」
「ああ、ひとりだ」
「多分その人」
「……また来る」
「間違えて父上のところに行かないようにね!」
背中の羽を大きく広げ、しかし天狗は音もなく飛び立った。竹谷の驚いた声が聞こえて振り返る。少し行った先で、竹谷が口を大きく開けて空を舞うように飛び去った天狗を見上げていた。
「竹谷先輩!」
「あっ三治郎!無事か!?」
「はーい!大丈夫です!」
「何だったんだぁ?」
「えーっとぉ……竹谷先輩、天狗はお嫌いですか?」
一体どう話したものか。三治郎の笑顔に戸惑う竹谷を見て、笑いだしたいのを押さえこむ。
狼を率いていた竹谷が足を止めた。孫兵はそれに気づいて振り返る。彼は空を仰ぎ、そして学園へ向かう後輩たちを見渡した。
「孫兵、先に帰ってろ。一年生を頼む」
「……わかりました」
「竹谷先輩?」
「わりー、落し物してきた!お前らは孫兵と先に帰ってな」
振り返った一平の頭を撫で、竹谷はからっと笑った。さわやかな笑みはいつも通りで、何の疑問も抱かせない。
一年生の背を押して、孫兵は歩き出す。生物委員が管理している狼の群は竹谷のそばに残っていた。
――何か、の気配があるのだろう。孫兵にはわからなかったが、あの竹谷の様子を見る限りでは間違いない。その正体がわからない限りどうしようもないが、早めに学園に帰って誰かに助けを求めた方がいいのだろうか。竹谷は何も言わなかったが、それをどう判断したらいいのだろう。
「竹谷先輩何落としたんだろうねー」
「手裏剣とか?」
「えー、持ってるかなぁ」
「は組じゃないんだから、手裏剣ぐらい持ってるはずだよ」
「そうかなー」
三治郎と一平ののん気な会話に思わず頬を緩めた。何事もなく終わればいいのだが。
一陣の風が一同を舐めていった。勢いのある風に目をつぶる。冷たくはないが切れそうな鋭さを感じるそれは、いつも感じる風とは少し違った。不安になって一年生を確認する。と。
「……え?」
「三治郎?」
今しがた目の前にいたはずの、三治郎の姿がない。
一平がぽかんと隣を見て、前を歩いていた虎若と孫次郎も振り返って首を傾げる。そこには三治郎の荷物だけが残されていた。
「うわーっ!」
「三治郎!」
三治郎の悲鳴が頭上から届く。顔を上げれば、――巨大な鳥が、三治郎を捕まえていた。否、あれは鳥ではなく……
「なんだありゃ」
追いついた竹谷も、ぽかんと口を開けて立ち尽くした。
「一方、こちらは空の上でーす……」
「誰に話している」
「ちょっと、下ろしてよー!みんなびっくりしてるじゃん!」
「やかましいのう……」
三治郎は自分を抱き上げているものを見上げた。馴染み深い山伏の姿、身に染みついた山の匂い。しかし何よりも目立つのは赤い肌、そして天を向いた高い鼻。――天狗、と呼ばれるものだ。
三治郎の父親は山伏として全国で修業をしている。山へこもることが多く、三治郎も学園が休みのときは一緒に修行をしていた。その中で、父から教わることがいくつもある。修行だけに限らず、野山のこと、季節のこと、山の決まり、――そして、彼らの存在。
「鼎!」
「お前がその名を気安く呼ぶな。姫がお呼びだ」
「え?ちょっと待ってよ、鼎、ぼくに用があるんじゃないの!?」
「お前にだ、夢前行者」
「……鼎、それ、父上」
「……お前、三治郎か」
「もー!何べん間違えたら気が済むんだよー!」
「お前らは似ててわからん」
「サイズが違うでしょ、サイズが!とにかく下ろしてよ!」
天狗の腕の中で暴れると、彼は溜息をついた。溜息をつきたいのはこっちである。流れる時間の感覚が違う彼らにとって、人間は大人も子どもも大差がないらしい。彼が探していたのは、三治郎ではなく父親であるようだ。
元の場所へ戻すという気遣いもないのか、天狗はそのまま下降する。知っている裏山だからいいものの、全く別の場所でこんなことをされたら必死で抗議するところだ。
「それで、今度はお姫様はどんなわがままを言ってるの?」
「わがままではない!」
「忠誠心が厚いのはいいことだと思うけど、鼎はちょっとお姫様を甘やかしすぎだよ」
「その名を呼ぶな。姫にいただいた名だ、お前が気安く呼んでいいものではない」
「はいはい。で、天狗様、ぼくにわかることならお答えしますよ」
鼎が姫、と呼ぶ弧がいる。三治郎が知る限りでは山を仕切っているだけで、人にいたずらなどもしていない狐で害はないが、時折見知った山伏を捕まえては無理難題を押し付けることがある。この間の長期休暇の間は父親と一緒に捕まり、空を飛ぶ金魚が見たいのだと熱望された。逃げるコツは飲みこまれないことである。狐は不可能だと知っていて、暇つぶしに要求するだけなのだ。
「今回は急ぐ」
「どうしたの?」
「どこかから狼が流れてきた。こいつが図太くて、どうも出ていきそうにない」
「……鼎、ほんとに父上と間違えたの?」
その話なら恐らく三治郎の方が得意分野だ。尤も、先輩の助けを得られるなら、の話だが。
「やつらが来てから姫の体調が優れん」
「機嫌じゃなくて?」
「海へ放ってやろうか」
「もう!短気だなぁ!」
茶化すように口では言うが、それどころではないことは三治郎にもわかっている。
狐が山を取り仕切るようになったのは今に始まったことではなく、もう何代も前からのことであった。もはや山とどうかしていると言ってもいい。その狐の体調や機嫌で、山の様子が変わってくるのだ。不調が続けばそれはすなわち山の異変へとつながる。
「助けてくれそうな人、ひとり知ってる」
「……近づいてきているやつか?」
「来てる?」
「ああ、ひとりだ」
「多分その人」
「……また来る」
「間違えて父上のところに行かないようにね!」
背中の羽を大きく広げ、しかし天狗は音もなく飛び立った。竹谷の驚いた声が聞こえて振り返る。少し行った先で、竹谷が口を大きく開けて空を舞うように飛び去った天狗を見上げていた。
「竹谷先輩!」
「あっ三治郎!無事か!?」
「はーい!大丈夫です!」
「何だったんだぁ?」
「えーっとぉ……竹谷先輩、天狗はお嫌いですか?」
一体どう話したものか。三治郎の笑顔に戸惑う竹谷を見て、笑いだしたいのを押さえこむ。
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