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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.19.Sun
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2007'02.22.Thu
「おとといきやがれ!」



女の悲鳴が聞こえて慌ててそっちへ走る。幾人かの女たちを前に沖田がふんぞり返っていて、彼女たちの不満の表情に慌てて間に割り込んだ。私服の沖田は隊士に見えないため、女たちは下っ端に偉そうな態度を取られたと思っているのだろう。しかし実際は隊内で1、2を争う実力の持ち主であるから、彼を怒らせては無傷で帰れない者が出てもおかしくない。



「やあやあ姉さん方、今日はいつもよりぐっと別嬪だねえ。こんなむさ苦しいところに何の用ですかい、品位が落ちちまいますぜ」

「トシいるんでしょ、呼んできてちょうだい!」

「おや、副長にご用で?悪いけど今は市中見廻り中なんですよお、お帰りはお店へ寄るとおっしゃってましたよ。早く帰らないとすれ違いになるかもしれない」



暴れようとする沖田を抑え込むのと同時に恐ろしい姉さん方を追い返す。

隊切っての色男・土方にこんな客は多い。そのたびに誰かしらこんな被害を受けるので、基本的には山崎が相手にすることにしている。



「お前はあの助平甘やかしすぎだ!」

「俺は音便に済ませたいんです」

「どいつもこいつもペコペコしやがってよお、副長様がそんなに偉いかっつの」

「……あんたの態度の方がえらせそうですよ」

「あ?」

「何でもないです」



怒りながら彼が行ってしまってからも、脳裏にはふんぞり返った沖田のイメージが残る。山崎はどっしりと重い溜息を吐き出した。



「どいつもこいつも、ふんぞり返ってりゃいいんだから楽ですよね」



人の気も知らないで。苦労人は溜息を吐いた。
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2007'02.06.Tue
ふっと目を覚ますと顔をの横に人が座っていた。悲鳴を上げそうになるのをその人物が押さえ込む。泣きそうになっていると俺ですよ、と静かな声がした。冷静になってみると山崎だ。おどかしやがって、と照れ隠しをしてみるものの、山崎が平静すぎて何も言えなくなる。



「今日ぐらいは、甘えてもいいんですかね……」

「は?」

「誕生日なんですよ」

「……いいんじゃねえの」

「では失礼して」



布団にもぐりこんでくる山崎を大人しく受け入れる。何もしないでいると腕の間に入ってきた。いつからそうしていたのか知らないが、体がすっかり冷えている。



「……ちょっと待て、今日ってどっちだ?」

「あー、昨日かもしれないです」

「そうか……」



肩を抱いてやると丸くなった。ときどき子どもみたいになるこの男は、今年で幾つなのだろう。しかし何をするでもなく眠る体勢に入っている山崎は、もう寝ているのかどうか判断できずに声をかけられない。寝て乱れた胸を山崎の髪がくすぐる。一緒に寝ることは珍しい。自分から言い出したとなれば、それは確かに甘えていることになるだろう。幼い頃に父親を亡くしてから母は働きづめで、こうして誰かと一緒に寝たことはあまりないといつか呟いたことがある。



「……副長、寝ました?」

「いや」

「土方さん、俺ァ、……何か、言おうと思って忘れてしまった」

「思い出すまで待つ」

「……甘やかされちまうなあ」

「簡単な奴だなあ」



何もできなくて抱きしめてやる。動物的な仕草で甘えてくる山崎を、時々本当に動物扱いしてはいないか心配になる。誰かを甘やかした経験がないのはこちらも同じだ。どうすることが甘やかしてやることなんだろう。優しく、こうしているだけでいいのか自信がない。

不器用だ。自分も山崎も、そんな言葉で片付けられればいいのに。

不意に山崎がむくりと顔を上げる。見下ろされて髪が土方の頬を撫でたかと思うと唇に触れてくる。まぶたと額に続いて触れた。



「……なんもしないんですか」

「してほしいのかよ」

「甘えに来てるんだから大人しく甘やかしてくれればいいんですよ」

「……じゃあお望み通り、大人しく甘やかされてろよ」



馬鹿だな。お互いをあざ笑いながら、起き上がって山崎を布団に押し付ける。可愛いとか、守ってやりたいとか、そういう生き物じゃない。相手は成人した男だし、自分の身も守れないほど弱くない。

それでも、それでも。欲しいと思うのは何故だろう。
2007'01.18.Thu
ふたりでいたらどうにかなったと思うか?



