言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'12.27.Fri
「大あくび」
指摘されて左近は慌てて口を塞いだ。笑いながら隣に座った待ち合わせの相手は、そんな左近の様子を喜んでいるかのようである。
「男の前でそんなに気を抜いて大丈夫?こわぁいダーリンがいるじゃない」
「男?どこに?」
「……」
待ち合わせ相手、山崎は己を見る。清潔なブラウスにジャケット、深くスリットの入ったタイトスカート。化粧は少しきつめだが乱れはない。左近の言葉を受け、ずず、と音を立ててコーヒーをすする姿は、ひどく不満げである。
「……君の関係者で、三十路を迎えてもなお女装を強いられる気の毒な人はいるかい」
「いませんね」
「俺どう思うっ!?」
「普段よりそっちの方がいいですよ」
「……そう……」
がくりと肩を落としながらも、山崎は足を組む。ガラスの向こうを歩くサラリーマンが一瞬こちらを注視した。コーヒーショップの、窓に沿ったカウンター。こんな格好で来ると知っていれば、窓側に座らなかったのに、と左近は後悔していた。
ちょっと許して、とハイヒールを脱いで落とす彼は、馴染みのある仕事相手だ。敵か味方かを問われれば「敵ではない」、と答える他ない関係だが、彼に限らず関わるのはいつもそんな相手ばかりだった。いつ誰が敵に回るのかわからないのがこの業界である。もっとも、山崎たちが敵に回ったことはない。敵視はされども、迷惑をかけたこともないのだ。
「それより珍しいね、時間変えてくれなんて。おまけに大あくび」
「友達と遊んでたらなりゆきでオールになって」
「まぁあの人ねちっこそうだよね」
「……」
「激しいってよりしつこいでしょ?絶対むっつりスケベだよ。なぁに?朝まで離してくれなかァッイター!」
反射的に脚を蹴ると、山崎はほとんど椅子から落ちそうになる。大声で視線を集めたことに慌てて座り直すが、キッと左近を睨んだ。
「ちょっと!何すんの!」
「セクハラ!」
「はぁ?」
「山崎さんおっさん臭くなったね!」
「え?臭う?」
「そうじゃなくて!」
「あのねぇ、いつから君の相手してると思ってんの。鼻垂らしが飛ぶようにレディになるまでの時間で、俺はゆっくりおっさんになってるんだよ」
「訂正。初めて会ったときからおっさんだった」
「で?」
「何?」
「無事に高坂さんのものになったってのろけにきたわけじゃないでしょーが」
「……おっさんだよ」
左近は鞄から小さな包みを出した。ラッピングされてはいるがそれはただのフェイクで、中身はそんなにいいものではない。山崎は笑ってそれを受け取り、中を改める。確認が終われば、確かに、とジャケットの内ポケットにしまった。代わりに違うものを取り出し、左近に差し出す。それは予定にないもので、左近は首を傾げた。
「優しいおじちゃんからのお誕生日プレゼントだよ〜」
「えっ」
「あげる。きれいになったから、きっと似合うよ」
「……きしょい」
「こら!かっこよかったでしょ!」
「でももらえるものはもらっておいてあげます」
素直にそれを受け取った。包装もされていないそれは、広告を見かけて少し気になっていたグロスだ。学生が手を出すにはややためらうようなブランドだったが、くれると言うのだから断る理由はない。山崎は交換条件で何かを要求するような男ではないし、何かあったとしてそれを飲むつもりもなかった。
「それねぇ!発色めっちゃいいよ!保ちもいいし。自分の探しに行ってたんだけどこれ絶対左近さんに似合うなと思ってさぁ!超オススメ!」
「……山崎さん」
「……あ」
「もう女になっちゃえば?」
「うう……おっさん化が進むにつれ女子力も上がっていく……」
「目は肥えますからねえ」
「そーなんだよねぇ。女の子見かけても最近じゃ乳だの尻だのより先に化粧とか服に目が行っちゃって。結婚できるかなぁ」
「ホモが何言ってんだか」
「……」
「しかもドM」
「ドMじゃないよ!今度こそ別れる!あの人とは清く正しい上司と部下の関係に戻るんだからっ!」
「オフィス街ってわかっててその言い回し?」
「一緒にいても仕事!仕事!仕事!アタシと仕事とどっちが大切なのよ!」
「仕事なんでしょ」
「アタシはあの人のおもちゃじゃないのよ!」
「……」
「……はぁ」
「……気が済みました?」
「伊作くんなら乗ってくれるのにぃ」
「あいにくぼくは川西左近なので」
用事は済んだ。受け取った物を確かに鞄にしまい、左近は立ち上がる。飲みかけのカフェオレを手にすると山崎もパンプスを履き直した。ぴんと背を伸ばすと顔つきまで変わり、どこから見てもキャリアウーマンだ。その徹底的な様子に左近は顔をひきつらせる。伝子さんと気が合いそうだな、と思う。
「それではまた、ご贔屓に」
「どーも、DV彼氏さんにもよろしくお伝え下さい」
「こちらこそ、……と、こっちは不要かな」
山崎が窓の外に視線をやってにやりと笑う。それをたどれば、山崎が見ているのは黒いスーツの男性だ。ひくり、と左近は顔を引きつらせる。出かける先は伝えていなかったのに。
