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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.19.Sun
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2013'12.27.Fri
悪趣味なことだ。

高坂のような無頓着な男でさえそうとわかる高級な調度品に囲まれた部屋は、きっとそれ専用の檻なのだ。甘い花の香りが漂い、レースやフリルの繊細なもので飾られたここは、場所が違うだけで動物園と同じなのだろう。見せ物は可憐な少女たち。ここは貴族の間で流行している、『観用少女』の専門店だ。

プライベートであれば高坂には一生縁のない店だが、新しいもの好きの主人がほしがらないはずもない。職人の最高傑作が入ったと聞けばせっせと通っているが、未だ手にすることはなかった。それは決して主人が選り好みしているから、というわけではない。

「おおっ、これはまた、美しい」

「『伝七』と呼ばれています」

「……しかし、目を開けんのう」

「美しい瞳をしているのですが、お見せできなくて残念です」

店主は眉を下げ、オーバーなほど嘆いて見せた。当の主人の方はもう慣れてしまったのか、いつものように店の少女たちの顔を覗いて歩く。誰かひとりぐらい気の変わったものはいないかと期待しての行動だが、今日も無駄足のようだ。



『観用少女』はパートナーを選ぶ。パートナーに応えて微笑み、決めたパートナーにだけ寄り添う、わがままなおもちゃだ。しかしそれが、貴族たちにとってはある種のステータスとなるらしい。

主人はどうも相性が悪いのか、どんな『観用少女』も微笑むことがなかった。金に任せて強引に手に入れることもできるが、それでは『観用少女』は枯れてしまうだけだという。確かに少女たちは一様に美しいが、高坂にはこんな手間のかかるものの何が楽しいのかわからなかった。

「おや、見慣れないのがあるな」

「ああ、そちらはちょっと訳アリで」

「訳アリ?」

「中古品、とすればいいのか、何せ主人が4回変わっていまして」

「何?それはまた不運な」

「さて、不運は一体どちらでしょう」

主人は意味深に微笑む店主を振り返った。高坂はふと好奇心を出しその『観用少女』を見る。

『観用少女』は高額である。しかしそれだけに一旦人の手に渡ると価値は下がる一方で、つい衝動で買ってしまった者が返品を望んでも買値はぐんと低くなるため、手放すにも覚悟がいる代物だ。それが4度もあったとなると、一体どんないわくがあるのだろうか。

その『観用少女』は濡れたような黒い髪を垂らし、髪が隠す頬は桃のように色づいている。まぶしいほど華やかな着物を纏い、大きすぎる椅子に行儀よく収まる姿はまさに人形だ。高坂が見ているうちに、短いまつげが縁取るまぶたが花が綻ぶように開いた。宝石をはめ込んだような瞳が高坂を見据える。

「最初の主人はとある大富豪でした。この子を自慢にしていてパーティーや集会など人の集まる場所には必ず連れていき、見せびらかして賞賛の言葉をもらうのを楽しんでいたようです。あるパーティーの晩、男はいつものように少女を自慢している最中に商売敵に毒を盛られ、そのまま帰らぬ人となりました」

つるりとした瞳には何を映しているのか、己の過去に憂いも見せない。すうとまぶたが閉じると思えば、また高坂を見ている。

「ふたり目は優秀なルポライターの女性。この子を連れて世界中を飛び回りあらゆるものを見せました。きっとこの子の見ていない世界を探す方が困難でしょう。しかし彼女は若さ故に無鉄砲と勇気をはき違えていたようです。ある国の内戦の様子を取材に行き、その花を散らせることとなりました」

高坂はそれと目が合っていることに気がついた。こんな人形が一体何を見て人を選ぶと言うのだろう。高坂が顔を背けるとその視線を追うように顔を傾ける。その先に何もないことに気づいてか再び高坂を見た。

「3人目は女の子でした。彼女は体が弱く、なかなか学校にも通えなかった為に、ご両親が友達として与えたのです。女の子はお揃いのドレスを着て、いつどんなときでも一緒でした。女の子は徐々に体も強くなり、学校にも通えることになりました。学校に行くようになっても女の子の一番の友達は変わりませんでした。毎日帰ってきては1日の報告をしている様子は大変微笑ましいものでしたが、学校にも慣れた頃、女の子は帰り道で車にはねられてしまいました。幸い命は取り留めましたが、少女と遊ぶことはできなくなってしまったそうです」

ゆっくりと瞬きをした人形は、高坂から視線を外さない。意志は感じられないのに射るような力のある瞳。高坂は知らずに唾を飲む。――不運、なのは、人形ではなく。

「4人目は?」

主人が店主に促した。高坂もそちらを見る。どこか困ったような顔で渋って見せた後、店主は決めたように笑みを浮かべる。

「4人目の主人は、ある日突然いなくなってしまいました。残ったものは『観用少女』だけ、真実は永遠に闇の中」

――『観用少女』の唇が、弧を描く。

「おや、『左近』に気に入られたようですね」

店主の笑みも、まるで人形のようであった。



*



「華やかになりましたね〜」

「冗談じゃない!」

感情のままに怒鳴りつけたが尊奈門は怯みもしなかった。適応力の高い後輩は、人形の座る椅子の前にしゃがみ込む。

「初めまして、私は諸泉尊奈門です。よろしくね、左近ちゃん」

「尊、お前引き取れ」

「無理ですね」

その人形が尊奈門を見ていたのはわずかな間で、視線はすぐに引き寄せられるように高坂に向かう。その目は高坂を苛つかせ、我ながらつまらないことをしていると思いながらも人形に背を向けた。