聞き間違いだと思った。沖田が殺気立つのを感じてか、土方は少しだけ振り返った。引き延ばすように、煙草を落として踏みつける。



「遅い」

「……そうだな」

「今更そんなこと言うな!」

「そうだな…」



風で灰が舞い上がった。煙草や線香の灰が風の中で踊り出す。視界をよぎった落ち葉がくるりと円を描いた。



「……俺の生まれたところは、墓前で舞をやるんだ。お袋は踊り手だった」

「何の話を」

「墓の前で微笑んで舞うなんざ、狂ってるようにしか見えねなくて」

「……」

「そのせいかな、俺はよくわかんねえよ。墓ってのは何のためにあるもんだ?」



大切にしやしなかったけど、大切なものだった。小さな石に預けた命を振り返る。守ってきたつもりのものを、最後まで守れていたのか自信がない。



沖田は初めて気づいた。自分は狂った舞いをしていただけで、初めから土方の目に入っていなかったことを。
2006'11.26.Sun
竹刀を構えて前を見据える。敵は、誰だ。一瞬見えたのは自分の姿だった。



「あんたは準備してたんですね」



夜空に向かって煙を吐く。こいつが気配を消さないのは珍しい。竹刀を降ろして振り返り、不満そうな顔に投げた。容易にそれを受け止めた山崎は何も言わない。



女がひとり、死んだだけだ。それも死ぬとわかっていた女が。昔から女運は悪い。



煙草を吐き捨て踏みにじり、夜の風に向かって構えた。自己流で覚えた剣の型は、あの頃と変わっていない。女が見ていたあの頃と。いつになく感情が揺れる。



準備していた。死ぬのはわかっていたから。予想より少し、早かっただけで。



「ババアになるまで生きてりゃ、」

「……嫁にでもしましたか」



ほしくなっただろう。見えない剣を、振り下ろす。
2006'11.11.Sat
やっぱり柿はここだろう。



塀を登って柿の木に乗り移る。庭に誰か見えたが気にしない。



「またやってんのかクソガキ。猿みてぇにひょいひょい登りやがって」

「あんた怒んねえから張り合いねえんだよなぁ」



縁側から沖田を見上げてくる老人を見た。赤ら顔で頭ははげ上がっている。耳の後ろに残った髪が思い思いに泳いでいてタコかカニのようだ。



この柿の木の持ち主はひとりで住んでいる。この季節になると沖田が木に登っては柿を取りにくるので顔見知りだ。足場のない塀に登れる者はあまりいないので、ほぼ沖田専用になっている。



「投げろ」



食べ頃の柿を選んで投げてやる。受け損ねて禿頭に当たって地面に落ち、沖田は笑った。呆れて柿を拾う老人を見ながら自分も柿にかぶりつく。



「老人バカにしてると罰当たるぞ」

「さるかに合戦の猿みたいに?」

「テメーみたいなバカでも知ってんのか」

「そこまでバカじゃねーや」



柿を更に幾つか投げてやる。それは全部彼めがけて投げたので、すべて頭にぶつかった。また沖田がけらけら笑ったが、老人は溜息を吐くだけだ。



「ここの柿も食いおさめだな。俺ァ冬越えたら江戸に行くんでィ」

「まだそんなこと行ってんのか」

「ちゃんと近藤さんと約束したんだぜィ」

「寂しくなるな」



食べかけの柿を手にしたまま沖田は動きを止めた。老人はそれきり黙って柿を食べている。



柿を幾つか懐にしまい、沖田は塀に戻った。少し視線を寄越しただけの老人と目を合わせ、何も言わず立ち去る。



幾つ取っても文句を言わない。沖田は彼がどんな人物か何も知らなかった。



*



故郷へ戻ったとき、柿の頃であるのを思い出して足を運んだ。塀には簡単に手が届くようになっていたが、そこに柿の木はなかった。塀の向こうからは子どもの笑い声がした。



沖田が来なくなった年の秋に切り倒し、次の秋までに倒れたと聞いた。



猿に柿でも投げつけられたのだろう。柿の味は忘れたのに、投げたことだけは覚えている。
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