「であ左近さん、楽しい蜜月を!」
指摘されて左近は慌てて口を塞いだ。笑いながら隣に座った待ち合わせの相手は、そんな左近の様子を喜んでいるかのようである。
「男の前でそんなに気を抜いて大丈夫?こわぁいダーリンがいるじゃない」
「男?どこに?」
「……」
待ち合わせ相手、山崎は己を見る。清潔なブラウスにジャケット、深くスリットの入ったタイトスカート。化粧は少しきつめだが乱れはない。左近の言葉を受け、ずず、と音を立ててコーヒーをすする姿は、ひどく不満げである。
「……君の関係者で、三十路を迎えてもなお女装を強いられる気の毒な人はいるかい」
「いませんね」
「俺どう思うっ!?」
「普段よりそっちの方がいいですよ」
「……そう……」
がくりと肩を落としながらも、山崎は足を組む。ガラスの向こうを歩くサラリーマンが一瞬こちらを注視した。コーヒーショップの、窓に沿ったカウンター。こんな格好で来ると知っていれば、窓側に座らなかったのに、と左近は後悔していた。
ちょっと許して、とハイヒールを脱いで落とす彼は、馴染みのある仕事相手だ。敵か味方かを問われれば「敵ではない」、と答える他ない関係だが、彼に限らず関わるのはいつもそんな相手ばかりだった。いつ誰が敵に回るのかわからないのがこの業界である。もっとも、山崎たちが敵に回ったことはない。敵視はされども、迷惑をかけたこともないのだ。
「それより珍しいね、時間変えてくれなんて。おまけに大あくび」
「友達と遊んでたらなりゆきでオールになって」
「まぁあの人ねちっこそうだよね」
「……」
「激しいってよりしつこいでしょ?絶対むっつりスケベだよ。なぁに?朝まで離してくれなかァッイター!」
反射的に脚を蹴ると、山崎はほとんど椅子から落ちそうになる。大声で視線を集めたことに慌てて座り直すが、キッと左近を睨んだ。
「ちょっと!何すんの!」
「セクハラ!」
「はぁ?」
「山崎さんおっさん臭くなったね!」
「え?臭う?」
「そうじゃなくて!」
「あのねぇ、いつから君の相手してると思ってんの。鼻垂らしが飛ぶようにレディになるまでの時間で、俺はゆっくりおっさんになってるんだよ」
「訂正。初めて会ったときからおっさんだった」
「で?」
「何?」
「無事に高坂さんのものになったってのろけにきたわけじゃないでしょーが」
「……おっさんだよ」
左近は鞄から小さな包みを出した。ラッピングされてはいるがそれはただのフェイクで、中身はそんなにいいものではない。山崎は笑ってそれを受け取り、中を改める。確認が終われば、確かに、とジャケットの内ポケットにしまった。代わりに違うものを取り出し、左近に差し出す。それは予定にないもので、左近は首を傾げた。
「優しいおじちゃんからのお誕生日プレゼントだよ〜」
「えっ」
「あげる。きれいになったから、きっと似合うよ」
「……きしょい」
「こら!かっこよかったでしょ!」
「でももらえるものはもらっておいてあげます」
素直にそれを受け取った。包装もされていないそれは、広告を見かけて少し気になっていたグロスだ。学生が手を出すにはややためらうようなブランドだったが、くれると言うのだから断る理由はない。山崎は交換条件で何かを要求するような男ではないし、何かあったとしてそれを飲むつもりもなかった。
「それねぇ!発色めっちゃいいよ!保ちもいいし。自分の探しに行ってたんだけどこれ絶対左近さんに似合うなと思ってさぁ!超オススメ!」
「……山崎さん」
「……あ」
「もう女になっちゃえば?」
「うう……おっさん化が進むにつれ女子力も上がっていく……」
「目は肥えますからねえ」
「そーなんだよねぇ。女の子見かけても最近じゃ乳だの尻だのより先に化粧とか服に目が行っちゃって。結婚できるかなぁ」
「ホモが何言ってんだか」
「……」
「しかもドM」
「ドMじゃないよ!今度こそ別れる!あの人とは清く正しい上司と部下の関係に戻るんだからっ!」
「オフィス街ってわかっててその言い回し?」
「一緒にいても仕事!仕事!仕事!アタシと仕事とどっちが大切なのよ!」
「仕事なんでしょ」
「アタシはあの人のおもちゃじゃないのよ!」
「……」
「……はぁ」
「……気が済みました?」
「伊作くんなら乗ってくれるのにぃ」
「あいにくぼくは川西左近なので」
用事は済んだ。受け取った物を確かに鞄にしまい、左近は立ち上がる。飲みかけのカフェオレを手にすると山崎もパンプスを履き直した。ぴんと背を伸ばすと顔つきまで変わり、どこから見てもキャリアウーマンだ。その徹底的な様子に左近は顔をひきつらせる。伝子さんと気が合いそうだな、と思う。
「それではまた、ご贔屓に」
「どーも、DV彼氏さんにもよろしくお伝え下さい」
「こちらこそ、……と、こっちは不要かな」
山崎が窓の外に視線をやってにやりと笑う。それをたどれば、山崎が見ているのは黒いスーツの男性だ。ひくり、と左近は顔を引きつらせる。出かける先は伝えていなかったのに。
「であ左近さん、楽しい蜜月を!」
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