言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'02.06.Wed
「高坂さん、今夜飲みに行きませんか?」
「あ、先約があるから」
会社内の女子社員の中でひそかに行われていたイケメン番付でナンバーワンを獲得したのは、高坂陣内左衛門という男だった。人当たりもよく、営業成績もいい。学歴も申し分なく、家もそれなりに裕福であるらしい。さっさと結婚して家庭に入りたい女性社員から見ると最良物件で、当然ながらアプローチも少なくない。しかし高坂がその誘いに乗ることはなかった。毎日ほぼ定時できっちり仕事を終えて、残業がつきそうな日は朝早くから出社する。上司に飲みに誘われてもめったに付き合うこともなく、この男が毎日時間通りに動くのは、当然ながらわけがあった。
「左近さんっ!お疲れ様です!」
「お疲れ様です」
タイムカードを切ったあと、高坂が顔を出したのは別の部署だった。ノートパソコンを閉じて顔を上げた左近と目があい、高坂はにこりと笑うが左近の方は無表情だ。とても歓迎されているようには見えないが、視線を合わせてもらえるようになるまで半年かかったのだから上等だ。眼鏡を外して帰り支度をする左近を、高坂はにこにこと待っている。
「高坂さんもこりませんねー。どこがいいんですか、あんなブス」
「君には左近さんの魅力がわからなくてけっこう!」
「あ、そーですか」
「三郎次、今朝渡した書類今日中だからな」
「はいはい、わかってますよ。さっさと帰れ」
「言われなくても帰ります」
もう何年使っているのかわからないバッグを手に左近が立ち上がり、タイムカードを切る。同僚にもう一度くぎを刺して、左近は職場を出た。左近が先に行ってしまうのももう慣れたもので、高坂は数歩で追いついて隣を歩く。
「鞄持とうか?」
「いいです。自分で持てますから」
「お腹すいてないかい。どこか寄らないか」
「いいえ。実家ですから、家で食べます」
「……あれ、何」
高坂と左近が歩く姿を見た女子社員は顔をひきつらせた。会社で一番のイケメンが、会社で一番地味な女にくっついて歩いている。
「ああ、まだ見たことなかったの?」
「は?」
「あれ、高坂さん毎日やってる」
「はぁ!?」
「じゃあ左近さん日曜日は?よかったら映画でも一緒に行かない?」
「今興味のある映画がないので」
「映画じゃなくてもどこか一緒にどう?」
「どうといわれても、あなたと行きたいところなんて特にありません」
「……イケメン番付の次点、誰だけ?」
「不運の塊、善法寺さん」
「この会社の男はみんな顔だけか!」
「さっ、合コンいこ合コン!」
そんな女子社員のやり取りを知ってか知らずか、高坂は駅までずっと左近に話しかけては冷たい返事を返されている。しかし高坂はずっと幸せそうな笑みだ。
「あ、そうだ、よかったら家まで送ろうか」
「結構です。高坂さん逆のホームじゃないですか」
「もう少し一緒にいたいんだけどな」
「明日も仕事なんですからまっすぐ帰ったらどうですか」
左近が改札にかざしたICカードがピッと鳴り、その瞬間だけわずかに高坂は顔を曇らせる。しかしすぐに左近に続いて自分もカードをかざして改札を通った。ホームをわける階段の前で、左近がいつものように待っている。
「ではここで」
「帰り道気を付けてね」
「駅につけば徒歩5分ですから。お疲れ様でした」
「お疲れ様」
くるっと踵を返して階段を上がる左近の後姿をしばらく追い、高坂も背を向けて階段を上っていく。ホームに上がり、電車の進行方向へ向かう。先頭車両の乗り口に立つ。正面を向くと、向こうのホームに左近がいる。文庫本に視線を落としている彼女の姿に、自然とほおが緩んだ。ホームに音楽が流れる。先に電車が来るのは向こう側のホームだ。左近が顔を上げる。まっすぐ高坂を見て、
「また明日」
電車が走りこんできて左近の姿を隠した。電車の中は人であふれていて左近の姿は見えなかったが、電車の走り去った後のホームには誰も残っていなかった。