――あの店で、『左近』と呼ばれる『観用少女』は高坂に微笑みかけた。そうかと思えば椅子から立ち上がり、そっと近づいて高坂のスーツの裾を小さな手で掴み、じっと高坂を見上げる。何が起きているのかわからなかった高坂に、店主は嬉しそうに言ったのだ。

「今度は最後のパートナーになるといいね」

とっさに幼い手を振り払おうとしたのを止めたのは、主人の歓喜の声だった。

どんな『観用少女』の笑みも得られない主人は、とにかく相性が悪いのだろう。どうやら半ばあきらめていたようだが、運転手として着いてきただけの高坂に白羽の矢が立った。この際手元に置けるのならいいと結論を出したらしく、高坂の了承を得ないまま商談は始まり、その間『観用少女』はずっと高坂を見上げて笑っていた。



そして、その日のうちに高坂の部屋に『観用少女』のためのあれやこれが運び込まれた。要人の運転手兼ボディーガードであった高坂にとって、降って沸いた「人形の世話」とあう仕事は不本意なものでしかない。

『観用少女』の世話は簡単なもので、一日三度のミルクを与える他は、愛情を注ぐだけだ。しかしその愛情が、高坂にとっては厄介だった。餌をやるだけならまだしも、大の大人が風呂だ着替えだと人形に振り回されるなど我慢ができない。

「いいじゃないですか、給料倍になるんでしょ?」

「金をもらっても人形遊びなんてしたくない!」

「ま、殿のご命令だから仕方ないね。いいじゃない、かわいいよ」

高坂がはっとして振り返ると、いつの間にか尊敬する上司がやってきている。雑渡は無造作に抱えていたくまのぬいぐるみを左近の膝に置いた。左近は不思議そうに雑渡を見上げたが、笑みを見せることはない。

「ふうん、殿のおっしゃる通りだ。陣左、ちょっと呼んでみてよ」

「……左近」

言われるままに高坂が名を呼べば、左近はぱっとこちらに笑顔を向ける。無垢な笑みはより高坂を苛つかせるのだが、そんなことに気づくほど賢くはないようだ。雑渡は感心したように左近の頭を撫でる。

「愛してくれない男を選んでしまうなんて、今度は君が不運のようだね。」

雑渡はこの生き人形にまつわる不運の話も聞いたようだ。社交界で見せびらかすにはもってこいな話題であることには違いない。――まるで、『観用少女』自身が不運をもたらしていたかのような過去だ。

尊奈門の方は初耳だったのか、雑渡に説明を求めている。その間に左近を見れば、くまのぬいぐるみを膝から転がり落としていた。主人からのいただきものを粗末に扱うことはできない。拾い上げて改めて渡すと、きょとんと高坂を見上げる。

「大事にしなさい」

高坂の言葉を聞いて、左近はようやくぬいぐるみを抱きしめる。その笑顔を見るに、気に入らなかったわけではないらしい。

「ほう。陣左を介せばいいんだね」

「でも高坂さん近いうちに『観用少女』の呪いで死ぬんじゃないですか?」

「ばかばかしい」

「ま、何にせよしっかりお世話するんだよ」

改めて左近を見て、高坂は深く溜息をついた。



*



あたたかい。傍らのぬくもりに手を伸ばす。甘い香りに誘われて眠りから覚めた高坂の視界は、左近がほとんどを占めていた。高坂が起きたことがわかるとご機嫌ですり寄ってくる。

「はぁ……左近、毎日起こしにこなくていいんだよ……」

左近のベッドは別にある。毎晩そこで眠るのを見ているが、朝にはこうして高坂のベッドに潜り込んでいた。どう言っても左近はこの習慣をやめてくれないので、高坂はいつか寝ぼけて傷つけやしないかと気が気でない。

左近は高坂のものではない。毎日のミルクにドレス、バス用品に至るまで全て所有者は高坂の主人だ。

高坂がベッドを降りると左近も跳ね起きる。まずは左近の着替えからだ。きれいなドレスに着替えさせた後はミルクの用意。これは『観用少女』用の高級品は毎朝新鮮なものが届けられる。高坂が仕事に行っている間はメイドに任せているが、それをわからせるまでが一苦労だった。慣れるまではメイドがどんなになだめすかしても差し出したミルクに手をつけず、高坂が帰るまで1日中椅子に座って身動きすらせずにメイドを困らせていたのだ。高坂が帰るとぱっと立ち上がり、高坂が差し出してようやくミルクを口にする。そんな頃から考えれば、高坂を待たずに食事をしてくれるようになっただけで大きな進歩だ。飲まないなら好きにしておけ、というわけにもいかず、徐々に色つやの衰えていく姿に随分焦らされた。

ドアがノックされ、高坂は自分の身支度を整えながら応える。入ってきたのは、そのメイドだ。いつものように、左近のミルクと高坂の朝食を運んできた。

「高坂さんおはようございます」

「おはよう三反田さん」

「左近もおはよう」

メイドの三反田が笑いかけると左近も笑みを見せた。高坂以外に初めて笑いかけた相手は三反田だった。時間はかかったが心を開いてくれて随分と助かっている。

「パーティー、今夜ですよね」

「ああ、夕方には迎えにくるよ」

「ではそれまでに支度しておきます。左近、今夜はパーティーだからうんとおめかししようね」

大人しくテーブルについた左近にミルクを渡し、三反田は笑いかけた。くん、とミルクの匂いに鼻を近づける左近は幼く愛らしい。
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