言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2012'03.10.Sat
「竹巳、もう寝ろ」
「……でも」
今にも泣きだしそううな声に、三上は頭を抱えたくなった。ああくそ、かわいいな。溜息をつくと何を思ったのか、竹巳は慌てて立ち上がった。
「邪魔でしたよね!すみません」
「あー、そうじゃない」
昼間働いていた姿のままの竹巳を見る。この三上屋へ奉公に来たばかりの頃から考えると、竹巳は随分たくましくなった。昔はいつもこんな風に情けない顔をしていたようい思う。それでも音を上げずに体で追いつき、今ではいなくては店が回らないほどよくできた奉公人である。
今、竹巳の心を占めているのは一匹の猫だった。
三上屋は反物を扱っている。拾われてきたときは飼うことになるなどと思ってはいなかったが、竹巳が執心と見て、彼を気に入っている旦那、三上の父親があっさり許したのだ。幸いなことに賢い猫であり、おまけに狩りもうまいのでネズミが減った。
その猫が夕方から姿を見せず、食事時にも表れない。店先から家の奥まで探し回り、挙句床下まで入って探したが見つからなかったようだ。カラスに襲われたり、子どもにいじめられたりしていないだろうか。誰かが漏らしたそんな言葉を聞いてから、竹巳はずっとこんな調子で夜になっても閉めた店先でしゃがみこんでいた。
竹巳は道の向こうをじっとみた。昼間は賑わう場所も人の姿はなく、明かりもない様子は別の何かが出てきそうな不気味ささえ感じる。
「お前が風邪ひいたらつまらんだろうが」
「でも、墨雪が帰ってきたら開けてやらないと……」
「猫なんだ、どこからでも入ってくるだろ」
「……そう、ですよね……」
竹巳の不安をぬぐい去ってやれるようなことが言えればいいのだろうが、何も言葉が出てこなかった。客相手の駆け引きでも、女を口説くときでもこんなに言葉が出ないことはない。三上から言葉を奪うのは、竹巳だけだ。どうすることもできず、三上はただ隣に立ちつくした。
夜風は冷たい。竹巳が動かないのを見て、溜息をついて引き寄せた。変な声を上げるのにも構わず冷えた体を抱き込み、羽織で包んで体を寄せる。
「わっ、若旦那!」
「猫が戻るまでこうしてやる」
「わ……わかりました!戻ります!戻って寝ます!」
「いいよ」
「戻りますッ!」
「チッ」
体温が逃げていくのを名残惜しく思いながらも、暴れる竹巳を手放した。この程度の抵抗で引く三上を見れば、昔からの悪友が見れば笑うだろう。
「明るくなったら一緒に探しに行ってやる」
「……ありがとう、ございます」
「起きれるかと思ったろう」
「いえ、そんな」
「起こしに来い」
ちゃんと寝ろよ、と声をかけて自室へ向かう。足取り重く部屋へ戻って行く竹巳の背中に、深く溜息をついた。――猫に嫉妬することになるなんて考えたこともない。俺が黙っていなくなったら探してくれるだろうか、などとつまらないことを考えながら部屋に入り、……そして肩を落とした。なんだそりゃ。
三上の布団の上で眠るのは、白い体に墨を落としたようなぶちのある猫だった。
「……でも」
今にも泣きだしそううな声に、三上は頭を抱えたくなった。ああくそ、かわいいな。溜息をつくと何を思ったのか、竹巳は慌てて立ち上がった。
「邪魔でしたよね!すみません」
「あー、そうじゃない」
昼間働いていた姿のままの竹巳を見る。この三上屋へ奉公に来たばかりの頃から考えると、竹巳は随分たくましくなった。昔はいつもこんな風に情けない顔をしていたようい思う。それでも音を上げずに体で追いつき、今ではいなくては店が回らないほどよくできた奉公人である。
今、竹巳の心を占めているのは一匹の猫だった。
三上屋は反物を扱っている。拾われてきたときは飼うことになるなどと思ってはいなかったが、竹巳が執心と見て、彼を気に入っている旦那、三上の父親があっさり許したのだ。幸いなことに賢い猫であり、おまけに狩りもうまいのでネズミが減った。
その猫が夕方から姿を見せず、食事時にも表れない。店先から家の奥まで探し回り、挙句床下まで入って探したが見つからなかったようだ。カラスに襲われたり、子どもにいじめられたりしていないだろうか。誰かが漏らしたそんな言葉を聞いてから、竹巳はずっとこんな調子で夜になっても閉めた店先でしゃがみこんでいた。
竹巳は道の向こうをじっとみた。昼間は賑わう場所も人の姿はなく、明かりもない様子は別の何かが出てきそうな不気味ささえ感じる。
「お前が風邪ひいたらつまらんだろうが」
「でも、墨雪が帰ってきたら開けてやらないと……」
「猫なんだ、どこからでも入ってくるだろ」
「……そう、ですよね……」
竹巳の不安をぬぐい去ってやれるようなことが言えればいいのだろうが、何も言葉が出てこなかった。客相手の駆け引きでも、女を口説くときでもこんなに言葉が出ないことはない。三上から言葉を奪うのは、竹巳だけだ。どうすることもできず、三上はただ隣に立ちつくした。
夜風は冷たい。竹巳が動かないのを見て、溜息をついて引き寄せた。変な声を上げるのにも構わず冷えた体を抱き込み、羽織で包んで体を寄せる。
「わっ、若旦那!」
「猫が戻るまでこうしてやる」
「わ……わかりました!戻ります!戻って寝ます!」
「いいよ」
「戻りますッ!」
「チッ」
体温が逃げていくのを名残惜しく思いながらも、暴れる竹巳を手放した。この程度の抵抗で引く三上を見れば、昔からの悪友が見れば笑うだろう。
「明るくなったら一緒に探しに行ってやる」
「……ありがとう、ございます」
「起きれるかと思ったろう」
「いえ、そんな」
「起こしに来い」
ちゃんと寝ろよ、と声をかけて自室へ向かう。足取り重く部屋へ戻って行く竹巳の背中に、深く溜息をついた。――猫に嫉妬することになるなんて考えたこともない。俺が黙っていなくなったら探してくれるだろうか、などとつまらないことを考えながら部屋に入り、……そして肩を落とした。なんだそりゃ。
三上の布団の上で眠るのは、白い体に墨を落としたようなぶちのある猫だった。
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