「左近さん、また明日」
「あ、先約があるから」
会社内の女子社員の中でひそかに行われていたイケメン番付でナンバーワンを獲得したのは、高坂陣内左衛門という男だった。人当たりもよく、営業成績もいい。学歴も申し分なく、家もそれなりに裕福であるらしい。さっさと結婚して家庭に入りたい女性社員から見ると最良物件で、当然ながらアプローチも少なくない。しかし高坂がその誘いに乗ることはなかった。毎日ほぼ定時できっちり仕事を終えて、残業がつきそうな日は朝早くから出社する。上司に飲みに誘われてもめったに付き合うこともなく、この男が毎日時間通りに動くのは、当然ながらわけがあった。
「左近さんっ!お疲れ様です!」
「お疲れ様です」
タイムカードを切ったあと、高坂が顔を出したのは別の部署だった。ノートパソコンを閉じて顔を上げた左近と目があい、高坂はにこりと笑うが左近の方は無表情だ。とても歓迎されているようには見えないが、視線を合わせてもらえるようになるまで半年かかったのだから上等だ。眼鏡を外して帰り支度をする左近を、高坂はにこにこと待っている。
「高坂さんもこりませんねー。どこがいいんですか、あんなブス」
「君には左近さんの魅力がわからなくてけっこう!」
「あ、そーですか」
「三郎次、今朝渡した書類今日中だからな」
「はいはい、わかってますよ。さっさと帰れ」
「言われなくても帰ります」
もう何年使っているのかわからないバッグを手に左近が立ち上がり、タイムカードを切る。同僚にもう一度くぎを刺して、左近は職場を出た。左近が先に行ってしまうのももう慣れたもので、高坂は数歩で追いついて隣を歩く。
「鞄持とうか?」
「いいです。自分で持てますから」
「お腹すいてないかい。どこか寄らないか」
「いいえ。実家ですから、家で食べます」
「……あれ、何」
高坂と左近が歩く姿を見た女子社員は顔をひきつらせた。会社で一番のイケメンが、会社で一番地味な女にくっついて歩いている。
「ああ、まだ見たことなかったの?」
「は?」
「あれ、高坂さん毎日やってる」
「はぁ!?」
「じゃあ左近さん日曜日は?よかったら映画でも一緒に行かない?」
「今興味のある映画がないので」
「映画じゃなくてもどこか一緒にどう?」
「どうといわれても、あなたと行きたいところなんて特にありません」
「……イケメン番付の次点、誰だけ?」
「不運の塊、善法寺さん」
「この会社の男はみんな顔だけか!」
「さっ、合コンいこ合コン!」
そんな女子社員のやり取りを知ってか知らずか、高坂は駅までずっと左近に話しかけては冷たい返事を返されている。しかし高坂はずっと幸せそうな笑みだ。
「あ、そうだ、よかったら家まで送ろうか」
「結構です。高坂さん逆のホームじゃないですか」
「もう少し一緒にいたいんだけどな」
「明日も仕事なんですからまっすぐ帰ったらどうですか」
左近が改札にかざしたICカードがピッと鳴り、その瞬間だけわずかに高坂は顔を曇らせる。しかしすぐに左近に続いて自分もカードをかざして改札を通った。ホームをわける階段の前で、左近がいつものように待っている。
「ではここで」
「帰り道気を付けてね」
「駅につけば徒歩5分ですから。お疲れ様でした」
「お疲れ様」
くるっと踵を返して階段を上がる左近の後姿をしばらく追い、高坂も背を向けて階段を上っていく。ホームに上がり、電車の進行方向へ向かう。先頭車両の乗り口に立つ。正面を向くと、向こうのホームに左近がいる。文庫本に視線を落としている彼女の姿に、自然とほおが緩んだ。ホームに音楽が流れる。先に電車が来るのは向こう側のホームだ。左近が顔を上げる。まっすぐ高坂を見て、
「また明日」
電車が走りこんできて左近の姿を隠した。電車の中は人であふれていて左近の姿は見えなかったが、電車の走り去った後のホームには誰も残っていなかった。
「左近さん、また明日」
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