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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.19.Sun
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2013'12.27.Fri
「あ、お父さん」

車を降りた左近の第一声に、高坂は焦って窓の外を見た。左近の家の前に車が止まり、そこからひとりの男性が降りてきたところだ。中肉中背、特に目立つところもない優しそうな男性だ。左近の父親となると黙って帰るわけにはいかない。高坂が車を降りようとすると、左近が慌てて止めた。

「でも、挨拶ぐらい」

「やめた方がいいです、絶対!」

「いずれご挨拶に伺うつもりなんだ。今日逃げるように帰って印象を悪くしたくないしね」

「変わらないと思いますけどぉ〜……」

気の進まない様子の左近を伴って道を渡る。家の前の父親は途中でふたりに気づいて待っていた。左近の父親、ということは、川西総合病院の院長だ。少し緊張しながら高坂は姿勢を正す。近づいていくと男はまず左近に顔を向けた。

「お帰り左近」

「ただいま。お父さん今日早かったんだね」

「予定が延期になってね。そちらは?」

「え〜っと」

「初めまして、高坂陣内左衛門と言います」

「家内から話だけは。失礼ですが、お勤めはどちらに?」

「お父さん!」

「失礼しました。私、人材派遣の株式会社タソガレドキ、人事部に在籍しております」

名刺を出して差し出せば彼はそれを受け取り、社名を確かめる。かと思えば携帯を取り出し耳に当てた。だから言ったのに、左近のつぶやきに首を傾げる。

「……ああ、内藤くん?派遣のさ、そう。タソガレドキから来てる子みんなお断りしておいてくれる?うん、今日限りで」

「えっ!?」

「何か言われたら私に回して。じゃあよろしく」

「ちょっ、あの」

「今まで証拠がなかったんだけど、これで忍者絡みの会社だと確定したからね」

携帯をしまった川西は人の良さそうな笑みを浮かべた。

「に、忍者とは?」

「左近とお付き合いしてるんだから忍者だろう?」

「あ……あの……」

「左近を送ってくれてありがとう。左近、きちんとお礼を言うんだよ」

「はぁーい」

家に入っていく父親を見送る左近は演技がかった返事をした。玄関のドアがしまり、呆然と立ち尽くす高坂を見上げる。

「だからやめた方がいいって言ったのに」

「……今……何が……」

「痛くもない腹を探られるのは不愉快なんですって。わざと一度中に入れてから判断するのがお父さんの趣味みたいなもので、お陰で人の入れ替わりが多くて病院大変ですよ」

「……今……えっ!?契約切られた!?」

「はい。容赦なく」

「なっ……なんでこうなると教えてくれなかったんだ!」

「お父さんの前で言えるわけないじゃないですか」

「ちょっ、ヤバい!」

高坂はばたばたと携帯を取り出し、焦る手つきで上司に電話をかける。その横で左近があ、と声を上げ、指で示されるままに振り返ると、――レッカー車。

「えっ、早っ!?え!?」

『高坂、どうした。今日は休みだろう』

「や、山本さん、今あの」

「車行っちゃいますよ」

「ま、待って」

『高坂?』

「レッカー車って初めて見ました。すごーい」

「あっ、あー!」

――後日、あんなに取り乱した高坂さんを見たのは初めてでした、と、左近は楽しげに言ったのだった。



*



「たいっへん申し訳ございません」

高坂は床に額を押しつけて、心の底から謝罪した。さすがの雑渡もいつものようにふざけることはなく、電話の相手に謝罪をしている。ひと段落ついて受話器を置いてから床に這いつくばるような高坂を見て、雑渡は深い溜息をついた。

「お前、何したの」

「名乗っただけです」

「元々試されてたわけね。まあなったものは仕方ない、あとで川西総合病院に直接行くからついておいで」

「申し訳ございません!」

「本人が出てくれるといいけど」

「申し訳ございません……」

床に伏せたまま、高坂はこのまま消えてしまいたかった。自分が消えてどうにかなるのならそれでいい。しかし事態はそう簡単ではなかった。

「山本」

「はい。資料を用意しておきます」

「そうして。全部話していくしかないだろうからねぇ。あそこの病院には後ろめたいことは何にもないから、切られちゃうと会社として困っちゃうよねぇ」

「重ね重ね、申し訳ごさまいません!」

「いいから這いつくばってないで電話の1本でも出て」

「はいっ!」

突然の契約解除にあちこちからクレームがきている。朝から鳴りやまない電話の中には関係のないいたずら電話もある。この大失態の責任をどうとればいいのかわからず、会社に駆けつけてから謝り続けている。左近にどうにかならないかと助言を求めたが、父の仕事の話ですから、とばっさり切り捨てられた。放心する高坂と別れてからさすがに心配はしてくれたのか、メールが届いたがどう返したか記憶が定かではない。

「陣左」

「はっ!」

立ち上がると雑渡の用意はできている。山本からいくつか必要な物を受け取り、ぎゅっと鞄を握った。

「……は〜、やだな〜、私仲人だってしたくないのに、何が悲しくて義理の親子の橋渡しを」

「くっ、組頭!」

「違うの?」

「あ……う……」

そうなるのだろうか。昨日見た左近の父親を思い出す。終始浮かべていた笑顔は、少なくとも怒っているようには見えなかった。まるで雑渡が飲み会を断るかのような気軽さにしか思えなかったが、あれはかわいい娘についた悪い虫への憤りを隠していたのだろうか。高坂は姉妹もなく、娘を持つ親の気持ちはわからない。しかしあれほどかわいい娘がいれば、そんな気持ちになるかもしれなかった。

川西総合病院まで足取りは重く、とはいえ、文明の利器である自動車は高坂の足取りに左右されずにアクセスを踏んだ分だけ道路を走る。いつもより速度を5キロほど落とした程度で、車は川を流れるように高坂たちを運んだ。
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