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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.19.Sun
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2012'03.10.Sat
「富松くん、あとでまたお願いしてもいいかしら」

「この間おっしゃってたやつですね、大丈夫ですよ」

食堂のおばちゃんのお礼の言葉に笑顔を見せ、三年の富松作兵衛は机にやって来た。何気なくそれを見ていた尾浜の前しか席は開いておらず、一瞬躊躇したものの失礼します、とそこに座る。あまり関わることのない三年生を思わず珍しげに見ていると、富松は箸を手にしたまま口を動かせずにいた。

「あ、ごめん。何か取ってやろうとしてたわけじゃないから、食べていいよ」

「お前どんだけ食いしん坊キャラなんだよ。しんべヱ並みじゃねえか」

「そ、そういうわけじゃ」

尾浜の隣で竹谷が笑う。誤解を解こうと慌てた富松を落ち着かせ、尾浜も食事を続けた。富松もきちんと手を合わせて食べ始める。

「ねえ、さっきおばちゃんと話してたの、何?」

「え?」

「さっき言ってたじゃん。あとで、って」

「ああ、先日おばちゃんが困っていたので、鍋の取っ手を直したんです。また別のやつが壊れたそうなので、また直すことになって。用具委員で修理は得意になりましたから」

「あー、食満先輩のとこの」

「はい」

「修理委員会」

「よっ、用具委員会です!」

「あはは、ごめん!」

「お前なぁ、後輩いないからってからかうなよ」

「竹谷は世話になりすぎだよね」

「うるせー」

「あ、生物委員から預かってた虫籠も直ってます!あとで持って行きますので」

「あ、いいよいいよ。俺今から取りに行くわ、ありがとな。いやぁ自分らで直しゃいいんだろうけど、強度が違うんだよなぁ」

「ふうん」

手放しでほめる竹谷に富松は照れて顔を赤くした。間もなく食事を終えた竹谷はすぐに立ち上がり、離れたところにいた孫兵に声をかけて食堂を出ていく。活動の忙しい委員会は大変だなぁ、などと思いながら味噌汁をすすった。唇に豆腐が触れて、そのまま口腔に流し込む。豆腐と言えばの久々知兵助も、今日は委員会活動のきりがつかないとかでまだ姿を現していない。彼が来るころには味噌汁の具が少なくなっているのではないだろうか。

「あのさぁ、用具委員って忍具の修理もできる?」

「はい、程度にもよりますが、学校の練習用の手裏剣なんかも整備していますので」

「あとでおれの持って行ってもいい?食満先輩に聞いといてよ」

「わかりました!」

明るい笑顔とはきはきした笑顔に、なんとなくこちらがむず痒くなる。三年生ってこんなに純粋だったっけ?ひと学年下の去年までの姿のはずだが、現四先生はあの頃は既にあんなキャラクターをしてた。

「うーん、そりゃ孫兵がかわいく見えるよなぁ」

「何ですか?」

「こっちの話ー」



*



「こっちは終わり!しんべヱ、喜三太、平太と三人でこれを用具倉庫に片づけてきてくれ。しんべヱがいたら三人でも運べるな?」

「はーい!お腹いっぱいなので大丈夫でーす」

「よし、頼むぞ」

「「「はーい!」」」

おや、随分と「先輩」している。そんなことを思いながら、尾浜は万力鎖を手に用具委員に近づいた。足音で気づいた富松が慌てて寄ってくる。

「尾浜先輩すみません!今日食満先輩、学園長先生とお出かけなんです!」

「あー、うん。俺も途中で聞いたんだ」

「え?それなら」

「うん、でも富松で直せない?分銅が取れちゃったんだ」

「えっ……」

鎖の先と分銅を見せると、富松は困惑したように尾浜を見上げた。富松が何をためらうのかわからず首を傾げる。

「あ……あの、ぼくが武器を預かってもいいんですか……」

「ああ、そんなことか。いいよ」

はい、とつきだせば富松は慌てて手を出した。ひと回り小さい手に己の武器を渡すと、富松はごくんと喉を鳴らした。

そんなに気を張ることないのになぁ。こちらが申し訳なくなるほど緊張を見せられて尾浜は苦笑する。

「富松は真面目だなぁ」

「でも、その……食満先輩はご自分で手入れをなさるので」

「それは自分でできるからでしょー。自分でやろうにも道具もないし、こんな職人技芸おれは持ってないもん」

「でも、もしちゃんと直らなかったら」

「直るまでやってよ」

「……はぁ」

その声に力はない。どうしたものかと考えているところに、騒ぎながら一年生たちが戻ってくる。

「あー、尾浜先輩だー」

「尾浜先輩こんにちはー」

「何かご用ですか……」

「俺の武器修理してもらおうと思ったんだけど」

やっぱり食満先輩に頼むね、そう尾浜が言うより早く、一年生たちが目を輝かせる。

「これなんて言う武器ですかー!?」

「どうやって使うんですかー!?」

「触ってみてもいいですか?」

「ナメクジさんは」

「ナメクジ触った手では触るなよ」

「え〜」

「富松先輩が直すの見ててもいいですか?」

「ええっ?」

平太に袖を引かれ、富松は弾かれたように顔を上げた。万力鎖を手にしたまま驚いた顔の平太を見て、それからゆっくり尾浜を見る。どうするのだろうと黙っていると、ぐっと鎖を握った。

「わ……わかった!でもちょっと離れてろよ!」

「はーい!」

「おっ、頼んだぞー」

「うっ……」

笑いかけると富松はうなったが、すぐに準備に取り掛かった。修理していたらしい道具のそばには使いこんだ鍋があり、これが件の依頼の物なのだろう。直したあとなのか、どこが壊れていたのかわからない。

道具を手にして集中している富松を一年生たちと一緒に眺めながら、尾浜はその真摯な瞳に懐かしくなった。ひとつずつ、何かができるようになるのは面白い。誰かの成長を見るのも、きっと楽しいことだろう。

「富松先輩すごいなー」

「しんべヱたちだってできるようになるさ」

「なれるかなぁ」

「でっ、できました!」

「おー!ありがとう!」

富松に差し出された万力鎖を受け取って、距離を取ってくるくると回してみる。力を入れても分銅は落ちることはなさそうだ。

「助かったよ。明日手ぶらで実習行くところだった」

「えっ!」

「まぁなくてもいいんだけどさ、俺の場合半分お守りだし」

「お守り?」

「暗器なんて大体お守りだよ」

「……あの、今度、使い方教えてもらってもいいですか」

「ん?いいけど、何で?」

「……何ができるのか、わからなくて」

ああ、そうか。鎖をしまいながら富松に近づき、ぐいとその頭を撫でてやる。彼は来年、委員長代理になるのだ。

「いいよ、約束ね」

「あっ、ありがとうございます!」

無垢な姿を見ながら、思わず用具委員に入ろうかしら、などと思ったのは内緒だ。彼の思いに水を差すような真似はできない。

「おれさぁ、修理委員会でもいいと思うよ」

「え?」

「作るより、修理した方が早いだろ。忍者はきっとその方がいいよ」

「……そう、ですね」

複雑そうに、それでも富松は笑顔になった。
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